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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座38デジタルトランスフォーメーションの実践-建設、製造から始まるデジタルツインの未来社会-

デジタルツインは、2002年にミシガン大学のマイケル・グリーブス教授によって概念が提唱されたもので、現実の世界をデジタル空間上に、双子のように丸ごと再現することを意味します。

建設や製造現場の設備の稼働状況をIoT(Internet of Things)によって収集したセンサーデータをもとにデジタル空間上に再現すれば、異常の発生を瞬時に把握でき、その影響がどこまで広がるのかシミュレーションすることが可能となります。

デジタルツインがどのようなものなのか具体的なイメージが持てないという人が多いのですが、実は多くの人が日常的にデジタルツインを使っています。それはGoogle Mapなどの地図アプリです。現実の世界をデジタル空間上に投影している意味ではまさにデジタルツインと言えるものなのですが、必要最小限のものだけを対象としているためデジタルツインの実現例だと気づきにくいのです。

実はGoogle Mapでは、目的地までの行き方や周辺の施設を調べるといった基本的な使い方の他に、
・道路や施設の写真に切り替えて実際の様子を確認する
 ・施設の口コミを見る・書く
 ・渋滞など交通状況を確認する
・駐車位置を保存できる
・現在地を共有する
など様々な便利機能が用意されています。

 Google Mapなど地図アプリはGPSやセンサーを備え、ネットワークに常時接続されているスマートフォンなどモバイル端末で動作するため、まさにデジタルツインを実装するのに最適なインフラを使っていると言えます。

 Google Mapがなかった時代に戻って生活することがどれほど不便かということを想像してもらえば、デジタルツインがいかに有用なものなのかわかってもらえるのではないでしょうか。

 Google Mapと同じようなバーチャルマップを建設現場や工場、店舗、ビル、町など様々なリアル世界に対してつくることができれば、どれほど便利になるでしょうか。現場に行かずに施工状況がわかる、現在の生産状況を考慮した上で納期を回答することができる、計画を変えることで生産量がどれほど増えるか瞬時に計算できる、設備をリアルタイムで監視・コントロールできるなど、期待は膨らむばかりです。

 デジタルツインはすでに未来社会の夢物語ではなく、大手企業をはじめとして既に実現事例が次々と発表されています。経済産業省と東京証券取引所が選ぶDX銘柄や、経済産業省のDXセレクションなどから、デジタルツインの先進事例を知ることができます。

DX銘柄:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dx_meigara.html
DXセレクション:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html
 
今では、デジタルツインの構築を支援してくれるITベンダーやパッケージソフトも多くあります。デジタルツインの事例情報も容易に入手することができることを考えれば、デジタルツインに取り組む際の障壁はなくなりつつあると思われます。特に、建設や製造業におけるデジタルツインの導入は、とてつもない生産性向上をもたらす可能性を秘めており、その取り組み自体が競争優位となるでしょう。

 しかし、ここでも「X」ありきの「D」というDX成功のための式が鍵となります。ただ単にリアル世界をデジタル投影したところで、その後何をするのかを考えられなければ単なる「デジタルシフト」にとどまることになります。

 DX銘柄やDXセレクションから学ぶべきはデジタル技術の種類ではなく、そのデジタル技術で何がしたかったのかにあります。建設や製造においてそもそも取り組むべき目的は何かを突き詰めていけば、会社の規模や形態に違いがあっても、共通の課題が見えてくるはずです。
 
DXがめざすのはトランスフォーメーションであり、その概念にはイノベーション(改革)を内包しています。「現状改善」ではなく「現状破壊」を避けることができないとすれば、組織自身の内部からその種を生み出すことは至難のわざです。

DX事例が整備されつつある今、先行する他社から学ぶことが社内にイノベーションを起こすきっかけになるでしょう。DX銘柄やDXセレクションを熟読する、類似企業を訪問見学する、同じ思いを持つ同業者達と勉強会を開く、そういった地味な活動こそがDX成功のための近道になるのだと思います。

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