見出し画像

技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座12 DXのセカンドステップ-②SoE顧客や取引先との連携システム―

 前回はデジタライゼーションには、①SoR (System of Record/記録のためのシステム)、②SoE (System of Engagement/関係のためのシステム)、③SoI (System of Insight/分析のためのシステム)の三つがあることをご紹介し、その一つ目として①SoR (System of Record/記録のためのシステム)について詳しく触れました。今回は、二つ目の②SoE (System of Engagement/関係のためのシステム)を取り上げたいと思います。
 
SoEは、2011年に米国のマーケティングコンサルタントであるジェフリー・ムーア氏が最初に提唱したものであり、その内容は、顧客ニーズの急速な変化に対応していくためには、SoRのような社内業務のためのシステムではなく、顧客とのつながりを意識したシステムとしてSoEが不可欠になるというものでした。
 
 企業と顧客を結びつけるシステムというのであれば、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)など、従来からあるのではないかという疑問をもたれるかもしれません。もちろん、SFAやCRMはDXの代表的な取り組みにあたることは当然なのですが、DXの根本原理である「全体最適」で考えていけるかどうかがDXと言えるための鍵となります。
昔ながらのSFAやCRMでは、営業部門だけが営業活動のためだけに利用するものにとどまっていることが多いため、やはりDXとは言えないのです。
 
 企業と顧客を結びつけるということを「全体最適」で考えると、今までとは全く違う景色が目の前に広がってきます。顧客という概念は本来幅広く、買ってくれた顧客の中には新規客やリピート客、得意客、さらには離脱客、クレーム客が、買ってくれていない顧客の中にも潜在客や見込客がおられます。商談対応してくれる客だけを顧客と考えるのでは、あまりに視野が狭く、たとえ反応がなくても、たとえ失注しても、そのネガティブな顧客関係から得られるデータは非常に大きいはずです。SoEから得られるデータを活用する有用性については、次回の③SoIの中で詳しく述べる予定です。
 
また、真の顧客はエンドユーザであると考えれば、直接の顧客、さらには途中の顧客というサプライチェーンの存在が見えてきます。さらには、顧客が自社商品の購入と同時に、自社商品に関連する他社の商品も合わせて調達しているとすれば、それらのサプライヤーも顧客とのつながりがあるものとして意識すべきでしょう。さらには、自社からみた仕入先や外注先などのサプライヤーもまた、自社とともに顧客のために働く仲間のはずです。こうして、SoEは目先の顧客のためだけのシステムではなく、顧客満足のために関係する全ての関係先を含めたシステム―サプライチェーンシステム―へとレベルアップしていくことが必然的なのです。
 
 もう一つ、顧客との関係について重要な考え方があります。経営学者であるドラッカーは、「あなたの組織が成果をあげるには、誰を満足させなければならないか」。その問いへの答えが顧客は誰かを教えるとドラッカーは言っています。顧客という概念をより広い意義で考えると、社員や、地域社会など、企業が共存しているあらゆるものも顧客としてとらえることができます。会社にとっての一番の顧客を会社で働く社員だと考えることもおかしなことではないのです。さらに、企業が社会ともに共生するものであるとすれば、SDGs(「Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標」が重要なテーマになることは当然のことでしょう。
 
 SoEを実現するための技術的トピックや事例については、紙面が足らなさすぎるため、後章において詳述する予定ですので、ご期待ください。今回は、最後に、SoEにおいて特に重要となる技術的戦略について触れておきたいと思います。冒頭でお話しした、顧客ニーズの急速な変化に対応していくためには、ローコードツールのようなスピード開発ツールが有用になりそうです。サプライチェーン全体に渡るような企業間連携のためには、Webやクラウドの活用が不可欠でしょう。特に特定の企業だけで利用するコミュニティクラウド、さらにはその先のエコシステム、そのためのデジタルツインへとつながっていくことでしょう。より具体的な企業間連携、データ共有やシステム連携のためには、マイクロサービスとAPI、IoTとブロックチェーンがキーテクノロジーになりそうです。社員や社会との関係では、SNSやチャットなどのコミュニケーションツールの活用が重要になるでしょう。
 
 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、デジタライゼーションの三番目、③SoI (System of Insight/分析のためのシステム)です。そしてその先はDXデジタルトランスフォーメーションの実践として、いよいよ具体的な活用技術や事例紹介へと進んでいきます。この先もどうぞお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?