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別の星なら、この恋は

 古に、球状の生命を伴ってふたつの植物が飛来した。雄は落葉樹に、雌は常緑樹に生きる。春、雄は淡緑の網目を揺籃とし、秋には柔らかな鋸歯の淵で一生の決意をする。
 1秒。
 雄たちに与えられた。地球におけるついらくの時間。常世の葉で幸福を謳歌する清廉な乙女たちは、自ら飛ぶことはない。
 今、一枚の落葉で、ひとりの乙女も見ぬまま雄たちが死んだ。秋に葉が悲痛にささめくのは、彼らが恐れて震えるからだ。
 突風が抜け、ひとりの乙女が落下する。
 幾千の雄たちは一斉に飛ぶ。
 1秒で、あらん限りの愛をテレパスに込める。
 乙女がある雄を受け入れ、幾万の卵が飛散する。
 もし月に飛来していれば、2.5秒は恋ができた。

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