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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座33デジタライゼーション(③SoI)の実践-ビジネス革新のヒントはビッグデータから得る時代-

データウェアハウスやデータマイニングなどSoI(System of Insight:分析のためのシステム)と類似する考え方は以前からありました。統計解析やOR(オペレーションズ・リサーチ)では第二次世界大戦において軍事利用されていたと言われています。
 
AIにしても突然生まれてきたものではなく、長い研究成果を経て発展してきたものであり、DXが叫ばれる以前から注目されていたデジタル技術であり、AIを使えばDXとしてのSoIと言えるかというと少し疑問が残ります。
 
 それでは、DXとしてのSoIが過去のデータ分析手法と一線を画する違いとは何なのでしょうか。それは対象とするデータの種類や規模にあります。いわゆるビッグデータと呼ばれる「日々生成される多種多様な大量なデータ」を扱うことによって、従来では気がつけなかった気づきを得ようとするのがSoIなのです。
 
 現実社会と仮想空間(Webさらにはメタバースへ)が融合し、個人も企業も多数のグループに所属して様々な活動をする現代において、営業データや会計情報など既存のデータだけを見ているだけでは、これから何が起きるのかを知ることが難しく、変化に気づいたときには取り残されるということが起きかねなません。
 
ビッグデータとは、Volume(大量さ)、Variety(多種多様さ)、Velocity(発生頻度・処理速度の速さ)という3つのVの特徴を持ち、構造化データと非構造化データで構成されます。具体的にはWebサイトのアクセス解析情報、ソーシャルメディア上の投稿、無線ICタグでスキャンされた情報、業務システムでは集約、集計される前のトランザクションデータなどが挙げられます。
 
さらには、部署ごとに持っていたデータを「部署の壁」を超えて統合し、サプライチェーン上の企業同志が「企業の壁」を超えてデータ共有すれば、新たなビジネスイノベーションを起こせるDXを実現できる可能性が高まります。
 
 SoIに有用なデータを供給する情報源として、SoE(System of Engagement)とSoR(System of Records)の両方があります。SoEからは顧客や取引先などの社外データを、SoRからは業務システムなどの社内データを得ることができます。
 
 SoE(System of Engagement)の例として、Google AnalyticsなどのWeb解析データが考えられますが、PV(ページビュー数)や離脱率、コンバージョン率といった分析をするだけでは、あまり革新的な取り組みとは言えません。
 
 顧客との新たな関係接点を構築し、そこから新たなビジネスヒントを得ようとする考え方として、コンテンツマーケティングがあります。ネットショップやブログ、メールマガジンなど様々なコンテンツを発信することによって、集客しようという試みは従来からありますが、DXとしてのコンテンツマーケティングでは、直接的に宣伝広告や販売を目的とするのではなく、純粋に顧客に役立つ情報を発信することを目的とします。「売る」ことから離脱することによって、顧客にとっては中立で安心できる情報源になります。
 
コンテンツマーケティングが対象とするのは見込客(販売が期待できる顧客)ではなく、潜在客(顧客になるかもしれない顧客)です。販売につながらなかったとしても、潜在客から得られるヒントが見込客の発見につながり、顧客関係の強化に結びつくことを目指しています。
 
コンテンツマーケティングの多くは、お悩みや疑問に答えるコンテンツを提供しています。コンテンツマーケティングの例としては、@cosme(https://www.cosme.net/)などがあります。先進的なDX企業では、コンテンツマーケティングをマーケティングオートメーションを連動させて、見込客の発見から育成、維持、関係強化まで実現しています。
 
 SoR (System of Record)の例としては、データウェアハウスによるデータ統合や、BIビジネスインテリジェンスによる分析などが考えられますが、SoEと同様に今まであるデータを利用しているだけでは、昔ながらのデータ分析と変わるものではありません。
 
 ましてやIoTやブロックチェーンなど新たな情報技術の登場によって、分析すべきデータは今後ますます増える一方です。社内外から集まるデータを捨てることなく、データ分析のために一元管理するためのDMP(データマネジメントプラットフォーム)の構築に注目が集まるのも当然と言えるでしょう。大量かつリアルタイムで発生するビッグデータを蓄積するのにAmazonなどのクラウドベンダーが高機能なデータストアサービスを提供しており、GoogleのデータストアではSQL ライクなクエリ言語さえ提供されています。
 
 最後に、PowerBIやTableauなどのBIツールについて触れておきます。BIツールでできる集計やグラフ作成やExcelでもできると思っている人が多いのですが、BIツールの醍醐味は簡単に集計やグラフ作成できる点にあるのではなく、社内外の多種多様なビッグデータと接続し、それらのデータを統合した上で集計やグラフ作成ができる点にあります。
 
 社内の営業や販売データ、会計データと、社外のネットショップやコンテンツサイトのアクセス解析データを連結することによって、自社の利益に貢献している顧客や顧客ニーズが何なのか、売上の減少に結びついている特定顧客の行動が何なのかを知ることができるのです。BIツールについては次回以降に詳細取り上げる予定です。

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