見出し画像

技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座3 属人化、縦割り組織のままでのIT化が問題をこじらせる

DXは単なるIT化ではなく、部署の壁、企業の壁を超えたビジネス・イノベーションをめざすものです。担当者の仕事や部署の現行業務をそのまま効率化するためにIT化することをDXとは呼びません。部署の壁、企業の壁を超えるからこそ、無駄な仕事を排除することによって、生産性の向上や、コスト削減、納期短縮、そしてさらには新たな商品やサービスの創造といった劇的な効果が期待できるのです。

特に、見積・受注から始まって納品・請求で終わっていた顧客関係について、その上流や下流に向かってサービス拡張することによって、圧倒的な競争優位を得るというビジネスモデルはGAFAを中心とするDX先進企業の多くに見られる成功例です。中でもアマゾンは自社用のシステム基盤をクラウドサービスとして売り物にしてしまうという次元の違うDXを実現したのです。

 その一方で、日本におけるDXの現状をみてみると、悲しい現実が見えてきます。仕事は属人的、縦割り組織のままで、最新のITさえ導入すればDXになると思っている企業が少なくありません。CRMやERP、SCMといった昔からあるITソリューションでも同じことが言えます。一匹狼的な営業担当者がCRMやSFAツールを使ったところで何も変わりません。

全社業務をカバーするERPを部署分断的に利用したところで、せいぜい帳票出力が早くなる程度でしょう。SCMも需要予測と生産計画だけでは単なる生産管理システムと変わりありません。

 DXで失敗するのは、業務や組織の見直しからではなく、いきなりIT導入から始めてしまうことが大きな原因です。顧客との関係を営業担当者ごと部署ごとにとらえるのではなく、自社全体で何をすべきか、何ができるかを考えることから始めなければならないのです。

 顧客マスタを入力するのは営業や受注担当者だけでよいのでしょうか?工場の製造担当者や品質部門が気づくことはないでしょうか?顧客との何気ない会話の中で社内共有すべきことはないでしょうか?ウィキベースの顧客マスタであれば気づいたことをコメント付記していくことができるでしょう。BOM部品表を設計部門と生産技術部門、製造部門との間で共有できれば、設計、技術、製造という多視点からみた最適解としての部品構造について検討できるでしょう。しかし、現実には設計用、調達用、製造用に複数のBOMを持っている企業が珍しくないのです。

 DXは業務の見直しから始めればよいのであれば、なぜそうしないのでしょうか。それは、誰もが自分や自部署の否を認めたくないし、たとえ問題を見つけたとしても仕事のやり方を変えたくないからです。今のやり方をそのままでIT化して、自分の仕事が楽になるのなら誰も反対はしないでしょう。今のやり方の問題を明らかにして、部署の壁、企業の壁を超えたやり方に変えようとするには、よほどの信念と情熱がないと始められないし、やり抜くこともできません。「水は低きに流れ、人は易きに流れる。」、これこそがDXを推進する上での最大の障害となるものなのです。

 DXを推進しようとする経営者がするべきことは、①会社を変えるのだ、現状を打破するのだという宣言、②やる気のある社員を集めた超部署ドリームチームの編成です。そして、③徹底的な現行業務の問題分析、④問題解決のための課題設定、そしてようやくDX戦略としての⑤課題達成のためのITソリューション立案、と活動を紡いでいくことになります。

 多くの企業が①から②を飛ばし、③、④すらきちんとやらずに⑤をコンサルタントやITベンダーに丸投げしようとします。はたしてこのようなことでDX推進は成功するでしょうか。大切なことは華やかな最先端ITツールやビジネスモデルばかりに気を取られることではなく、地味で大変だけれど、やればやるほど成果が期待できる③現行業務の問題分析を重視することです。そして、そのためには、経営者自身が①方針宣言と②チーム編成に真剣に向き合うことが大切なのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?