見出し画像

政治講座ⅴ1593「習近平氏の理想都市(計画都市)」

 毛沢東の大躍進政策も失敗に終わった。「大躍進」政策は、人肉食すら発生した人類史上まれに見る大飢饉産業・インフラ・環境の大破壊をもたらした。 香港大学人文学教授が中国各地の公文書館を精査。 同館所蔵の未公開資料と体験者の証言から「大躍進」期の死者数を4500万 (大半が餓死者。 うち250万人が拷問死、裁判なしの処刑死)にのぼる。普通の国の政策なら税金を投入するにしても、需要と供給、そして、費用対効果を考慮に入れる。需要の無い(欲しがらない)都市計画であろう。税金の無駄。設備資金は国債で賄うのか。このような国家運営だから、中国経済が行き詰まるのは当たり前である。今回はそのような社会主義特有の計画経済の失敗の典型を見るようである。腐敗撲滅などの綱紀粛正は、「一帯一路」や「不動産インフラ」などの外交・経済の失敗により外資の投資も逃げ出している。そのような現実から目を逸らすための手段に見えるのである。そして、その腐敗撲滅などの綱紀粛正が外交・経済を悪化させるなどの悪循環を作り出していることは否めない。今回はその鬼城タウンの報道記事を紹介する。

     皇紀2684年1月14日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

はじめに

大躍進政策とは、中華人民共和国の毛沢東が主導した農作物と鉄鋼製品の増産政策である。
1957年6月に中国共産党によるプロレタリア独裁を批判した民主派や知識人を「右派分子」とレッテルを貼って弾圧した反右派闘争で中国共産党への批判は不可能となった上に、中国共産党内部でも毛沢東への個人崇拝が絶対化されたため、党内主導権を得た毛沢東の指導のもと、1958年5月から1961年1月までの間に中華人民共和国では農作物鉄鋼製品の増産命令が発せられた。反対派を粛清し、合作社・人民公社・大食堂など国民の財産を全て没収して共有化する共産主義政策を推進した毛沢東は、核武装や高度経済成長によって先進国であるアメリカ合衆国やイギリスを15年で追い落とすと宣言した。
しかし、非科学的な増産方法の実施四害駆除運動で蝗害を招く、政策に反対する多数の人民を処刑死・拷問死に追い込んだため中国国内で大混乱を招き、中華人民共和国大飢饉(推定1500万〜5500万人[2]が死亡)の発生、産業・インフラ・環境の大破壊、中華人民共和国最少出生数記録更新を招いた。「一帯一路」の悪評とともに、中国の不動産崩壊による中国の経済破綻を招いたのはこのような都市計画の推進にも起因する。習近平には誰も助言する人物がいない裸の王様になっているようである。

習氏の理想都市は空っぽ、権力の限界露呈-北京に近い「雄安新区」

Bloomberg News によるストーリー • 

(ブルームバーグ): 中国の改革・開放政策を主導した鄧小平氏が1979年、中国南部の地図上に円を描き資本主義を実験する経済特区を広東省深圳に設けると決めたという逸話がある。

  それから40年近くたち、中国共産党の習近平総書記(国家主席)は時代を象徴する都市建設の野心を、首都北京に近い「雄安新区」で体現すると発表。北京の人口密集を解消するハイテク都市になるという雄安は、「人類発展の歴史におけるモデル都市」とうたわれた。

Xi Jinping's City of the Future | Xiongan combines three counties to absorb nearby Beijing’s non-capital functions© Source: Bloomberg

  以来、共産党は世界最大の水力発電所である三峡ダムの倍以上となる約6100億元(約12兆3000億円)を雄安に費やしてきた。かつてトウモロコシ畑だった場所には現在、鉄道駅やオフィスビル、集合住宅、5つ星ホテル、学校、病院が立ち並んでいる。

  唯一足りないのは住民だ。ブルームバーグの記者が今月の平日に訪れた際、雄安に向かう高速道路にはほとんど車が走っていなかった雄安中心部の通りで開いている店やレストランもほとんどない

  首都からの移転を迫られている研究所の職員は、子どもたちの教育の質が心配だと打ち明けた。2022年に移転計画を発表した北京を拠点とする大学4校は今、代わりに第二キャンパスの設置を目指している。

