スクリーンショット_2018-06-21_1

なぜ日本代表は数で優位だったのに苦戦したのか 〜数的優位に存在する落とし穴〜

こんにちは。

W杯が開幕して早くも2試合を終えるチームが出てくるくらいの時間が経ってしまいました。私も、毎日のようにゲームを楽しんで見ていますが各チームの現状のパフォーマンスやら、今後変化して行きそうなチームとピーキングを今に持ってきているんだろうなと予想をさせるチームなど、各代表のNecesidad(必要とされるモノ)が背景にあることを伺わせる各試合でワクワクして見ています。

全体的な印象としては、ほとんどのチームがナーバスな入り方をしてクラブチームで採用する様な戦い方よりもリスクを追わないゲームが多い印象です。

特に守備面ではゾーン3からプレッシングに行くチームはそこまでおらず、今はその段階に無いと監督は考えているのでしょう。ゾーン3からの守備は準備をシュミレーションが必要とされるのでアクションのコーディネートがしっかりと浸透していない場合はリスクが伴う戦術です。

いつもはゾーン2で待つ守備をしている様なプレーモデルの元でプレーをしている選手にとってはこの大会で前からのプレッシングを求められると、慣れていないアクションを実行することになるので、若干のズレが生じてそれがチームメートとのズレを生じさせ、という悪循環が生まれ結果的に機能しないということも起こりかねません。

スペイン、フランスあたりはもっと行くかなと思っていましたが、そこまでではありません。ドイツはレーブが前大会から継続していることもあり、チームとしての機能性は確保されていると監督が決断した様でそこそこゾーン3からのプレッシングを実行しつつありますが、DFラインの背後のケアなどチーム全体のコーディネートにはまだ改善の余地がある様です。

優勝を狙う様なチームはピーキングを決勝トーナメントに入ってからにプランニングしているでしょうから、これから2試合をかけて試合をしながらプレーモデルを発展させていくのではないかと私は予想しています。

日本はコロンビアに勝利!!

そして、我らが日本代表はコロンビアに2-1で勝利をあげました!
非常に嬉しいニュースで、日本国民に次の試合を楽しめる余裕を与えれてくれたのではないでしょうか。

現場レベルでも、勝利ほど「自信」を深めさせてくれるファクターはありません。それまで全くうまくいっていなかったものがひっくり返ってしまうほど大きな効果を持つ「勝利」「勝ち点3」には本当に不思議なパワーがあります。私も、何度もこの存在に驚かされたり、助けられたりしてきました。

これも何か見えない力が働いているんだろうなと思わせる試合開始早々のPKは、何かサッカーの神様が私たち日本代表にチャンスを与えてくれているような感覚になってしまいました。普通だったらあんなことは起きませんからね。

世間のリアクションを見ていると「開始でPKを取れて、しかも退場者を出したから勝てたゲームだった。もし退場が出ていなかったら全く違っていたに違いない」と厳しい意見もありますが、私が思うのはそれも含めてサッカーなんですよね。確かに偶然かもしれませんが、それも含めてサッカー。
どんなに完璧な試合をしても、偶然と思える様なことでサッカーは勝敗が決まりますし(その原因が私に見えていないだけかもしれませんが)、レベルが拮抗すればその様なところで勝負はつくものです。

では、今回の記事は日本対コロンビアの分析を私なりにしたものを綴らせていただこうと思います。


意外と慎重に初戦を迎えたコロンビア

まず、私が気になったのはコロンビアが予想していた以上に探りながら、しかも個々の選手の解決策が無さそうにプレーする状態でゲームに入ったということ。日本がPKを獲得した前半2分50秒までにコロンビアは4回のボール保持のモーメントを迎えましたが、どれも良い形でプレーを発展させることはできませんでした。

1回目:左から右へサイドチェンジするが前進できず選択肢がなくなりパスを探しているうちに乾にファールを受ける
2回目:ゾーン1のサリーダ・デ・バロンで中を閉じる日本に対して、左CBが左SBへ不用意なパスミス
3回目:ゾーン1のサリーダ・デ・バロン。左SBを捨てて左CBへ飛び出した原口を剥がして左SBがフリーで持ち出して前進を図るが、コンビネーションでの前進ができずターンし中盤へパス。しかし、日本のプレスに捕まりボールロスト
4回目(カウンターでPKに繋がるプレー):日本の吉田からの縦パスをインターセプトして奪い、左へ展開してからなぜか不思議なタイミングへセンタリングをあげてこぼれ球を拾われて左のCBの背後を大迫が勝ち取りその流れでPK

