この記事は行政書士試験に合格(以下は他の登録要件を備えている方を含む)して、実際に開業するための準備に関することになります。これから行政書士として開業予定の方は、是非こちらをご一読してから開業して頂けるとよろしいかと思います。また行政書士以外の士業においても通ずるところがあると思いますので他士業の方でもこれから開業をお考えの方は是非参考にしてください。 実際に既に開業されている方にはお役に立たないと思いますが、開業されている方は御自身の登録した時のことを思い出して頂くと懐かしい記憶がよみがえるのではないでしょうか。

まず、行政書士として開業するためには「日本行政書士会連合会」に行政書士として登録される必要があります。行政書士試験に合格しただけでは「行政書士」ではなく、あくまでも行政書士有資格者という扱いになり行政書士ではありません。違いを確認するためには日本行政書士会連合会の公式サイトの「行政書士会員検索」というページに氏名や事務所の所在地を入力すれば、登録されている行政書士は必ず検索結果として出てきます。逆をいえば、この公式サイトの行政書士会員検索に名前が出て来なかった者は行政書士ではありません。

この日本行政書士会連合会に行政書士として登録するためには、事務所の所在地のある「各都道府県の行政書士会」を通じて登録の申請をすることになります。例えば、東京都内に事務所を開設する者は東京都行政書士会、神奈川県内に事務所を開設する者は神奈川県行政書士会というように地域ごとに行政書士会というものが存在します。この各都道府県の行政書士会は全国全ての都道府県にありますので、そちらを通じて登録をおこなうことになります。

登録に必要な主なものは

1,登録申請書
2,資格を証する書類(試験合格者は合格証書)
3,履歴書
4,身分証明書(この身分証明書は一般的な運転免許等ではなく、民法上の行為能力の制限を受けていないことや破産宣告等を受けていないという市区町村で発行される証明書のことです)
5,誓約書
6,事務所の使用権を証する書面(詳しくは行政書士事務所設置基準参照、事務所の形態により必要になる書類が変わります)
7,事務所の位置図(最寄り駅等から事務所までの略図、インターネット上のgoogle MAP等をご利用して頂くのがよろしいかと思います)
8,事務所の平面図(事務所の位置や内部の事務機器等の配置が確認できる見取り図)
9、事務所の外観及び内観(建物の全景、事務所の入り口、表札の掲示予定場所、郵便受けの設置状況、事務所の内部写真)
10、顔写真(ポイント:ここの顔写真で行政書士証票と都道府県行政書士会の会員証が発行されます。写真映りを気にされる方はお気に入りの写真をご用意して頂いた方がよいです。)
※行政書士証票とは行政書士法の規定により、行政書士となると行政書士証票という写真付きの運転免許証のようなものが交付されます。
11,各都道府県会への入会届


等が必要になります。登録の形態や、各都道府県行政書士会により提出する書類に多少の違いがあります。
登録の費用についてですが、これは各都道府県行政書士会により納める金額が違います。概ね30万円程度とお考え下さい。参考までに登録者数が多い都道府県の料金を記載致します。

神奈川: 329,000円(登録手数料25,000円+入会金250,000円+登録免許税30,000円+会費4か月分24,000円)
東京: 276,000円(登録手数料25,000円+入会金200,000円+登録免許税30,000円+会費3か月分21,000円)
大阪: 305,000円(登録手数料25,000円+入会金250,000円+登録免許税30,000円)
※初期の会費納入月数は各都道府県行政書士会で異なります
※全国で最も高い都道府県は神奈川県です

会費の具体的な額:
会費は、所属の都道府県への会費と支部への会費があります。
神奈川県行政書士会の場合、年会費として72,000円がかかります。上述の会費1か月分6,000円分の12か月分となります。
支部会費は支部により異なります。例えば、私が所属している川崎北支部(川崎市のうち川崎区及び幸区を除く区域に事務所がある)ですと年会費が7,200円ですが、鶴見・神港支部(横浜市のうち鶴見区、神奈川区及び港北区に事務所がある)は年会費が無料でかかりません。都道府県と各地域に納めるものがあるとお考えください。

次に、行政書士登録に必要な職印というものを作成する必要があります。この職印というものは基本的に各行政書士毎に一つだけのものになりまして、この印鑑を届出する必要があります。各行政書士会によって違いがあると思いますが、登録時に行政書士会経由で注文することが出来ます。