  中国地質大学の1年生は「北京に来ようと大学入試で頑張った。雄安に来るためではない」と当局の報復を恐れ匿名を条件に話した

  雄安の人口伸び悩みは、国家最高のリソースが集中する北京から住民を誘致するという習氏が描いた計画の欠陥を浮き彫りにしている。

  人々の抵抗はまた、毛沢東初代国家主席以後、中国で最も強い権限を握る指導者となった習氏でさえ、市場原理に反する行動を促すのに苦慮していることを示し、習氏個人の権力にも限界があることが露呈している。 

  習氏は毎年行う新年の演説で、雄安が「急成長」し、中国東北部の活性化に貢献していると述べた。習氏は昨年、このプロジェクトに抵抗しないよう警告を発し、李強首相ら共産党中央政治局常務委員と共に昨年5月に雄安を視察した際、「必要であれば、人々は移動しなければならない」と語った。

  シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の呉木鑾(アルフレッド・ウー)准教授は「この抵抗は現実的な利害に基づいている。住民の利益習氏自身の利益を一致させることができなければ、当然、実現することはできない。習氏の力にはやはり限りがある」と指摘した。

  深圳の無秩序な成長を招いた鄧氏の自由放任主義とは異なり、習氏は中国各地で生じている問題を回避するため綿密に練られた計画を選んだ。

  例えば、雄安は「住宅は住むためのものであり、投機のためではない」という習氏の信条を守り、投機を防ぐため住宅価格を厳しく管理している。

  雄安は昨年、不動産開発会社が住宅を建設する前にその住宅を販売することを禁止。これは住宅バブルをあおった中国全土で見られる一般的な先行販売モデルからの大きな脱却だ。

  雄安は歓迎する産業を選別している。情報技術(IT)や生物医学、新エネルギー分野の企業に進出を促す一方、伝統的とみる産業の企業は排除。何百万人もの出稼ぎ労働者や起業家を引き付けた深圳とは異なるアプローチだ。

  雄安は今世紀半ばの完成を目標に、開発の節目を35年に設定。政府文書によると、11年後には北京の非首都機能の一部を担い、「ハイレベルの現代的社会主義都市」になると見込まれている。デジタルセクターが地元経済の少なくとも80%を占め、都市廃棄物の45%がリサイクルされ、高速インターネットが全面的に整備される予定だ。

原題:Xi’s Empty Dream City Shows Limits of His Power, Even in China (抜粋)--取材協力:ジェームズ・メーガ、Jing Li、Josh Xiao、Colum Murphy.

習近平氏 主導で開発が進む“理想都市”河北省・雄安新区を訪ねた

2020/11/1 6:00 今から4年前の記事

坂本 信博

 北京近郊に中国の習近平国家主席の主導で開発が進む街がある。北京の南西約100キロに位置する河北省・雄安新区。習氏が掲げる国家目標「社会主義現代化を基本的に実現」の期限である2035年までに、農村地区を人口200万人規模の副都に変える計画だ。ハイテク立国や脱炭素など中国の未来予想図を体現する“理想都市”を訪ねると「社会主義現代化」の光と影がみえた。

【関連】【動画あり】核誇る中国「原子城」を訪ねて

 「雄安新区建設は習近平同志を核心とする党中央が決めた『国家千年の大計』」。北京から車で約2時間。街の入り口には巨大な看板があった。「核心」は中国政治の権威を象徴する表現。習氏以外では、歴代最高指導者のうち毛沢東鄧小平、江沢民の3氏にのみ使われている。

 先端技術を駆使したスマートシティーを官民一体でつくり、大気汚染や渋滞が深刻な北京の機能を分散させる-。鄧小平氏が手掛けた深圳経済特区、江氏の上海浦東新区に匹敵する国家プロジェクト・雄安新区構想は17年に発表され、「習氏のレガシー(政治遺産)づくり」(外交筋)と目されてきた。

 あちこちでクレーンがせわしなく動き、つち音が鳴り響く。新区の総面積は有明海と同じ約1700平方キロで、インフラ整備予算は2兆元(約32兆円)新型コロナウイルス禍のさなかも約10万人が工事を続けてきたという。

   ■    □

 北京とは違い、空が広くて青い。一般公開中のモデル地区は、環境保全のためガソリン車の乗り入れを禁止。高層ビルが林立する北京や深圳、上海と異なり木々に囲まれた3~5階の低層ビルが並ぶ。郊外の大学に似た雰囲気だ。よく見ると、すべての木々にQRコードが付いている。生育管理のためという。監視カメラも至る所にあった。

