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大きなお友達がやってきた?

小学生の頃、我が家では一つの掟としてテレビゲームをプレイできるのは1日1時間までと定められていた。それも毎日ではなく、一週間のうちできる曜日とできない曜日が予め親によって決められている。

もちろん超過してしまえば、次の日にできる時間はその分から差っ引かれてしまうという、なんとも厳しい条件下にあった。

無論、夜中や早朝にやるなんてもってのほかであった。だがある時期に一度だけ欲が抑えきれずその時間帯にやっている姿を親に見られてしまい、当分の間はゲーム禁止と処せられてしまったことも、一度か二度ほどあったのだった。

約束を破ってしまったとはいえ、学校から帰って余暇に浸ることもなく宿題をやるだけで毎日を過ごすのは、さすがにいろんな意味で体に堪えるものでもあった。

それに引き換え、他の同級生の家庭では時間を設けるといったルールとやらは設定されていないのがほとんどであり、実に羨ましいと思わない日はなかったのである。

そんなゲーム禁止令とやらを処せられてから数日後のことだ。学校から帰宅してリビングに入ると、いつもならそこより奥につづく部屋が開きっぱなしのところ、珍しく三枚ほどの引き戸によって閉められているのを目にした。
いつもと雰囲気が違うと疑問を抱ている私の元に母が駆け寄り、

「大きなお友達が来ているわよ」

ふふふと笑いながら声をかけると、すぐに台所に戻っていくのであった。「いったいどういうことなんだ?」と首を傾げていた私は、そこに誰がいるのかと気になり始めていた。

”大きなお友達”というワード自体が別段気にならないわけではない。ただ通りすぎた玄関には見慣れない靴が一つも置かれていなかったし、その引き戸の奥では普段から聴き慣れない誰かの声が聞こえてくるものでもなかった。

考えるだけでもますます疑問が深まるばかりだ。そうして私はおそるおそるその引き戸を端から開けていくと、そこには…

「おじゃましてま~す」

テレビの前で父親が座りながら、エースコンバットというシューティングゲームをプレイしている姿が見えた。
それを見た私は思わず硬直状態となってしまい、手に持っていたかばんを床に落としてしまった。

すぐさま我に返って冷静に考えてみると、多少強引な部分はあるかもしれないがなんとなく辻褄は合っていた。

ちなみに父親は元からゲームはよくやる方で、なおかつ昔からファミコンを愛用していた。
特に私が幼稚園に入る前の頃には、同じくシューティングゲームでは定番でもあるゼビウスなどを中心に、たびたびプレイしている姿を見かけることがあったのだった。

やがて日々の仕事に追われて自らプレイする機会も少なくなっていったが、私や弟がテレビの前でゲームに夢中になっている姿を前に、再び火がついたのかもしれない。

当時その場に居合わせた私は「お父さんだけズルい!」なんてことを思っていたかもだが、今更になって振り返ってみたらあの姿がなんとも面白おかしいと思わせる一面でもあった。

にしても、父が部屋に閉じこもってゲームしている様を”大きなお友達”と形容する母のネーミングセンスときたら…ある意味でたまげたものである。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!