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やさしい法律講座v3  副題 取締規定・効力規定・強行規定・ 任意規定

数年前、テレビ推理ドラマを見て、「えー、検認受けずに開封?」と驚いたことがあった。相続開始後で、弁護士と相続人全員の立ち合いで、相続人宅の客間で自筆証書遺言をハサミで開封する場面です。その数日後の新聞の記事に、大阪の弁護士会からテレビ局に苦情が提出された。「検認を受けず開封するという違法行為を是認することに繋がる」と。それに対して、テレビ局は「フィクションです」と回答、云々。

このときの教訓として、「テレビドラマは信用できないので、現実の紛争問題に対しては、法律事務所の弁護士に相談するか、契約などの法律行為はしっかり条文や専門書を確かめて行動を起こすことである。耳学問は失敗のもとである。契約の時は表題の規定を考慮に入れたリーガルチェックを勧める次第である。今回は、契約に携わる初心者向けに、契約における想定外リスクについて解説する。

                         2020.11.25

                         さいたま市桜区

                         田村 司

はじめに

 これから述べることは、記載内容を保証するものではない。あくまでも、教養の範疇として欲しい。法律実務の際は法律事務所でご相談をお願いする。

 私的自治の原則つまり、国家を離れての私的生活、特に取引は各人がその意思のままに自由に決定し、その責任を負うべきで、国家はこれに干渉しないとする原則。法律行為自由の原則、契約自由の原則として展開される。

つまり、我々の生活する社会は各人がその意思に基づき、自己の責任において、経済を遂行し、原則として、国家がこれに介入しないという建前を取っている。そのため、各人はすべて平等に権利や義務を持つことができ、その所有する物を自由に支配でき、自由な意思の合致で行為ができることになっている。更に公の秩序・善良の風俗に反する契約は無効にし不利な契約を押し付けられやすい契約などは私的自治に制限を設けているのである。

今回の講座の内容は、私的自治の原則ではあるが、規制があることを認識して、会社や事業者が契約を結ぶ重要性として、取締規定・効力規定・強行規定・任意規定などを考慮にいれた契約の締結の必要性を理解できれば目標達成である。

1,取締規定

まず、オープニングの「自筆証書遺言の開封」に関しては、次のような規定があります。

民法1004条(遺言書の検認)「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も同様とする。2,前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。 

3,封印のある遺言書は、家庭裁判所に於いて相続人又はその代理人の立会い がなければ、開封することができない。」これに反する場合は過料の行政罰が次の条文である。

民法1005条(過料)「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は、家庭裁判所以外でその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

小切手法3条(小切手資金・小切手契約と振出)「小切手は其の呈示の時において振出人の処分し得る資金ある銀行に宛て且つ振出人をして資金を小切手に依り処分することを得しむる明示、又は黙示の契約に従ひこれを振出すべきものとす、但しその規定に従はざるときと雖も証券の小切手たる効力を妨げず。」

小切手法71条(違法振出しの罰則)「小切手の振出が第3条の規定に違反したるときは五千円以下の過料に処す。」

行政的規制の必要から一定の行為を禁止したり、制限をする規定を取締規定という。違反者に対しては、行政上・刑事上の制裁を伴うことが多い。

2,効力規定

 取締規定に対し、取締規定違反の法律行為有効か無効かはその規定の解釈を通して決まり、無効とされる場合を効力規定という。

効力規定であることが明示されていない場合、その規定の目的、違反行為等の不法度、取引の安全など、あれこれの利害を考慮して決められる。小切手法に関しては違反であっても小切手は有効とされている。

 前述事例の検認がない遺言書の有効性に関しては遺言者の意思を尊重し有効と判断されているようである。

 また、人の揉め事の仲介をして報酬をもらうなどの行為は非弁行為として禁止されている。弁護士でない者の弁護士活動は公秩序、司法制度の根底を揺るがしかねないのでこのような者がした事件の委任契約は公序良俗に反し、無効とされる

弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることをとすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