これは、日本のアグレッシブさとコロンビアの迷いの相互作用によって起こった現象と言えます。おそらく、コロンビアはハメス・ロドリゲスの欠場など、プランが直前で狂ったことが少なからずチームの雰囲気に影響していたのだと思います。些細なことではありますが、その様な微妙な不安定要素が大舞台で大きな跳ね返ってくることもあるものです。この点も、日本に好条件を与えたと言えるでしょう。

さて、この様な状態に陥ったコロンビアベンチはどの様な状態になったのでしょうか?

私の経験から推測するには、

①臨む戦い方に合わせてシステムをどうするか?
②決めたシステムに対して選手の特徴がハマっていなくて選手の交代をしなければ誰をどうするか?(セットプレーの役割なども含めて一番良い方法を選択しなければならない)

この2つをどう処理するかを考えなければならず、しかも開始3分で大会の開幕戦。ですから、こんな状態をシュミレーションしているわけもなく、控えの選手をアップさせているわけもありません。

この様な事態はベンチにかなりの混乱を招きます。そしてその混乱はピッチにもほぼ確実に感染するもので、とりあえず選手たちが考えることは「この状況では、まず守備ブロックを形成しダイナミズムを抑え、ゲームを落ち着かせよう」ということです。その結果、コロンビアは1-4-4-1という布陣でブロックをゾーン2に形成して、日本CBは放っておき、縦パスに対してリアクションをするという策を取ってきます。

コロンビアが安定を取り戻すまでの時間帯に、日本としては2つの選択肢があったと思います。
一つは、人数が少なくなり混乱している相手に対して守備のモーメントでボールを奪いに前に出て行くこと。要するに勢いで相手を潰しにかかり試合を支配してしまう方法です。これを選択する際には、ボランチが一枚前に出て行き人に対してマークにいくことが戦術として必要になります。

この様にしてスペースと時間を奪うことで精神的にも余裕を搾取する可能性を見出し、相手を苦しめることが可能となります。

そして、もう一つはゲームプランを変えずに4-4-2のブロックをゾーン2に敷き、後方で数的優位を保ち待つ守備を行う方法です。そして、日本代表はこの方法を採用したと私は解釈しています。

ご覧の通り、コロンビアはサリーダ・デ・バロンの際、SBが深い位置を取りボランチがセンターバックにサポートをするコーディネートを採用してきましたが、日本のボランチは自分の従来の立ち位置に留まり、4−4のブロックと2トップは分離している様子が伺えます。

ただいくつかの誤算というか、困った現象が数回発生していました。それは、1トップのファルカオが日本の2人、3人相手にも優位性を発揮してしまっていたこと。もう一つは、左サイドバックのモヒカ(ジローナ所属)のクオリティが高く、原口のプレスを剥がして数的不利の局面を解決してしまっていたことです。

この様にして、全体の数的優位だから優勢だという解釈は非常に危険なもので、数的不利のチームが個人の優位とポジション優位がうまく発揮させて機能すれば試合を優位に進めていくことは十分に可能です。ボールの主導権を渡して時間をあげてしまうと、相手チームに攻撃のコーディネートを余裕を持ってさせてしまうことに繋がるので、そこをしっかりと踏まえて戦術の対応をするべきだったと言えるでしょう。たらればになりますが、あの状況では数的優位性を活かして不安定なDFラインにプレスをかけてさらに混乱を招くのも効果的だったと私は考えています。


攻撃面でも数的優位を活かせなかった日本の攻撃

攻撃フェーズにおいても残念ながら日本はそのアドバンテージを活かせていませんでした。

その理由は、
①数的優位からのパスの配給先での優勢の確保ができていない
②守備ブロックを作ってリアクションしてくれる相手に対して、ゆっくりとしたボール循環で相手を走らせていない

ことにありました。

数的優位からポジション優位を形成するという原理原則とJuego posicional(ポジショナルアタック、ポジショナルプレー)は切っても切れない関係で絶対的に必要不可欠なのですが、その原理原則をピッチ上で忠実にこなしている選手は柴崎選手のみでした。