 小さな白い車が近づいてきた。飲み物などを売る無人の移動販売車だった。顔認証で利用できる無人スーパーやホテル、映画館もある。第5世代(5G)移動通信システムや、政府が22年の実用化を目指す「デジタル人民元」も使える。まるで先端技術の見本市だ。

 見物客は多い日で3万人に上るという。会社経営の男性(42)は「習主席主導だから上海や深圳より発展する。ここに住みたいけど、家は買えない」と話した。不動産価格の暴騰で社会の格差が広がった教訓から、新区の土地売買は制限され、政府が賃貸住宅やオフィスを供給する。人口急増を防ぐ狙いもある。

 新区に参入する企業の多くは、アリババや百度(バイドゥ)など中国のIT大手や国営企業。外資優遇など経済主導で発展した深圳や上海とは異なり、政治主導の色合いが濃い。緑もあってきれいなのに、どこか居心地の悪さを感じた

 世界経済と連携しながらも、国内経済の循環を柱に成長を図る習氏の新戦略「双循環」。新区がそれを体現し、鄧小平氏や江氏を超えるレガシーとなるのか、それとも張りぼての見本市で終わるのか

 東京スカイツリーの7倍超の鉄骨を使ったというアジア最大級の駅も現在建設中北京と約1時間で結ぶ高速鉄道が来年6月に全面開通するそうだ。

 「3年前までは一面のトウモロコシ畑だったよ」。農業を営んでいた男性(53)は、0・1ヘクタールの畑を18万元(約290万円)で収用された。今は新区の見物客を乗せる電動車を運転し、1人5元(約80円)の運賃を稼ぐ。重機の群れを見つめてつぶやいた。「いいことは買い物が便利になったことくらい。前の暮らしの方がよかった」 (河北省雄安新区で坂本信博)

習主席肝いり 中国ハイテク都市「雄安新区」の実力は

2019.7.2 今から5年前の記事

広岡 延隆

日経ビジネス副編集長

 千年の大計」「国家の大事」。中国政府がこう位置付ける壮大なプロジェクトが進行している。河北省の「雄安新区」と呼ばれる場所に、新たに副都心をつくり上げようとしているのだ。

 習近平国家主席が雄安新区の設立を宣言したのは2017年のことだ。それまで中国での同地へのイメージは、日中戦争での激戦地となった「白洋淀」と呼ばれる湿地帯があるという程度のものだった。それまでは畑が広がるばかりの田舎だったが、あれよあれよという間に自動運転車など最新鋭のIT機器が導入されたハイテク都市になっているのだという。

白洋淀は日中戦争の舞台として知られる

 中国が国家の威信をかけてゼロベースから作り上げる最先端都市とは、一体どのようなものか。実際に足を運んでみた。

 雄安新区は北京市と天津市から約110kmの位置にある。北京から高速鉄道を利用する人が多いが、まだアクセスはイマイチだ。直通の列車に乗れば「北京南」駅から「白洋淀」駅まで1時間半程度で着く。ただし、その列車は1日2本しかなく、それに乗れない場合は途中駅で乗り換えに数時間待たされる羽目になるケースもある。

広大な駅前広場が整備された白洋淀駅

 白洋淀駅からはタクシーなどに乗り、町から約3km離れた駐車場に行く。そこからは電動シャトルバスで中心地まで移動することになる。雄安新区は公共交通と自動運転車しか想定していない。そのため、一般車両は入れないのだ。

 シャトルバスに揺られてしばらくすると現れてくるのが、総建築面積約10万㎡の「市民服務中心(市民サービスセンター)」だ。行政サービス、会議、商業施設などの低層ビルが並んでいる。

着いたのは夜遅くだったので、そのままホテルに直行した。中国人であれば身分証を使ってチェックインすれば顔認証による部屋の開錠が可能になる。ただし、残念ながら日本人は対象外だ。鍵を持ち歩かずに外出している中国人を見ると、少し羨ましい気持ちになった。


顔認証のチェックイン機


顔認証で部屋のロックが開けられる

 ホテルに泊まっている人の多くは、先端技術を見てみようという観光客のようだ。室内には午後8時までに申し込めば、翌朝9時から雄安新区をガイドするツアーに参加できるとの案内が掲示されていた。

