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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座11 DXのセカンドステップ-デジタライゼーション①SoRと2025年の崖―

前回のデジタイゼーション(Digitization)に関する解説に続き、今回はデジタライゼーション(Digitalization)について取り上げます。
 
デジタライゼーションの定義についても経済産業省の「DXレポート2」をみてみると、デジタライゼーションは「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」となっています。要するに、従来からある情報システムがまさにこれにあたるのですが、デジタライゼーションはさらに、①SoR (System of Record/記録のためのシステム)、②SoE (System of Engagement/関係のためのシステム)、③SoI (System of Insight/分析のためのシステム)の三つに分けて考える必要があります。今回はデジタライゼーションのうち、最初の①SoRについて解説することにします。
 
SoRは、会計システムに代表される業務系の情報システムなどが取引データを正確に記録することを重視して設計されていることから、この名前が付いています。検索や分類、集計といったデータ活用のための機能もありますが、何よりも記録されたデータが正しいことが絶対的に求められるのが特徴です。財務諸表や請求書、生産指示や出荷指示などSoRにあたる情報システムから出力される帳票に間違いが許されないことからもその絶対性がわかるかと思います。
 
さて、ではこの従来から存在するSoRの情報システムはDX上、何が問題となるのでしょうか。多くの企業の業務で使われている既存の情報システム(SoR)は、老朽化・肥大化・複雑化し、さらにはユーザ企業側にもITベンダー側にもシステムがわかる担当者が退職するなどして、中身の仕組みが見えない「ブラックボックス化」が進んでいます。そして、刷新が容易でなく、かといって再開発するには莫大なコストがかかり、維持するだけも保守費がかさむという、にっちもさっちもいかない状態に陥っているのです。さらに、保守人材の退職や部品の調達困難などを理由に、サポート終了を宣言するITベンダーまで出てきています。
 
経済産業省は。こうした古い情報システムが抱える問題を解決しない限り、企業の競争力は崖を下るように低下し、2025年以降、最大で年間12兆円の損失をもたらす可能性を指摘しています。これが「2025年の崖」と呼ばれるものです。
 
こうした状況から脱却するためには、早く古い情報システムに見切りを付けて、パッケージソフトやクラウドサービスの利用に移行していくことが急務です。そのためには過剰なカスタマイズをやめて、徹底的に業務を標準化することが不可欠になります。過剰なカスタマイズは情報システムの要件を部署単位や担当者まかせにしてきたことが大きな原因です。一部署だけの仕事が楽になったところで、会社も顧客も何も得になりません。全体最適で情報システムのあり方を考えることで、行き過ぎたシステム化を排除していかなければならないのです。
 
 業務をパッケージソフトやクラウドサービスに合わせる一方で、足りないシステム機能はノーコードツールやRPAソフトウェアロボット、データ分析ツールなどを活用すればよいのです。そのために重要となってくるのがデータ連携です。レガシーシステムと呼ばれる古い情報システム(SoR)の多くで自由なデータ活用が難しく、新しいパッケージソフトやクラウドサービスの多くがデータ連携の容易さをうたっているのは皮肉なことです。
 
 最後に、SoR自体を新しい技術で革新してしまうソリューションも登場してきていることをご紹介しておきたいと思います。工場でのIoTによる稼働管理や、無線ICタグによる在庫管理、店舗での無人レジなどがそれにあたります。前回のデジタイゼーションで紹介した業務日報や生産日報のタブレット入力化もあてはまります。これらの具体的なソリューションイメージは、DXの実際として後述したいと思います。

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