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若さの価値

3月はなんでこんなにエモいのだろう。毎年のように感じるこの哀愁が漂う季節は、何にも代えがたい気持ちにしてくれる。それは現実逃避なのか。
人として、完全に大人の部類に張っている24歳。

僕は、大学生のころ、塾講師でバイトをしていた。今は広告代理店で働く社会人なのだが塾で学んだ人に教えるというスキルは自分の中で活きているように感じる。
人に教える際は簡単に言うとその人に寄り添う(どういうスタイルの人なのか)という個性を見極め、それに合わせていく事が必要とされる。

まあこんなことは題名とは全く関係ない。ではなんで塾の話をしたかというと僕の教え子である生徒の何人かが高校を卒業した、という報告を受けたからだ。
特に鮮明に覚えているのが、当時僕が受け持っていたその生徒は中学二年生だったのだが、今となっては高校3年生となり、来月からどうやら大学生になるらしい。
大学に合格して、彼氏もできてまさに順風満帆な学生であると僕は報告を受けて感じた。

僕が大学一年生の時、初めて集団授業を行ったときのクラスに彼女はいた。
その子は、ひどく人に対して冷たくあしらう傾向がありどことなく他人を信用していないような子だった。
当時の僕は今の彼女くらいの年齢だったわけなので当然扱いが大変だなと思いただただ彼女の授業をするのが苦痛だった。
ただ、どうしてか彼女が人を邪険に扱うが、それでも誰かと話したい、信じたいという気持ちが言葉や態度の節々から伝わってくることがよくあった。当時僕が中学生だった頃も、なんだかそういった青い悩みを抱えていたな、と思い自分の経験則から彼女へできるだけ心を開いてもらうよう働きかけた。少しずつではあるが、人を選びながらも僕に対しては少しずつオープンにその日あった出来事など自分のことを話してくれるようになった。
当時の僕は、それがすごく嬉しかった。何者でもない自分が必要とされたような、そんな感覚があったから。

彼女が中学3年生になり、受験が迫ったころ、すでに彼女は僕に対し打ち解けてくれるようになり、学校での悩みや家庭での悩みなどいろいろと打ち明けてくれた。当時の彼女にとってとてもつらいものだったのだろうと思う。家族が父子家庭だったことや学校でいろいろな苦い経験をしていたことを僕に話してくれていた。今思えば、それは彼女が僕を信頼してくれていたのだなと思うが、バイトの身だった僕はそれとなく聞いていた。

友達が僕はほとんどいない人間だったので、孤独で学校を生活している彼女に対して、とにかく肯定した。一人でいることは悪いことではないと。きっとその経験は大人になった時に役に立つ。なぜなら自分で行動するという事は、自分の意見で何かを決めていくから。常にそういう言葉をかけていた。
多分、腑に落ちていなくて、彼女は純粋に友達が欲しかったのだろうなと思うのでそこまで響いていたわけではないと思うけど。
受験の際もたくさん悩んでいて、自信なさげにしている時やたまに塾で泣いていることなんていうものよくあった。
ただ、彼女の孤高な頑張りもあって、高校には無事合格できた。それを聞いた僕は、とても嬉しかった記憶がある。
その後も、僕に個別で英語を教えてほしいと高校一年生まで教えていたところ、僕が社会人になり彼女の成長を見送ることは出来なくなった。

そうして最近になり、近況報告で連絡をくれた彼女はとても立派に成長性ていた。たった2年だけれど、友達もたくさん作り恋人もつくり、大学へ合格もした。きっと僕は知らないが、彼女のことだからたくさん努力をしたのだろうと思う。その報告を受けた時若さの力による成長は計り知れないと思った。

ただの一人の女の子の人生で、人間関係や勉強など、取るに足らない成長かもしれないが、彼女にとってはたくさんの葛藤や努力や挫折があったのだろう。陳腐だが、ぶつかった壁の量が多かったからこそ一回り大きく感じたのかもしれない。
その成長っぷりに僕はとにかくうれしく思った。
同時に、自分はその2年間で何が成長したのだろうかと思い返すと、何も残っていないことに気づいた。
そのときに、時間は平等であるが、その濃密さは平等ではないと思った。

彼女の2年間は葛藤が多くも楽しいことも沢山あったと思う。ただ、それは僕も同じことだ。僕が感じた葛藤も楽しいと思う事もきっとその先がわかっているから特になにか貴重な経験になったわけではないと思う。
言語化するのが難しいが、僕にとって葛藤や楽しかったことは彼女の葛藤、楽しさに比べれば、全く濃くないという事だ。
ここが若さの武器だと思う。

きっと何をしても新しい体験だから何をしても糧になる。それはとても楽しいことだと後で気付く。そうして大人になっていく。でも、いつまでも彼女には元気でいてほしい。そう思える子に勉強を教えられてよかったな、と春が訪れたこの土日の暖かさと胸にブローチを付けた高校生たちを見てそう思った。

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