 翌朝になって外出して最初に目撃したのは自動小型清掃車だ。ゆっくりと動きながら地面を掃除している。危険性は感じないが、担当者が後ろにずっとついて歩いていた。

ゆっくりと走る自動小型清掃車

 ここからは現地ガイドと合流して市内を見て回ることにした。ガイドに言われて建物をよく見ると、壁や柱などの建材が同じだ。建材は全て規格が統一されており、工場で作って現地に運び一気に組み立てたのだという。建築に要した日数はわずか100日あまり。「当初は83日でつくる予定だったんだけど、ちょっと遅れてしまった」とガイドは少し残念そうに語った。

 そのような突貫工事で大丈夫なのか不安になるが、10年程度で建て直すことを前提にしているという。そうした割り切った考え方を採用してしまえば、確かにITも環境も最先端の技術がいつも取り入れられる。リサイクルが可能な素材を使い、雨水の循環システムを採用するなど環境には徹底的にこだわっているのだという。

スターバックスやマクドナルドも出店

行政サービスは縦割りを廃して、できる限りオンラインで完結するようにしている。通常は登記や納税関連など、手続きごとに別々の役所に行かねばならない点は中国も日本と同様だ。こうした取り組みが他の地方政府にも転用されれば、効果は大きそうだ。

デジタル化された行政サービス

 市内では百度(バイドゥ)が主導し世界の自動車大手が参画する「アポロ計画」による自動運転バスが巡回していた。アプリで事前に申し込めば乗車することもできる。時速20km程度でゆっくり動いており、すれ違う際には互いに一旦停止するシーンも見られた。

百度の自動運転バス

 商業施設はレストランやマクドナルド、スターバックス、書店、映画館などが一通りそろっているが、まだ住人が少ない上に平日の昼間ということもあって人影はまばらだった。その中で観光客が集まっていたのはネット通販大手、京東集団の無人スーパーだ。店頭にある大きなQRコードを中国人ならまず持っている「微信(ウィーチャット)」のスマホアプリで読み込み、顔写真を登録する。それが終わると顔認証によりゲートが開き、店内に入れるようになる。品物を手に取って、出口に行くと商品に貼られたRFIDタグを読み取り、顔認証と組み合わせてウィーチャットで支払う。

京東集団の無人スーパー

 ただし、無人スーパーという名前とは裏腹に、現状では担当者が常駐しているのが実態だ。記者が購入しようとしたペットボトル飲料はタグが外れていたようでうまく認識されず、担当者が慌てて代わりの品を取りに行く一幕もあった。顔認証には毎回数秒かかるため、その間は少し不安な気持ちにもさせられる。万人に受け入れられる完全無人店舗の実現は、もう少し先の話になりそうだ。

現時点ではハコモノが優先していると言わざるを得ない。現在入居している企業のほとんどは国有企業で、社員も渋々移ってきた人が多かったという。民間企業では百度やアリババ集団、騰訊控股(テンセント)などが入居しており、日本勢ではパナソニックや日立製作所も事務所を開設している。先端的なプロジェクトへの参加機会を得られるのは大きいが、中国政府とのパイプづくりに価値を見いだしているというのが本音だろう。

 ニーズが乏しい場所に無理やり大都市をつくり上げようとしているように見えるが、中国政府が本気なのは間違いない。19年9月末には雄安新区と北京の間に新空港を開業する予定で、新たに高速鉄道も開通させる計画だ。数カ月単位で表情を変えていくのが確実なこの地の動向から目が離せない。

中国の未来都市 雄安新区

中国が開発を進める雄安新区は,千年大計,国家大事として「深セン経済特区」,「上海浦東新区」に次ぐ21世紀初めての全国規模の新区構想と位置づけられている。昨今の新型コロナウイルスの影響で人々の価値観は変化し,理想の都市像も変化しつつあるが,世界の多くの有識者の叡智に基づき長い歴史に学んで作られた雄安新区計画は,大きく変わることなく着実に進んでいる。本稿では,中国の都市化の歴史をひもといた後,雄安新区計画の概要と建設の推進状況を紹介する。


