見出し画像

読書日記 #1 『避暑地の猫』宮本輝

読書日記なるものを書く。

2年ほど前、四半世紀に及ぶ僕の人生の中で強烈に片思いをしていた。その相手はとても知的で、リアクションや言葉選びなどから、その人の教養の深さがほんのりにじみ出るような人だった。その頃の僕らの共通言語は間違いなく「小説」と「映画」だった。

お互いに薦めた本を読み合い、その感想を言い合った期間は、今考えてみるとどうやら半年間程度だったけれど、その半年間で、小説を読むことがそれまでより楽しくなったことは疑いようがなかった。

その女性と連絡を取らなくなる直前、最後に薦められた小説が、宮本輝の『避暑地の猫』だ。

***

夏はとにかく楽しいもので、良い思い出や悪い思い出など、そういうなにかを思い出す時は、夏の気温や空がセットである事が多い。

宮本輝の『避暑地の猫』を読んだ。

日本の避暑地として有名な、軽井沢を舞台にした話だ。季節は、夏。

そもそも、宮本輝って?と思う人もいるだろうが、僕は個人的にこの人の文体がとても好きで、同じ情景を見たとしても、この人の言葉を通してその情景を解説された時、自分が捉えていたものとは全く違った景色になるのではなかろうか。というくらい素敵な文章だ。

世の中には、人知を超越した悪がいる。その悪は、こちら側が「悪」とは判断がつかないような姿をしていて、しかし、確実に側にいる。

この『避暑地の猫』にはそんな悪…というか、悪魔が何人も登場する。

ある角度から見たら、その人間は悪魔ではないのかもしれないけれど、ほぼ全て悪魔だ。悪魔達が、軽井沢に集結した感じだった。

僕は通勤電車の中でも、お昼休みにも、帰りの電車の中でも、四六時中この本を読みふけっていた。悪魔がはびこるこの小説のページをめくる手が止まらなかった。

狂気ともいえる、軽井沢の人物達。そんな人達の人間関係の進展を。過去の様子。ただただ辿る旅でした。

読後、こんなにも悪が出てきたにも関わらず、気持ち悪さは残らず、むしろちょっとすっきりした感じもあった。

***

こういう小説を面白い。と思える感受性は、とても大事にしたい。

一過性の、喉越しの良い小説、映画、音楽ではなく、もっと時間をかけて味わうような、そういう作品を面白いと感じられるのは、人生を豊かにする気がした。

『避暑地の猫』に対して、明確な感想を持つことは難しいけれど、言葉を拾いながら、思考を凝らすことの楽しさは、さすがは宮本輝だなあという感じ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?