(参考)
・行政書士法施行規則 第十一条 行政書士は、日本行政書士会連合会の会則の定めるところにより、業務上使用する職印を定めなければならない。
・日本行政書士会連合会会則第八十一条によって「角印」「縦書き」「『行政書士〇〇(名前)之印』と表記」とすべきことが決められております。

また、作成した印鑑(職印)については、会員が所属する行政書士会に届け出ることが必要です。職印についての要件もありますので、特にこだわりがなければ、所属の行政書士会で用意されたものを購入した方がよろしいかと思います。ちなみに神奈川県行政書士会では字体も三種類の中から選べますので、ご希望に近いものがあるのではないでしょうか。

申請書を提出し、登録費用を納入すると行政書士として登録が出来るかの審査が開始されます。おおよそ2-3ヶ月を目安に考えておくのがよいでしょう。なお、登録日は月に2回が設定されており、毎月1日か15日のどちらかしかありません。登録が完了しましたら、正式に行政書士として業務を開始することが出来ます。

しかしながら、ここで考えて頂きたいのが登録の申請を行ってから行政書士となるのに、2-3ヶ月は最低かかる期間があるのです。そのため開業予定の方は、この2-3ヶ月を大いに活用しなければなりません。登録されるまで待ってから、準備をしたり営業をかけるようでは開業初期段階では上手な時間の活用とは言えないでしょう。

それでは、どうしたらよいのでしょうか?それには登録される少し前に遡って考えてみます。実際に登録申請書や事務所の設置等で時間が必要になりますので、実際に開業をお考えの方は最低でも半年前からご準備をされる方がよろしいでしょう。

下記は一例ですが、開業するためには他にも多くのことが必要になります。

1,名刺の作成
2,友人・元会社の同僚等へ開業するということの周知
3,趣味やサークル仲間へ開業するということの周知
4,家族及び親戚関係全員への周知
5,事務所ホームページの作成
6,異業種交流会への入会
7,事務所で使用する各種のフォーマット関係の整備
8,主力取扱業務選定及び業務知識の習得
9,家庭用のパソコンではなく最新でグレードのよいパソコンへ入れ替える
等、各種様々なことがあります


※9番のパソコンの入れ替えは本当にお薦めします。

この記事をお読みの多くの方は事業主として活動されたことが無い方が大半だと思います。事業主はサラリーマン等の給与所得者と違い、売上が確保できない場合には生活の保証自体がされません。開業というのは、ある意味厳しい選択でもあるのです。このあたりの心構えが出来ている方であれば問題がないのですが、中には心構えが出来ていない方も見受けられます。

そのため、まずは行政書士登録の申請をする前に出来る事は全てやっておいてください。逆に開業後に開業前に出来る事をしているようではいけません。例えば、取扱業務は何にするのかということをはじめ、ホームページを作成するにしても業者さんに頼むのか・自分で作成するのかという事やホームページに載せる内容はどうするかなど様々なことを決める必要があります。当然ですが、取扱い業務を何にするかによりホームページの構成も変わります。これを決めるだけでも相当な時間がかかることを覚悟しておくべきです。

異業種交流会ですが、参加するものにより条件が異なるので注意が必要です。 有名な異業種交流会といえば「BNI」、「守成クラブ」、「ニーズマッチ」、「真誓会」等の団体が有名ですが、交流会自体ではかなりの数が運営されているために、どれに参加してよいかわからないかと思います。参加するものの中には行政書士として登録していない場合は参加を受け付けてもらえない会もありますので、そのあたりは御自身で確認をしておくことが必要になります。 また、入会を希望されたとしても完全紹介制という会もありますので、ご希望される会に入ることが出来ないという事も十分に考えられます。
もちろんですが、参加が認められた場合は、この時点で御自身の専門分野に関しては十分な知識を有していることは言うまでもありません。仮にこの時点で、まだ知識がないようであれば参加は見送った方が賢明です。

なお、対面形式で会う交流会では多くの場合、懇親会等の名目で宴席が設けられることが多いです。お酒が好きな方であれば問題はないのですが、体質的にアルコールを受け付けない方はお茶などでも構いませんので、懇親会には参加した方がよろしいと思います。一番よろしくないのが、懇親会には参加せずに会が終わり次第すぐに帰宅してしまうのは避けた方がよいです。というのも、元々給与所得だった方は経営者という立場の方と触れ合う機会や直接知り合う機会はあまりなかったと思います。その中で、交流会が終わった後の懇親会で顔や名前を憶えてもらうことは最優先事項となるためです。