執筆者紹介

陳 楊秋

  • 日立(中国)研究開発有限公司 総経理

  • 中国政府,研究機構を経て日立中国に入社。現在,中国における研究開発と外部連携の推進に従事

頼 寧

  • 日立(中国)研究開発有限公司上海分公司 経営企画部 資深経理

  • 現在,戦略企画,中国市場・技術の動向調査や経営管理業務に従事

張 雪婷

  • 日立(中国)研究開発有限公司 経営企画部 経理

  • 現在,戦略企画,中国市場・技術の動向調査や経営管理業務に従事

はじめに

図1│雄安新区の位置と開発イメージ


雄安新区は北京の南に位置し,スタートアップ区,先行開発区などの開発が進められている。

2017年4月1日,中国共産党中央委員会と国務院は,河北雄安新区の設立決定を発表した。習近平国家主席をはじめとする中国最高指導部の肝煎りプロジェクトである雄安新区は,千年大計,国家大事として「深セン経済特区」,「上海浦東新区」に次ぐ21世紀初めての全国規模の新区構想と位置づけられている。雄安新区を質の高い発展を推進する全国の見本,現代の経済体系の新たな牽引役として建設することは,国家戦略上重大な意義がある。なぜなら中国の未来都市 雄安新区は,2035年までの超長期プランで,「創新智能(イノベーションインテリジェント)」,「緑色生態(グリーンエコ)」,「幸福宜居(幸福で住みやすい)」を実現する最先端都市をめざしているからだ。昨今の新型コロナウイルスの影響で人々の価値観は変化し,理想の都市像も変化しつつあるが,世界の多くの有識者の叡智に基づき長い歴史に学んで作られた雄安新区計画は,大きく変わることなく着実に進んでいる(図1参照)。本稿では,中国の都市化の歴史をひもといた後,雄安新区計画の概要と建設の推進状況を紹介する。

中国都市化の進展と都市発展のトレンド

図2│中国と世界主要国の都市化率の推移


中国の都市化率は,政府の政策により近年急速に上昇している。

中国では経済発展に伴い都市化が急速に進展し,都市化率は,2000年の36.22%から2019年には60.9%まで上昇した(図2参照)。

2010年から中国政府は都市化戦略を実施し,都市化率の上昇だけでなく,都市発展の質の向上にも注力してきた。中国の都市化は政府主導の下,技術の進歩および新興企業の成長,住民の生活スタイルやニーズの変化などにより,都市の生活環境改善,インテリジェント化,安全と健康,住みやすさ,継続的発展などさまざまな面で進化している。関連政府施策の中では,各種モデルシティ建設の推進が大きな役割を果たしている。そのうち,特に低炭素エコシティ,スマートシティなどのモデルシティ建設は,全国の幅広い範囲で展開され,都市の質の向上を促進している(表1参照)。

アフターコロナの中国都市発展においては,デジタル技術によるスマートシティの建設加速,都市の公衆衛生管理強化など,健康と安全の重要さが改めて認識されている。今後政府の「新インフラ」投資施策により,5G(5th Generation),AI(Artificial Intelligence),データセンターなどの新型インフラの強化,都市建設のスマート化によって,健康,安全,住みやすさなどのQoL(Quality of Life)はさらに重視されていく。これらの取り組みは北京,上海,広州などの大都市から中小都市にまで拡大しており,また新しい都市開発においても,都市設計の段階から各種先進理念を導入している。世界から注目されている雄安新区は,中国国内でも未来都市,千年大計と位置づけられ,まさに中国の都市発展の中で追求してきたことや,未来都市のトレンドを反映し,グリーン,スマート,人文,創新などの理念で設計され,建設を進めている。

表1│中国政府が推進している主なモデル都市の施策


中国政府は都市化戦略を実施し,低炭素エコシティ,スマートシティなどの各種モデルシティ建設により,都市の質の向上を促進し,都市化の建設経験を積み上げている。

未来都市 雄安新区設立の狙い

表2│雄安新区計画綱要の要点


雄安新区の計画と建設を指導する基本根拠である「綱要」は,2035年までの長期計画が策定されており,21世紀半ばの雄安新区の発展ビジョンも展望されている。

2017年10月に開催した「中国共産党第十九次全国代表大会」で,習近平総書記は,北京の非首都機能の分散を鍵として,「京津冀」協同発展を推進し,雄安新区をモデル都市として計画し,高水準で建設を進める必要があると述べた。この方針に従って,国務院京津冀協同発展指導グループをはじめ,河北省は,中央・国家機関の関連部局・委員会,専門諮問委員会が共同で雄安新区の計画を深く検討し,2018年4月,党中央・国務院によって批准された雄安新区のマスタープラン「河北雄安新区計画綱要」(以下,「綱要」と記す。)を発表した。綱要には雄安新区の位置づけ,計画・建設のミッションと目標,推進プランなどを定め,2035年に都市部の建設を完成し,2050年に国際先進都市になる未来像が明示されている(表2参照)。

