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デキる組織の人事には、水を運ぶ人がいる。

コップに水が半分入っているとき際に、「半分も入っている」と言うか「半分しか入っていない」と言うか。事実は「半分入っている」だけなのに、言い方によって聞く側の印象は変わる。

人事評価面談の際に、似たようなことが起きていないだろうか。本人は「これだけやりましたよ」と主張するものの、マネジャーは「これだけしかやっていないでしょ」とフィードバックする。何が期待値なのかを事前に合意していないと平行線をたどってしまうことになるのだ。まさに、前回投稿した合意なき期待値の典型的な例だ。

さらに、その面談の場で随分以前の行動に対して改善点の指摘をしたとしても、「今更言われても……」となりかねない。評価面談だけがフィードバックの場というわけではないのだ。

そう考えると、人事評価の制度が導入されたり、整備されたり、ということだけで組織運営がうまくいく、とは考えにくい。現実には上司部下の信頼関係、その中で合意する期待目標、期中の支援や指導、フィードバックのタイミングやフィードバック内容が、組織の活力を支えている。最終的につける評価が同じだとしても、納得感がないと反発を引き起こし、本人の力も、組織の生産性も下げてしまう可能性がある。

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こうしたズレが起こらないような動きをとること、あるいは、システムやルールが機能している状態を「運用」と称す。「運用」は「ものをうまく働かせ使うこと」というような意味を持つが、人事制度の運用は「組織(個々)の物理的に見えない『状態』 をきちんと把握し対応(事前対処、事後処理)できていること」と言えよう。

たとえば「残業申請は毎日事前承認で行うこと」というルールをつくったとして、それで終わりではない。実際のところ、月末にまとめて提出している事象が横行したままの場合が多い。なぜこのルールにしたのか、マネジャー層の責務として何が必要なのか、理解してもらう働きかけをしつこく行わないとマネジャーの意識はおそらく変わらないだろう。こうした働きかけも一つの「運用」である。

また、「外出続きだから、随時承認なんてムリだよ」という実態があれば、それを踏まえた仕組みの工夫が必要になる。外出先で簡易に承認できる仕組みを導入することはそう難しくない。現場実態を知ったうえで、実現性を高めていくのも「運用」の一つである。

設計よりも運用重視の人事は、社員ドリブンである証拠

サイバーエージェント様の人事の方々に、同社がリクルートとの合弁で開発したGeppoの運用の過去の事例について教えてもらったことがある。従業員のコンディション変化を発見するツールで、従業員は月に1度、3つの問いに答えるだけでよい。しかし簡単なことでも、忙しさ等を理由に未回答者が出てしまうのが常だ。

しかし、同社の人事担当者は100%の実施をしないと意味がないと考え、徹底した動きをとった。未回答者へタイミングを見計らったメール、答えないとまずいと思わせるようなタイトル、最後にはその人の席にまで赴き「協力してくださいよ!」と肩をたたく。導入初期に徹底した運用をしたからこそ、全社員に定着し、継続したという。

水を運ぶ人事

随分と前になるが、イビチャ・オシム監督がサッカー日本代表を率いていたときに、縦横無尽に献身的に動く人を「水を運ぶ」と表現したと言う。成果を出すために必要なのは、注目されるスター選手だけではない。攻めと守りの間に入り、周囲の選手をサポートするために動き回る。その役割が実はとても重要だというのがオシム監督の考察だ。

人事も実は、同じことが言えるのではないだろうか。会社という組織が力を発揮するために、最大限のサポートをし続けるのが人事だ。戦略や分析が設計が、人事の要じゃない。運用力こそが重視されるべきだ。

我々の実施しているアカデミー「CANTERA」では、その姿を「水を運ぶ人事」と称してきた。社員が水を飲む人ならば、人事は水を運ぶ人という事だ。制度により良い組織作りを行うには、役割を理解し全うしなければならない。どういう制度であれ、運用力の優劣が結果を左右する。その運用力の一つが、人事がどれだけ水を運べるか、だと考えている。

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