見出し画像

お城を建てている

家を買うことになった。

ずっと前から探していたけれど、本当の本当に「ここにしよう」と決めたのは、この間の土曜日のことだった。



**********

子どもの頃から家に対する憧れが強くて、シルバニアファミリーの家具を並べてうっとりしたり、大人になったら森の中にツリーハウスを作って暮らすんだと妄想したりしていた。

大人になったら、とにかく自分の好きなものに囲まれて、好きな場所で暮らせるものだと根拠もなく信じていて、幼い頃のわたしにとって未来の家はお城のように輝いていた。

お姫様の出てくる童話が好きだったから、シャンデリアの下がった天井や、天蓋付きのベッドを夢みたこともある。

ただ王子様と結婚して幸せになるお姫様の話よりも、なぜかお姫様自身が困難な冒険の果てに宝物を手に入れたり会いたい人に会ったりするような話が好きだったので、枕元にキャンプで使うようなランタンを置きたいだとか、竜のひげで編んだ丈夫なかごがあったら便利かしらとか、お姫様らしい部屋に冒険者のようなワイルドな小物を置くかんじで、子どものころはとにかく自由に自分だけの家をもつことを空想していたように思う。


だけど、大人になって結婚して、いざ家をもつとなったら、夫とわたしふたりの家を探すことになった。

さらに言えば、夫の両親の希望を最大限に汲んで家探しをしたので、自由に選ぶことなどは全然できなかった。

というよりも、最終的に決めた家は、土地も建物も夫の両親のおすすめなので、夫と一緒に自分が主体的に家を選んだという感覚は、正直いってほとんどない。

それでも、今となってはあの家に決めてよかったと思えるし、わたしも夫も納得できたというだけでなく、夫の両親も満足しているなら、よかったんじゃないかなあと漠然と思う。



**********

夫と夫の両親とわたしと、みんなであれやこれやと言いながら決めた家は、シルバニアファミリーが住むようなかわいらしい家ではないし、もちろんツリーハウスでもない。

アラサーの夫婦が並に暮らしていくのにぴったりな、なんの変哲もない、だけど住みやすそうなふつうの家。

この家を、どうにかこうにか、わたしと夫にとってのお城にしていくことが、今のわたしの目標だ。

夫の宝物の鉄道模型(大量にある)とか、わたしの本とかピアノとか、これからふたりで選ぶソファとか、そういうもの一つひとつが心地よく家におさまって、外で拾ってくるストレスや悲しみを慰める空間になるように。

「ここにいれば安心」と芯から思える場所になるように。

年明けの引っ越しに備えて、少しずつ今のお城と別れる準備をしつつ、新しい住処へと気持ちを切り替えていきたいなあと思っている。




長く続けることをモットーに励みます。