雄安新区の都市計画体系「1+4+26」構築

表3│雄安新区の都市建設計画体系の概要


「1+4+26」計画体系は,雄安新区の大規模建設に向けて堅実な基礎を築いた。

2018年4月に綱要が発表された後,雄安新区の都市計画を編成するため,河北省政府は国内外1,000名以上の有識者,200チーム,2,500名以上の技術者を招聘して,新区計画編成ワーキング推進グループ,計画評議専門家グループ,国家レベル諮問論証機構,省政府専門会議など複数の計画・評議・論証メカニズムを構築することで,質の高い計画体系を形成した(表3参照)。「1+4+26」とは,一つの雄安新区計画綱要,4点の地域・分野の総合計画,さらに洪水防止,震災対策,エネルギー,総合交通など26の専門計画から構成されたシリーズ計画である。

以上のうち,4点の地域・分野の総合計画は,雄安新区建設の空間設計と推進の段階計画を含んでいる。雄安新区は,河北省雄県,容城県,安新県3県および一部周辺地域で構成され,北京市および天津市までの直線距離はいずれも105 km程度となっている。開発総面積は1,770 km2で,「一主・五補・多節点」の考え方で設計されている。「一主」は198 km2範囲のスタートアップ区という雄安の都市部で,「五補」はスタートアップ区外部にある雄県,容城県,安新県,寨里郷,昝崗鎮の五つの地域を意味する。「多節点」は,周辺の多数の特色ある小さな町や美しい村を指している。なお,スタートアップ区の中に,38 km2の「先行開発区」を都市部のイノベーションモデル地区として先行建設する(図1参照)。

未来都市としての都市計画の理念と特徴

最先端の未来都市として,雄安新区の都市設計は「創新智能」,「緑色生態」,「幸福宜居」の理念を反映し,1+4+26の計画で具体化されている。綱要では,2035年に達成すべき38の具体的な目標(創新智能9項目,緑色生態17項目,幸福宜居12項目)を設定し,さらに目標の具体化と実現ルートの計画も作成しつつある。

・創新の城(イノベーションシティ)

イノベーションシティとしての雄安新区のミッションは,世界的な科学技術のリード地域,イノベーション産業発展,研究開発,現代金融,人財リソースの相乗的な発展を実現することである。そのため,雄安新区への北京の非首都機能移転は,主に以下6分野の関連機構を中心に実施する予定である。

  • 科学研究機構である有力大学,国家重点実験室,国家重点イノベーションセンター

  • 医療健康機構であるトップクラス病院,先端医療研究機構

  • 金融機構である金融企業本部

  • 先端サービス業におけるソフトウェア,情報通信,設計,コンサル,物流,電子商取引などの企業本社

  • 先端技術産業における次世代情報技術,バイオ医薬,バイオ健康,省エネルギー環境,先端材料研究・開発に従事する中央・民営・科技型企業

  • 中関村科技園の分区

以上の機構や企業がメインとして,今後,イノベーションの発展分野における国有・民営各種企業の設立,ベンチャー企業の創立を奨励する施策や,優秀人材を採用・育成する施策により,イノベーションを次々と生み出す都市の実現を狙っている。

・智能の城(インテリジェントシティ)

図3│雄安新区インテリジェントシティの推進イメージ


インテリジェントシティは,四つのプラットフォームと五つのシナリオ基づいて推進される。

雄安新区のインテリジェントシティ建設の計画目標は,新型インテリジェントシティ的なインフラと伝統的な都市インフラを同期的に計画し,雄安のリアルシティとデジタルシティの建設を並行して推進することである。雄安新区のインテリジェントシティ的なインフラというのは,主に全域インテリジェントセンシングシステム(IoT:Internet of Things),次世代通信ネットワーク(5G),都市クラウド・ビッグデータPF(Platform),都市コンピューティング能力,都市ブレーン(AI)などの次世代インフラを指している(図3参照)。インテリジェントシティ建設は,世界の都市の中に模範的な前例がないため,雄安新区は国内外で幅広く吸収した他のスマートシティ建設の経験に基づき,多くの領域で先駆的な探索と実践を行った。特に,情報・建設・交通・金融などの分野での有力大学,科学研究・設計機関,建設会社とインテリジェントシティ建設標準を共同で研究し,2020年5月,雄安新区は雄安新区インテリジェントシティ建設標準体系(1.0版)を正式に公表し,IoT端末建設(道路),5G通信建設ガイドラインなど第一弾の標準成果8件も発布した。インテリジェントシティ建設標準では,インフラとセンシングシステムの構築,インテリジェント化応用,情報セキュリティの三つのカテゴリーに分かれており,九つの側面のインテリジェントシティ標準システムが含まれ,100件近くの基準が計画された。そのうちのインテリジェント化応用については,今後グローバルにオープンし,先進的な技術を導入する協創の形で発展していく方針である。

