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2023/04/21 丁寧に生き言葉をつむぐ

無事、大阪に到着した。時間にかなり余裕を持って行動したので時間通りに大阪に着けた。安心。それはそれとしていろいろハプニングはあったものの、早め早めの行動を心掛けていたためになんとかなった。
詳細は割愛したい。もうこれ以上恥を上塗りしたくないのだ、私は。


一人で大阪に行くのはこれで三度目になる。1回目は去年の夏、2回目は今月の頭。まさか1ヶ月に2回も大阪に行くことになるとは思わなかった。

大阪に縁もゆかりもなく、仲の良い友人Yがいるというだけで勤務地の候補に数えている。頼れる人がいる場所は安心できる。
Yは勤務している会社の社宅に住んでいて、「部屋が有り余ってるから本当に津田さんが大阪で働くなら一緒に住もうよ」と言ってくれる。嬉しいし、もしも本当にそれが実現したら素敵だなーと思っている。だから、縁もゆかりも無い大阪に面接を受けに行くのだ。おいそれと簡単に行ける距離ではないけど。


空港からYの家までは電車に乗って1時間と少しかかる。初めて大阪に来たときは知らない街並みにヨソ者感のようなものを感じていたのだが、3度目ともなれば車窓から見える建物や公園も馴染みのものになる。
全く知らない街なのに、少しずつ自分の記憶の一つになっていく。住宅街にある公園や、ちょっとおしゃれな小学校とか、トリキの本社ビルとか、それまで自分と接点のなかったものたちが馴染みのものになる感覚は良いものだなと思う。


電車に乗っている間、暇だったので本を読んだ。

暮しの手帖社「すてきなあなたに よりぬき集」2012年発行

以前、福岡天神の岩田屋にある「文喫」に行った時に購入した本だ。

スタッフが「〇〇に生きる」をテーマに選書した本のセットに組まれていたもので、私が選んだのは「丁寧に生きる」。片手間ではなく、ゆっくりと本に没頭できる時間に読みたいと思っていたのでちょうど良かった。

「すてきなあなたに」は、生活雑誌「暮しの手帖」にて連載されているシリーズだ。連載がスタートしたのは1969年。暮しの手帖社を創業した大橋鎭子が編者として、日々の中で見つけたこと、気付いたこと、うれしかったことを丁寧に描いている。
この「よりぬき集」は、単行本「すてきなあなたに」1巻〜5巻の中からよりぬいて選んだベスト版のような本だ。

大橋鎭子のことは、2016年に放送していた朝ドラ「とと姉ちゃん」で知っていた。高畑充希演じる主演の常子(鎭子がモデル)は、戦後の中すさまじい行動力で「女性のための雑誌」を作る出版社を起業する。劇中、常子が立ち上げた会社「あなたの暮し社」は「暮しの手帖」と「すてきなあなたに」をもじって付けられたものだろう。

前置きはこのくらいにして。

読みながら、自分がこのnoteでやりたいことってこれだなあと思っていた。
日々の中で、大橋鎭子が見つけた小さな発見や美しいものが丁寧な語りで綴られている。綺麗な言葉とか美しい言葉ではない。丁寧なのだ。
特に私が好きなのは、この短いエッセイの一文目。

一通の、すてきな手紙をよみました。贈物を受け取ったという、短いお礼状です。

暮しの手帖社「すてきなあなたに よりぬき集」2012年 p38

ハンガリーで生れた、その、派手すぎるほどのお皿を買う気になったのは、寒い冬の日が、あまりに長かったからかもしれません。

同上 p70

思いがけない、ひまわりとの出会いでした。

同上 p158

流れていたのは、聞きおぼえのある、ベートーベンの『田園交響曲』でした。

同上 p160

なんだかはっとさせられる、魅力的な文ばかりだ。
たった一文で、まるで鎭子の隣でお皿を見たりひまわりに出会ったりと、その場に立ち会っているような気持ちになる。一番最後なんて、この一文だけでふかふかの椅子とたおやかな「田園」を想起することができて、すごい。田園交響曲が流れていたのは喫茶店なのだが、たった一文で、落ち着いた照明とベロアの椅子をも想像できるような気さえしてくる。

ひと昔前の女性が使う言葉が好きだ。「〜かしら」「〜だわ」みたいな語尾は、いろんな小説や漫画ではよく見るものの、実際に使ってる人はほぼいない。私も使わない。
しかし、この「すてきなあなたに」に登場する女性たちは日常から「〜わね」「〜かしら」と、漫画に登場するような柔らかい言葉を使っている。
たとえば、

「お元気でいらっしゃるの」

とか。
こんな、柔らかい言葉遣いをする人にあこがれる。普段から「〜わね」と言いたいわけじゃなくて、言葉を選ぶ中にやさしい柔らかさを基準とした分岐があるといいな、と思うのだ。その分岐をひとつひとつ選んでいくことが、「丁寧」に繋がるのだと思う。

今日の日記も、いつもより少し丁寧に書いた。どうだろう。いつもと少し違ったように感じるかな。いつもと一緒かな。


「すてきなあなたに」には、森鴎外のお嬢さんが語る父親のドイツ料理のこだわりや、司馬遼太郎先生のお茶碗の思い出のお話など、私たちが知る著名人たちの意外な一面も登場する。かと思えば私が生まれた年に書かれた一節もあって、東京タワーは煌々と輝いている。
不思議な時空を旅しているような気持ちになれる一冊だ。そして、その旅にはたくさんの「すてき」で溢れている。
出会った人々のやさしさ、聞いた美味しいご飯のレシピ、街で見つけた美しい掘り出し物、可愛い花。それらを一つ一つ大切に数えて、丁寧に紡がれる言葉を読んでいると、確かに心がゆっくり洗われるような気持ちになる。
「丁寧に生きる」をテーマにした選書に選ばれるのも納得だ。これを読むと、丁寧に生きたくなる。

本当はお話ひとつひとつを取り上げて紹介したいところだけど、もう夜も遅いのでこのあたりで。
明日はweb面接と筆記試験があって、それが終わったら友人がおしゃれなカフェに連れて行ってくれるらしい。楽しみだ。

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