第77条(非弁護士との提携等の罪

 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。

三 第72条の規定に違反した者

3,取締規定違反行為の効力をどのように判断するべきか

上記の通り、行政上の取締り目的から一定の行為を禁止または制限する規定を取締規定と呼ぶ。取締規定に違反すると、刑罰や行政処分などの制裁を科される。

しかし、そのことと、違反した行為(契約)の(私法的な)効力まで否定されるかどうかは別問題である。

⑴ 効力規定か否かで判断する立場

この立場は、違反した規定の性質によって契約の効力を決定する。その規定に違反することによって契約の効力が否定されるような取締規定を効力規定と呼ぶ。効力規定に違反した契約は無効となるが、それ以外の取締規定に違反した契約は有効となる。

⑵ 民法90条を援用する立場

取締規定違反の契約の効力を、公序良俗違反(90条)の問題として処理する立場である。

民法90条(公序良俗)

「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

契約の効力を具体的事案に即して総合的に判断することになるので、抽象的に効力規定か否かを決定するよりも柔軟な問題解決が可能となる。

判例の中には、取締規定違反の契約について、効力規定違反ではなく、90条違反を理由に無効とするものもある。

4,強行規定

公の秩序に関する事項を定めた規定を強行規定という。

強行規定違反の法律行為は、公の秩序に反し、無効である。

民法90条(公序良俗

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」

⑴ 経済活動の要である規定

 ・会社法

会社の機関の在り方や資金調達の方法などの規定を定めた会社法は、その多くの規定が強行規定と取締規定と解されます。

会社法は、会社にかかわる多数の利害関係人の利害調整を図るため、会社の機関や組織について、種々の規定を置くものです。

たとえば、社債を発行する、新株を発行するための手続を定めた規定や株主総会の開催を定めた規定などがそれに該当します。

このように、会社法が多数の利害関係人の利害調整のための規定を定めているにもかかわらず、これと異なる規定を容認するのでは、株主や債権者などの利害関係者の保護が失われるからである。

⑵ 私有財産の要である規定

 ・物権編

民法175条(物権の創設)

「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」

  他に、国の秩序に重大な影響のある強行規定としては、親族編及び相続編が該当する。

⑶ 国の秩序に重大な影響のある規定

金銭の貸し借りの合意をするに際して、当事者間で、「消滅時効を援用するの禁止」と契約合意したとしても、その合意は民法146条に反し無効となります。

民法146条
「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」

民法が時効制度を定めたそもそもの趣旨は「権利の上に眠るものは保護に値せず」の原則に基づくものでもある。

強行規定は一定の政策目的で規定される法律に多く見られる。

優越的地位の乱用防止で、弱者保護の政策でもある。

同じように遺留分についても

民法1049条(遺留分の放棄)「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限りその効力を生じる。」

⑷ 経済的弱者を保護するため、自由競争の調整を図る諸法規

① 借地借家法9条

「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは無効とする。」

同法16条、同法21条、同法30条、同法37条

「・・・特約で・・・に不利なものは無効とする。

② 農地法3条

1「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。・・・」

6「第1項の許可を受けないでした行為はその効力を生じない。」

③ 労働基準法13条

「労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」

労働基準法は強行規定であり、罰則を含む取締規定である。

これは経営者と労働者との間に、契約交渉力の差があるため、労働者を保護するという社会政策的観点から規定された。

 経営者と労働者との間で、労働基準法と異なる合意をしてよい、ということになると、労働者を保護しようとした法の趣旨が失われる。

そのため、労働基準法の規定の多くは、強行規定と罰則を含めた取締規定として構成されたのである。

④ 消費者保護法

また、消費者保護の観点から設けられた消費者契約法特定商取引法の多くも強行法規である。

たとえば、特定商取引法は、訪問販売など一定の場合に、消費者にクーリングオフの権利を与えていますが、その規定は強行規定と解される。

これを当事者の合意で変更すると、消費者に「クーリングオフの権利」での保護の主旨が実現できない。

5,効力規定と強行規定の相違

効力規定はそれ以外の(契約の効力に影響しない)取締規定に対置される概念である。これに対して、強行規定は任意規定に対置される概念である。

効力規定は強行規定の一種であるが、取締規定のすべてが強行規定としての性質を有するわけではない。

6,任意規定

公の秩序に関しない規定で、任意規定は当事者の意思表示がない場合、もしくは明らかではない場合に備え、その空白を埋め、もしくは不明の部分を明らかにする目的でつくられたものである。