・緑色の城(グリーンシティ)

雄安新区の設立は,生態文明発展を背景に,中国都市化の変容と発展の道筋を探るという重要な使命を持っている。新区建設の目標の一つは,生態環境の優先とグリーン発展を徹底し,青(水域)・緑(森・畑・草)の織り成す,水・都市の統合という都市空間パターンを構築することである。2035年までに,青緑空間の比率は70%以上,森林のカバー率は40%,スタートアップ区で300 m以内に公園施設サービスを100%整備するなどのグリーン指標達成をめざしている。生態環境の他に,インテリジェント交通システムとインテリジェントシティの構築もグリーン・エコ開発の理念を徹底的に実践する。またグリーンな都市開発に向けて,節水型社会建設の全面的な推進,海綿都市(スポンジシティ)の建設,グリーンビルディングの普及,グリーン建築材料の使用,雨水・汚水の分流,循環的な汚水・ゴミ処理・再利用,再生可能エネルギー給電,多様かつ清潔な給熱システムの建設を推進し,グリーン基盤を築き上げる。

・宜居の城(住みやすいシティ)

雄安新区の計画は,人間中心の理念を反映し,住民に快適な文化教育・医療健康・社会保障・社会公益サービスを提供するため,社区(コミュニティ)-近隣-ネイバーフッドという三階級の公衆サービスセンターを構築し,分層的なコミュニティサービス体系を築き上げる。例えば,先行開発区の社区では,公共交通機関の乗り換え拠点,中等教育学校,保健サービスセンター,文化活動センター,社区サービスセンター,全民フィットネスセンター,高齢者ケアセンターなどの施設を備え,サービス半径約1 km,カバーエリア約3 km2,サービス人口約5万人を15分圏内の中に形成し,合計6か所の15分生活圏が計画されている(表4参照)。

交通面の計画は利便性を反映し,周辺の主な都市につながる快適な軌道交通網の構築や,スタートアップ区においては300 m以内に公共交通サービス拠点を置き,市政道路の公共交通サービスカバー率100%を目標としている。また公共交通+自転車+徒歩というグリーンモビリティモードを保障するため,都市・組団(City Clusters)・社区の緑地・公園・専用道路がつながる徒歩と自転車モビリティ施設を構築し,快適にかつゆったり暮らせるような環境を創出する。

表4│雄安新区の公衆サービス管理体系


公衆活動空間と公衆サービス施設を分層的に配置し,合理的な都市生活圏を構築する。

雄安新区建設の推進状況

図4│雄安市民サービスセンターの建設前後の様子


2017年12月7日の着工から僅か112日で竣工した雄安市民サービスセンターの建設前後の様子を示す。総建築面積9.96万km2の敷地は,公共サービスエリア,行政サービスエリア,生活サービスエリアと入居企業オフィスエリアの四大エリアより構成されている。

2017年4月に雄安新区の設立が決定されてから,各種計画を作成しながら,新区の建設を徐々に開始した。2017年11月以降,雄安新区周辺の生態環境の整備とともに,雄安市民サービスセンターの工事を開始した。同センターは雄安で初めてとなる大型都市建設プロジェクトとなり,市民向けの公共・生活サービスの提供と同時に,未来都市を体験できるデモ空間として2018年6月より運用を開始した(図4参照)。

生態環境を優先した理念の下,インフラ建設に先行して「千年秀林」植樹造林プロジェクトと白洋淀流域の水質・生態保護活動が行われる。2019年末までに,「千年秀林」の造林面積は2万ヘクタール(200 km2)を上回り,森林率を11%から22.7%に高めた。河道内ゴミの処理,企業の汚染排出行為の取り締まりなどで,白洋淀中心エリアの水質を劣V類からIV類に,試験エリアの地表水質をIII類に改善した。なお,低炭素循環型の街づくりに向けて,雄安は家庭用暖房燃料を石炭から電気・天然ガスなどのクリーンエネルギーに転換する「煤改電」,「煤改気」改造を全国に先駆けて進めている。

