タイムリーエラーにかける言葉
ここぞ!という時にヒットではなくエラーをやらかしてしまう…1年生ならでは。めちゃくちゃ怒られて落ち込む。そんな人にかける言葉について。
通関士1年生の頃は、今思い出しても震えがくるようなミスをやらかしていた。
その時、私に声をかけてくれた「生きる伝説(レジェンド)」通関士のお話です。
税関の執務時間は17:15まで。
1日の仕事が終わって、てじまいを始めていた16:10、事件は発覚。私が担当した輸出許可書に間違いを発見。この頃の私は、実績のあるルーティン業務に慣れてきた頃ではあるが、トラブル対応はハンドリングできない1年生通関士。
許可後訂正できるか?まずは上司に報告。
訂正不可の箇所で、撤回からの再申告がいると…この船に間に合わないかもしれない、どうしよう…とにかくめちゃくちゃヤバい状況にひたすら謝るが、ただでさえ、「女の通関士は要らん!」な現場でめっちゃ怒られて、目の前では首脳会議が開かれケンケンガクガク…
その輪の中に、1人の紳士が入っていき、書類を持ってこちらに向かってきた。
前所長で今はシニアとして再雇用のシゴデキ通関士。その仕事ぶりは「生きる伝説」。私は超リスペクトしていて密かに「レジェンド」というあだ名をつけていた。
レジェンド
「この件、時間のこともありますから、私の方でしてもいいかな?」
私
「ほんとにすみません!よろしくお願いします」
自分がミスったのに何をどうすれば良いかもわからず、託すことしかできなかった。
税関に経緯報告→怒られる→謝る→撤回の申出書やらマニュアル申告書を作成→税関に原紙持参→今後の対策も含め指導される→帰社→税関での撤回処理→再申告
ざっとこんな流れで、イメージ的にはゲームのゴール目前で振り出しに戻された感じ。(今と違ってシステムから電子送信はなく、原紙持参オンリー)
倉庫や代理店からも問い合わせていうか、怒りの電話がどんどんかかる。
「積めるの?間に合うの?作業予定が…」
に
「ご迷惑おかけしてすみません。この本船に積みます。」
穏やかな口調で、でも、ハッキリと伝えるレジェンド。
撤回処理完了の連絡が来て、再申告の準備をしているが時はすでに16:40。
これから再申告するのに、積むって言い切って大丈夫なのか?もしも積めなかったら…自分がやらかしたせいで大変な事態。
自分のミスでもないのに、関係者全員に謝り、時間のない中で輸出許可するためにすごいスピードで、職人は旗を振り、事態の収拾に努めていた。
レジェンド
「審査をお願いできますか?」
私
「(え?私?!)はい…」
赤ペンを持つ手が震える。さっき間違えた箇所、レジェンドが正しくしてくれている。
審査完了し、申告、無事に許可。17:00。
ホッとして涙が出そうになる。でも女はすぐ泣くから嫌、みたいになると嫌だから意地でも泣かない。
レジェンドに駆け寄り、とにかく詫びる。
レジェンドは優しくこう言ってくれた。
「今日、貴女がこの対処方法がわからなかったのは、今日まで貴女がこのミスをしてこなかったから。それはとても素晴らしいこと。誰だってね、初めての作業はわからないものです。
いやあ、私なんかね、何十年とこの仕事して撤回もたくさんしてきたから。だからできただけ。
今日の書類1式、目を通してみて、確認できたら書庫に戻しておいてください。不明点は明日にしましょう。
大丈夫、経験を積めば必ずできるようになります。おつかれさま。」
書類1式を私に渡してレジェンドは帰っていった。
ありがとうございました。
会社を出ていくレジェンドの背中に頭を下げたとき、涙が溢れてきた。
すでにめちゃくちゃ怒られていた1年生に優しい言葉をかけてくれ、こうするんですよ、というお手本を見せてくれたレジェンド。
この日から、私はレジェンドに弟子入りして、いろいろと教えてもらうことになる。
通関士として迅速かつ適正な申告を行うこと。
単に申告という業務だけではなくて、仕事に対する姿勢や通関士に求められる資質など、たくさんのことをレジェンドの背中から教わったと思う。今でも私の憧れ、推しの通関士。
私もいつかそんなふうになりたい。
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