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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座28デジタライゼーション(②SoE)の実践-ローコードツールで自社と顧客、取引先をまたぐシステムをつくる-

DXと言えばローコード・ノーコードツール。ちょっと待ってください。簡単にプログラミングできるだけなら昔からExcelマクロなどいくらでもありました。ただ開発言語をローコード・ノーコードツールに変えるだけでDXと言えるわけがありません。
 
しかし、「ノーコード・ローコード」で検索してみると、「ノーコード・ローコード開発できるプログラマ募集」や「ノーコードツールを使用した受託開発を請け負います。」といった求人広告や営業宣伝が次々と表示されます。
 
たとえ、ローコード・ノーコードツールでシステム開発しても、結局、現行業務を楽にするだけでは昔ながらの将来に時代遅れのシステム負債を残すだけです。受託開発されたシステムは結局、新しい2025年の崖とも言うべき保守地獄を生み出してしまいます。
 
ローコード・ノーコードツールを使えば簡単にデータ定義や画面作成ができるのに、要件定義書や画面仕様書を作成する必要があるのでしょうか?そもそも、要件や仕様が先にあって、システムエンジニアやプログラマがそれに従って、システム開発するというスタイルである限り、ローコード・ノーコードツールを使おうともそれはDXではなく、排除すべき昔ながらの非DXなのです。
 
基本設計でシステム要件を確定し、詳細設計で画面や帳票仕様を決めても、開発フェーズになってからユーザ側が業務要件自体を変更してきたり、テスト段階で画面や帳票レイアウトの変更を求められることは昔も今も変わりません。時間とともに仕事のやり方が変わっていくのは当然です。1年2年と長期間続くシステム開発プロジェクトの間に、組織も変われば経営方針すら変わってしまうこともおかしなことではありません。
 
こうしたシステム開発に対する反省から、DXではアジャイル開発を中核となるコンセプトとして置いています。「今」の業務に対して大きなシステムを長い時間をかけて、しかも特定部門だけのための部分最適となる開発手法をやめることがまず先にあります。
 
そのためには、
 
・楽をするためにシステムを作り込みすぎない
⇒「要件・仕様ありきのシステム開発」や「業務の効率化」は時代遅れ
・「今」の業務ではなく、「2年先3年先」の業務を先回りする
 ⇒「2年先3年先」の競争優位獲得のための「カスタマーサクセス」や「サプライチェーン連携」といった「課題ありきのシステム開発」をめざす
・システム要件や仕様は業務要件の検討と同時に検討する
 ⇒業務要員とシステム要員がいっしょに仕事をするアジャイルスタイルへのシフト
 
といったことを理解することが不可欠なのです。
 
一方で、社内のDX体制として、ローコード・ノーコードツールを使える社員を育成したり、新たに採用する動きもあります。しかし、システム開発ではパフォーマンスや情報セキュリティ、データ移行やユーザビリティ、さらにはAPIによるシステム連携性など考えなければならない専門性の高い技術領域への考慮が不可欠になります。こうした特殊なマンパワーまでユーザ企業だけでまかなうことは得策とは思えません。
 
ユーザ側で必要となるのは、自社業務の現状を2年先3年先の経営戦略の視点から課題化して、業務の理想を構想できる人やチームです。部署の壁を越えることすら難しいのが実情の中で、企業の壁を越えたSoE(顧客や取引先との連携システム)まで考えるのは、相当大変な仕事になるはずです。
 
これだけでも大変なのに、システム開発まで内製できる企業は、数え切れないのではないでしょうか。ローコード・ノーコードツールだけでシステム内製できるのは、せいぜいデジタイゼーション(情報の電子化)程度のものです。※デジタイゼーションに意義がないとは言っていません。
 
そう考えれば、信頼できるシステムベンダーと連携してアジャイル開発を進めることが得策に決まっていますが、だからといって、昔ながらの要件、仕様を渡して「請負契約」するスタイルに戻ってしまっては元も子もありません。必要なことは、アジャイル開発による業務改革を「準委任契約」によってサポートしてもらう/するスタイルなのです。
 
ローコード・ノーコードツールを使えば、試行錯誤しながらシステム開発と業務改革を同時に進めるするという、まさにアジャイル開発が可能になります。その際、システム開発と運用を連携させるDevOps(デブオプス)の考え方が必要になるのも言うまでもありません。
 
海外のDX先行企業が顧客連携、サプライチェーン連携を進めて強固なエコシステム(企業連携体)を構築しつつある中で、デジタル化に遅れている日本企業にローコード・ノーコードツールを社内業務の効率化のために使っていくような猶予はありません。社内システムはパッケージソフトやクラウドサービスで軽くすませてしまう決断と、ローコード・ノーコードツールを使って、SoE(顧客や取引先との連携システム)の実現に躊躇なく取り組むことが必要なのです。

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