建築家の勘違い。論より情緒。
新しい経験は、新しい学びを与えてくれる。僕は昨年からwe know enough< というアウトドアブランドを立ち上げ、プロダクトの企画・デザイン、広報、販売、商品管理まで一貫して行っている。これらの経験は、これまでの建築家・デザイナーとしての知識や経験では気づかなかったことを、色々と教えてくれる。
その一つが「情緒的アプローチ」の大切さかもしれない。
論より情緒
僕たち建築家は良くも悪くも、物事を論理的に考えがちだ。むしろそうあるべきだと教わってきた。しかし、人は良くも悪くも、そんなに物事を深く考えていない。論理的に意思決定をしているわけでもない。
少なくとも日常の生活においては、消費しきれない量のモノや情報に触れ暮らしている。触れたひとつひとつのモノゴトに対して、いちいち思考を巡らせたりはしないし、出来ない。その中から自分の琴線に触れたものに対してだけ、一歩前に進み、興味を持ち、理解しようとしたり、何かしらのアクションが行われる。
では、どんなモノゴトが琴線に触れるのか。それはわからない。ただなんとなく興味を持ち、なんとなくクリックしてしまう。おそらくそこには明確なロジックも理由も存在しない。人はもっと感覚的に過ごしているし、よく考えたら自分だってそうだ。
なぜ僕は今朝、スタバのコーヒーを選んだのか。ドトールやコンビニコーヒーにする時もある。でも今日はなんとなくスタバにした。ちょっと気分も良く、清々しい朝だったからか。スタバのおしゃれな雰囲気、世界観を体感したくなったのかもしれない。ドトールの雰囲気だとちょっと気分が下がってしまうかもしれない。なんとなくそう思ったのかもしれない。(ドトールの人ごめんなさい。)
というようなことを、自分たちの商品が一般の方から選ばれる立場になり、ようやく情緒的な判断の重要性について、体感し理解できるようになった。
商品のコンセプトや機能性、付加価値、他者優位性なども伝えることは、もちろん大切だ。だけどそれだけでは不十分なのだ。その商品を使うとどんな気分になれるのか。どう高揚感をえられるのか。なぜかっこいいのか。おしゃれなのか。などの情緒的なイメージを論理的な価値以上に伝えてあげる必要がある。
建築の現在地
これらの事は、建築家・デザイナーとしての活動だけだったら、情報として知っていても、きちんと理解できていなかったと思う。それは僕だけでなく、他の建築家たちも同じなのではないだろうか。
そして、もしかしたら、多くの建築家はこう思っているかもしれない。
それは商業やプロダクトやサービスの世界の話でしょ?建築の世界はあまり関係ないんじゃない?と。
残念ながらそんなわけはない。年々、人々はモノや情報の表層だけをすくい取り、受け流すようになっている。そういった社会に変化している中で、人々は、建築だけ、空間だけに足を止め、思考を巡らせてくるだろうか?
一般の人々にとっては、建築はそんなに崇高なモノでもない。建築もファッションも広告もtiktokのショート動画もどれも同じ。日々流れてくるモノや情報のひとつにすぎない。という、悲しくも残酷な現実と、我々建築家は今一度きちんと向き合うことが大切な気がする。
建築家のホテルは物足りない
建築家はすごく大変で、社会的にも価値の高い仕事だと思う。敷地、環境、歴史、社会性、時代性、お金、法律。ありとあらゆる側面から検討し、多くの関係者と調整しなければ建築は生まれない。
だからこそ、建築家はロジカルに空間を作る。むしろロジカルでなくてはならない。そうでないと意思決定が出来ない。なぜこうなのかを周りに説明しないと、多くの関係者が動いてくれないし、混乱してしまう。
しかし、その代償として、パッと心が動く様な情緒的な空間は作れない。建築家などの専門家同士や、感性の高い人には理解出来る、高次元なデザインは作れるかもしれないが、実際にその魅力や価値は、その他9割以上の一般の人には、味気ない空間だったり、よく分からなかったりする。
建築家がデザインするホテルが、少し物足りなく感じるそれと一緒だ。
現代は、SNSが影響力を左右する時代だ。9割の人の心を掴めないというのは致命的ではないだろうか?論理的に作り、専門家同士の評価だけに目を向けていては、世界が広がらない。
僕は建築家の作り出すモノの魅力や価値を信じている。本質的にはきちんと価値のあるものなのに、それがきちんと人に届かないのはもったいない。価値や魅力は、人に届いて初めて価値になる。分かってくれ。察してくれ。は無しだ。
我々建築家たちは、建築の魅力や価値をわかりやすく、一般の人に伝える努力が足りていない。だから、現在の建築家の社会的な価値、影響力が、年々落ちてきているのだと思う。
情緒的アプローチのすすめ
デザインのプロセスとして、論理的に構築していくことは大賛成だし、僕もそうしている。しかし、そこで一歩立ち止まり、そこに訪れる人々がどう感じるか、どういう気分になるだろうか?と、情緒的に想像を巡らせるようにしてほしい。そして、論理的に伝えるだけでなく、もっと情緒的に伝える努力もしてほしい。
「論理と情緒」を行き来することで、建築の本質的な価値が、より多くの人々に届き、建築家の社会的な役割も広がっていくはずだ。
と僕は信じているし、そんな建築家になりたいなと、アウトドアブランドを始めたことによって、気付かされた。そして、デザインに対する考え方も広がり、建築家としても一歩成長できた気がする。
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