友人・知人・趣味・家族親戚関係の人達にも必ず開業前には周知をしてください。さらに、ここの方達の場合は電話やメール等ではなく直接会いに行くことをお薦めします。なぜならば、ここの人達及びこの人達の周辺の方は、あなたにとって今の段階での最有力顧客又は最有力顧客候補になるからです。ここの人達はあなたの人生で出会ってきた人たちの中でも、あなたの人となりを知っている方達です。ここの人たちからあなたの提供する業務内容のニーズが出た場合は、非常に高い確率で依頼に繋がるでしょう。

特に注目して頂きたいのが「友人・知人・趣味・家族親戚関係の人達の周辺の方(わかりやすく言うと“友人の友人”ということになります)」これは参考として書かせて頂きますが、「ジラートの法則」というものをご存知でしょうか?

ジラートの法則とは「どんな人にも250人程度の知り合いがいる」という法則のことです。この法則は「営業の神様」や「最強の営業法則」の著者であり、世界一の自動車営業マンだとされている、アメリカ人のジョー・ジラート氏が意識していた考え方です。この考え方を解釈すると、目の前の一人を蔑ろにしてしまうと、その後ろで繋がっている250人に対して影響があるということになります。逆に目の前の一人を大切にすることで、その後ろで繋がっている250人にも良い影響をもたらすことができるということにもなります。

これはアメリカというお国柄の影響もあり、繋がっている人数が250人ということですが、実際に日本の場合はもっと少ないかもしれません。余談ではありますが、この「250」という数字の算出根拠は、その方のお葬式に来た人数の平均値だそうです。話を戻しますが、特に開業当初から知人及び知人の周辺の方ではない方から依頼がたくさん来ることは非常に珍しいと思います。当初、依頼が少ない中でも事務所を維持していくために、まずはここの人達との交流を大事にすることをお薦めします。今までの人生でのあなたのお付き合いをしてきた状況が試される場と言っても過言ではありません。

このような準備を行政書士登録が完了する前にしておくことは、開業後にスムーズに事務所を運営するための必須条件となるでしょう。

大体ですが、ここまでの事務所設置費・行政書士登録費・職印代・諸費用・交際費なども合わせると目安として
・自宅兼事務所の場合 100万円から200万円位
・事務所を借りる場合 150万円から250万円位
※ワンルームマンション程度を想定
・事務所専用の場所を借りる場合 200万円から300万円位
※事務所専用の商業建物を想定
をお考えになるとよろしいかと思います。

なお、事務所を借りる場合は固定費として事務所の賃料を支払う必要がありますので、運転資金も合わせると最低でも上記の金額にプラスして100万円程度は多く用意しておくことをお薦めします。
よく、開業時に自宅兼事務所にするか専用の事務所を借りた方がよいかという話題が取り上げられますが、私の意見では「自宅兼事務所」をお薦め致します。なぜならば、これからあなたに依頼が来て、十分に報酬を得ることが出来るかどうか現時点で全くわからないのです。行政書士として開業して仕事がなければ月収は0円ということになります。その場合、運転資金が減っていくだけという状況になります。当然ですが扶養する家族を養っている方にとっては重大な問題です。そのような中で「賃料」という絶対的にかかる安くはない固定費を負担するという選択肢をすることは賢明な判断とは言えないでしょう。
しかしながら、既に顧客候補を複数社お持ちで確実に売上に繋がる見込みがある場合は事務所を借りてもよいでしょう。

また、どうしても専用事務所にしたいからといって周辺相場よりも安価で築年数が古い建物に事務所を設置することもお薦めは致しません。よく考えて頂ければすぐにわかりますが、新規のお店がオープンした場合にお店の外観がよくなかったら、あまり依頼者に良い印象を与えないことは明白です。

いよいよ、登録の日となり晴れて行政書士となりました。「お疲れ様でした」と言いたいところですが、今からが本当のスタートになります。開業後のお話は、また別の機会にさせていただこうと思います。是非これから行政書士又は士業として開業予定の方は、こちらをご参考にしていただければ幸いです。最後までお読み頂きありがとうございました。

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