民法においては、前述した通り、契約自由の原則に則り、基本的に合意の内容は当事者で自由に決定できる。

そのため、民法では、一定の規定があるが、それとは異なる契約をすることも、基本的には容認される。そして、当事者の合意が優先され、言い方を変えれれば、法律が定めた規定の内容を当事者が任意に変更できる

民法91条(任意規定と異なる意思表示)

「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。」

この条文中、「公の秩序に関しない規定」というのが任意法規を意味する。同条は、これと異なる意思が表示された場合、法律行為の内容が「その意思に従う」ものとし、任意規定に対しては、当事者の意思が優先することが明示されている。

民法の債権編、契約法の大部分は任意規定である。

7,強行規定と任意規定の区別・見分け方

強行規定か任意規定か否かは、解釈事項です。

ある規定につき、解釈上の意見が分かれ得る場合があるということです。

上記に挙げた解釈事項で「組合の脱退権」に関する判例において、 民法678条が強行規定性を有するか否か争われている

裁判要旨

やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定は、無効である

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

052570_hanrei.pdf (courts.go.jp)

法律ないし条文に、「・・・に反するものは無効とする」などと分かりやすく書いてあればよいのですが、そのような規定がないことも多々あります。

そのような規定がない場合には、解釈によって任意規定か強行規定かを探る必要がある。

その区別は、その法律の趣旨に照らして、法律で定めた規定を排斥することが許容・容認されるか否かである。

8,まとめ

⑴ 強行規定の違反のリスク

① 強行規定は契約内容の無効の原因となる

強行規定に違反した場合のリスクとしては、契約内容が無効となる、という点があります。

強行規定は、契約当事者の合意よりも優先して適用されるものですから、その合意は無効となります。

このため、契約書のリーガルチェックの際、強行規定に違反していないかどうかのチェックを怠った場合や、強行規定の違反を見逃した場合は、その後トラブルになった際に、想定外のリスクとして現れます。

こうした想定外のリスクを回避するためには、事前に強行規定の有無を徹底的にチェックして、無効となる契約を結ばないように注意する必要があります。

② 強行法規は罰則や行政処分の原因となる

強行規定は、単に民事上=契約内容として無効となるものだけではありません。

強行規定の中には、罰則や行政処分の原因となるものもあります。

こうした、罰則付きや行政処分の原因となる強行規定については、違反によって、罰則が科されたり行政処分が下されたりする可能性もあります。

このような点からも、契約書のリーガルチェックの際には、強行規定への違反がないように、徹底的にチェックする必要があります。

以上のように、契約書を作成する際には、その契約内容が法律(特に民法)の任意規定・強行規定に違反しないかどうかが重要となります。

このため、実務上は、契約に適用される法律がどの法律であるかの判断が重要となります。それぞれの契約と法律の知識がなければ、判断できません。


⑵、リスク対処方法(リーガルチェックのすすめ)

 任意規定か強行規定かは、判例・学説で区別して見分ける

そのうえで、法律の条項が任意規定か、または強行規定を区別して見分けます。

すでに触れたとおり、一部の法律では、個々の条項が強行規定であることが明記されてる場合もあります。

しかしながら、ほとんどの法律の規定では、そのような明記のある規定がありません。

そこで、契約実務上の任意規定・強行規定の見分け方・区別のしかたとしては、判例と学説の確認です。


過去の判例と学説を丁寧に調べることで、法律の条項が任意規定・強行規定のどちらであるかを区別し、見分けます。このような重要な確認作業に漏れがあると、契約条項が無効になったり、罰則や行政処分の対象となるリスクがあります。

しかしながら、この確認作業は、契約実務に関する知識・経験がないと、できないものです。

このため、契約書の作成については、法律事務所の専門家による確認や助言を受けながら、リーガルチェックを受けてください。

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