都市開発を支える最も重要な基盤として,雄安は都市間・広域内の連携軸を形成するための鉄道,高速道路と内部道路網を整備しつつある。北京大興空港と雄安駅を結ぶ京雄都市間鉄道は,2019年9月に北京区間(北京西駅―北京大興空港間)が開業,2020年4月に雄安駅の主要構造工事を完工した(図5参照)。雄安と外部をつなぐ幹線の京雄高速道路と区内の基幹道路網である「容易線」(容城県―易県間の道路工程)も,幹線道路の敷設・舗装工事が予定通り進んでいる。

雄安新区の建設計画に基づき,2020年からスマートシティの建設がスタートした。都市部の伝統的なインフラとデジタルインフラの同時構築で,フィジカルの世界とバーチャルの空間を融合する「デジタルツインシティ」の構築に向け,大規模かつ実質的建設を本格的に開始した。デジタルインフラは,「一つのセンターと四つのプラットフォーム」を中心にした枠組で推進している。「一つのセンターと四つのプラットフォーム」とは,都市コンピューティング(クラウド)センターと,ブロックデータプラットフォーム,モノのインターネット(IoT)統合オープンプラットフォーム,ビデオネットワークプラットフォームおよび都市情報モデル(CIM:Construction Information Modeling)プラットフォームのことを指す。プラットフォームに搭載する施設管理,交通,物流,エネルギーなどのスマート化の応用について,雄安市民サービスセンターをモデル地区に未来へのシナリオを模索している。同センターの敷地内では,2020年から順次,5G通信・路車協調の機能を備えたスマート街路灯の導入,5G応用モデルエリアの構築や多様なシーンに対応するV2X(Vehicle to X:車と道路の協調モデル)プロジェクトなどが始まり,今後は未来都市のひな形が形成されていく。

2020年1月のコロナショック以来,雄安新区は建設の早期再開に明確な姿勢を示した。2月24日には約50%の重点プロジェクトが工事再開,4月末に100%の操業再開率を達成した。国家発展改革委員会は,5月と7月の第1次・2次中央予算で計35億元(約535億円)を雄安に投資し,衛生環境を改善する下水・ごみ処理施設の改造,給排水・ガスシステムの地下工事,鉄道と周辺施設の建設の加速などを推進する計画である。

図5│雄安駅主要構造工事の完工

2020年7月13日に雄安駅は打ちっ放しコンクリート工事をほぼ完了し,屋根部分の雨よけのひさしと高架層鉄骨構造の工事を秩序よく進めている。

おわりに

雄安新区は,千年大計としてコンセプトの設計,目標と計画を設定し,着実に進んでいる。その都市開発の理念は,未来に着眼した中国都市建設の夢を反映しており,中国の都市化進展に必ず大きな影響を与える。2020年5月に開催した第13回全国人民代表大会では,2020年度および今後の中国経済の継続的発展の方針を発表し,アフターコロナの内需拡大,経済成長に向けてイノベーションの強化,新インフラ投資,新城鎮などの施策を公開した。都市化と地域発展は,各種施策の実施により大きく促進され,今後の中国の経済成長の牽引役になっている。都市発展の重点は,デジタル化,グリーン化に加え,公衆衛生体系の構築,市民の健康と安全の確保が新たな注力点として重視されている。

雄安新区の建設推進には,グローバル先進技術を活用し,オープンな新しいプラットフォームを構築する狙いもある。今後の建設の進展に伴い,グローバル企業の参画する機会が増加する。一方で中国の都市化の進展には,雄安新区のような都市の新規設立だけでなく,既存都市の改造,大都市と中小都市の連携による地域発展が必要で,ここに大きなビジネスチャンスが生まれる。日立は,このような機会を生かし,雄安新区をはじめとした都市建設に関わるビジネスの推進を通じて,中国における人々のQoL向上に貢献していく。


参考文献・参考資料

習氏の理想都市は空っぽ、権力の限界露呈-北京に近い「雄安新区」 (msn.com)

習近平氏 主導で開発が進む“理想都市”河北省・雄安新区を訪ねた|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

中国・習近平氏「肝いり」の新都市を幹部と揃って視察 (tv-asahi.co.jp)

習主席肝いり 中国ハイテク都市「雄安新区」の実力は:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

中国の未来都市 雄安新区:日立評論 (hitachihyoron.com)

大躍進政策 - Wikipedia

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?