彼は、自分がポジション優位(マークをしてきている相手の背後)にポジションを取れば他にフリーな味方を作ることができるということを知った上で常に自分がどこに立つかを考えてプレーしているインテリジェンスの塊の様な選手です。この大会でどこまで日本は柴崎のチームにシフトチェンジできるかが今大会、もっと言うと次のW杯のカギになると私は踏んでいますので、彼にはとても期待しています。

お陰でCBとボランチは安全な状態(前向き+フリー)でボールを持つことができるのですが、残念ながらこの試合では前線の選手たちのコーディネートが明確でなく立ち位置でポジション優位を取ることができていませんでした。

◆足りなかった前方の選手たちのコーディネート

このシーンにおいては柴崎がボールを保持して前に進むことができる状況でポジション優位を取れるスペースは赤丸で囲まれた地点です。どちらも中盤のラインの背後でライン間のスペースなのですが、ここでボールを受けられる様な選手は誰もいません。結局、このシーンは縦にボールが進まずに柴崎は酒井宏樹に横パスを出すことになり、コロンビアの守備にスライドされて前進のチャンスを逸することとなってしまいました。

この様なコーディネートは選手が個々に判断してポジションを取れというのは今の日本代表の選手の戦術理解度では正直なところ厳しいと思います。少なくとも攻撃の構造の立ち位置(スタートポジション)はプレーモデルとして提示されていないと機能はしないというのが私の考えるところではあります。この試合の前半は特に乾、香川、原口が攻撃で消えていた様に見えたのはこれが原因です。

あの状況であれば、長友と酒井をもっと前に立たせて、乾と原口を赤丸の様なポジションに立たせることでポジション優位を立ち位置で確保することができたでしょう。後半は、この様な現象がたまに出ていましたが再現性と言う点では数が少なかったので、この回数を増やす何かが必要なところです。

◆数的有利でどうファーストプレスを剥がすか:サリーダ・デ・バロン

加えて、後方からドリブルで侵入して相手を引きつけて味方をフリーにするなどのプレーができれば、もっと日本のボールを扱いを活かしたコンビネーションプレーを発揮できたはずです。

このシーンですが、パスを受ける吉田の前には大きなスペースがあります。
日本の前線はスペースを消すためにコンパクトに4−4のブロックを作るコロンビがいますから、ただ前進するために単純に縦パスを入れても優位性は存在せず崩すのは至難の業です。

そこで必要になるのは相手の守備組織を撹乱するために相手を引きつけるためのアクションです。ここでは相手のボランチか左のMFを引き付けるために吉田の前方のスペースに誰かが侵入することが必要です。

それができるのは2人。
①吉田がドリブルで持ち上がる
②吉田の前方にいる長谷部がファルカオの背後(ポジション優位)でパスを受ける

この2つが可能性として現実的な選択肢です。
しかし、このシーンでは吉田が選択したプレーは足元へボールを止めて前線へロングフィード。長谷部もパスコースを作る素振りはありませんでした。そして結果は相手に予測されてボールロストになってしまいました。

この様にして、いくら数的優位だったとしても原理原則に伴ったプレーをしていなければ、数の優位性を活かすことはできません。これが、コロンビアが一人退場になったのに日本代表が苦労していたからくりです。

この数的優位とポジション優位の関係性については、昨日発売になった「サッカー 新しい攻撃の教科書」で詳しく解説していますので、こちらを参考にしてもらいたいと思います。

「プレーにおいて数的な優位を見出すことは間違った選択であり、重要なのはその中にある質的な優位性である」
                『サッカー 新しい攻撃の教科書』より


セネガル戦は優位性のコーディネートが重要

さて、今回は日本とコロンビアの戦いを分析しましたが、次のセネガル戦は優位性のコーディネートが非常に重要な一戦となります。なぜなら、セネガルは4−4−2で中盤にブロックを敷き、ボールの保有権を日本に渡してくれう様な守備を行います。この様な時には、CBやボランチからの前線のポジション構造を整備してポジション優位やグループ優位を発揮して攻撃を展開することが求められます。

今回の試合の課題を修正する時間は十分にあると思いますので、この点に着目して試合を観戦したいと思います。頑張れ日本代表!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?