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われら人の積む限り...

 俺は山積みの本に今日も細工する。年末になるとベスト10だ100だと奴らは珍しく整頓なんてしようとしやがるから、積み直して編み物や鋳物を作る俺達も忙しくなる。幾つもの傾いた本の山。知識欲と学習欲、打ち続ける未来への希望、布石としての未読状態が未来の香りを閉じ込めるカプチーノの泡みたいになって、体系、叙情、詩歌、分析を一面を埋め尽くす夕霧草の綿雲となって柔らかに背表紙を包む。

 主が中身を見たのはたった20%ほどで、前の主はもっとひどくて5%ほど。奴らの世界の殆どの文字は空気に触れることなく生まれたままの姿で綴じられている。俺たちは各々、主が気づくように細工をする。例えば同じ本が二冊あったら気付けるように位置を変えるし、過激派組織の指南書や実験的文書が集結して異臭を放たぬようにする。それか悲恋を集めて編んで、くすんだブリキ缶のブルーに変える。細工がなければ人間たちは、書物の知識を保てない。俺たちの細工の美こそが、奴らの欲求が腐り落ちて道を塞ぐのを防いでる。

 イギリス人が注目したせいで、本の山はTsundokuなんて名前を与えられて有名になり、俺達は世界各国で働かなきゃいけなくなった。同郷の友も3割くらいが海外に行ってる。身体に入らぬ知識を全部、やつらは床に積み上げる。本の奴らに聞いてみると「読まれないのが本来です」なんて伏し目がちに言うんだから分からない。しかしその御蔭で俺たちは、細工を仕事に生きていける。

 俺は密かに積み直す。奴らが計算を発明する遥か前から、俺達は検索目録を編んでんだ。里で一番上手だったばあちゃんが編んだ積読籠、それは今でも部屋の隅に残ってて、サイコな奴らの著作を固めた昏い気色が、薄い新書らを威嚇する。

 午前いっぱいでクリスマス・キャロルに飛ぶ教室、O・ヘンリーを上に積み、主によく見えるようにする。ページを捲りもしないのに、忘れて同じのを買ってこられると、調和が崩れて大変だから。
「この里にも、電子転送装置が来るって。私、一人目として行くことになった」
「あの野郎、電子版だと読みづらいと言ってたのに」
「セールで山程買ったらしいよ。5割も6割も安いって。紙と同じ本も沢山ね。検索目録も自動でつくから、仕事はそう多くはないみたい。電子の世界では、同じ本2つは積まれないから、その点も楽らしいの」
「なあ、でもよ。次に装置が来るまでずっと、話せないじゃんよ。何年も、先なんだろ」
「本に頼めば話せるよ。ここに山程積まれた本と、電子の世界で同じ本があれば、言葉にしるしをつければ、本がそれを伝えてくれる。そろそろ転送が始まる。行かなくっちゃ」

 気配が失せる。電子の世界も幾つかあるから、裁断本なんかは大変だと友が嘆いていたのを思い出す。寂しくなるな。昔から好きだったアイツと離れるのは。俺が動揺すると、つられて積読がぐらりと揺れる。アイツと話すための、同じ本は幾つありやがる。声を張って本たちに聞いた。"トマス・アクィナス『神学大全』"これじゃあ好きを伝えられん。"人類はどこへ行くのか" 知るか。お前らが積む限り、俺達はついていく。ああ、愛の言葉を刻んだ書籍を、もっと主に買わせなければ。ひとまず小説を並び替えよう。主が買ったことを忘れ、アイツの所に俺との共通の言葉を届けてくれるように。

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