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『シン・吾輩は猫である。』 1


吾輩は猫である。
名前はあるが、ナイショである。
この家に来たのは、ハッキリは覚えていないが、7年から8年前のことであったと認識している。正確に言えば、この家というよりは、ご主人に引き取ってもらったのが、それくらい前のことだったはずだ。ご主人の母親の知り合いの雑貨屋の婦人からの紹介で、吾輩はご主人の猫として、こうして今まで生活してきたのである。

ご主人との出逢いのことは、もうすでに吾輩の記事で説明しているので、このへんにしておくとしよう。

それはそうと、ご主人はここ最近、家に居ないのである。数ヶ月前に前に勤めていた仕事を辞めたらしくて、数ヶ月間、吾輩と一緒に家でゴロゴロとすごしていたのだが、ここ最近は、前のように朝になるとバタバタと身支度を済ませ、吾輩の〝お尻ポンポン〟もそこそこに、慌ただしく出ていくのである。

あ、〝お尻ポンポン〟というのは、吾輩の日課である。アレをやってもらわないと、一日がスッキリしないのである。ちなみに正確には〝お尻〟ではなく〝腰〟なのだが、吾輩の場合は、腰だけでなく、お尻もポンポンしてもらうので〝お尻ポンポン〟と呼称している。

えっと、何のはなしだったっけ?

あー、そうそう、ご主人が家に居ないという話だったな。

ご主人が家に居ないと、何かと吾輩にとって不便なのである。何が不便なのかと言うと、まず、気が向いたときに、すぐにお尻ポンポンをしてもらえないこともそうなのだが、その前に吾輩のお気に入りのベッドがなくなってしまうことだ。吾輩はいつもご主人の背中やお腹の上を寝床にしているのだが、それが無くなってしまうのは、吾輩にとってはかなりイタい痛手である。

そして、次にゴハンの問題である。

ゴハンの問題が大きい。吾輩は16時になると無性に腹が減ってくる。それはご主人と数ヶ月間、四六時中一緒に過ごしていたことで染みついてしまった生活習慣みたいなのもで、なかなか一度染みついた習慣を、ご主人が家に居ないからといって、そう簡単に変えられるものではない。

だから、とにかく16時になると、腹が減って仕方がないのである。

ただ、だからといって、勝手にゴハンを食べようにも、ゴハンは固く閉ざされた〝開かずの箱〟に封印されているため、吾輩の力では開けることは愚か、箱の中からゴハンを取り出すこともできない。しかも箱が透明なお陰で、吾輩がほんとに食べたいゴハンが、すぐ目の前に見えているのに、見えているというだけで、それをとり出すことができないのが、また腹立たしい。ハッキリ言って拷問である……。仕方ないので、いつも窓際に常備されているカリカリのゴハンで空腹を満たすのだが、それはそれで味気ない。なんとも食べた気にならない。

早い話が美味しくないのだ。

ただ、腹を満たすためだけに、胃にモノを詰め込んでいるだけだ……。

我が家の流し台にご主人の妻が隠しため込んでいる〝美味しそうなおやつ〟があるのは、知ってはいるのだが、そこを開けて中に忍び込もうとすると、いつもこっぴどく叱られるので、バレたときのことを考えると、流しの下のおやつに手を出すのは、さすがに勇気が出ない。

とはいえ、いつ帰ってくるかも判らないご主人を待っていても、空腹は満たせないし、なので、最近の吾輩は、夕方に急激に襲ってくる飢えを、仕方なくカリカリのゴハンで凌いでいるのである。

美味しくはないが、空腹には堪えられない。

それにしても、ご主人は外に何をしに行っているのだろうか?

また、どこかに出稼ぎにでも行っているのだろうか?

まあ、ご主人がお金を稼いで来ないことには、吾輩のゴハンも買えなくなってしまうので、それはそれでまた困るのだが、ご主人が家に居ないもの、そっちはそっちで、吾輩にとっては死活問題である。

吾輩も飢えには勝てないのである……。

あ!! と、思ったら、ご主人が帰ってきたのである。

さっそく、〝ゴハンとポンポン〟を要求するのである!!!

「ミャァ〜〜ぅオン!!! ミャァ〜〜ぅオン!!!!」


「ミャァ〜〜ぅオン!!!!!」


「ミャァ〜〜ぅオン!!!!!!!!」


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