今週のおもしろかったマーケティングニュース解説 [2021年12月19日号]

今週の1週間で読んだニュースから、個人的におもしろいと思ったマーケティングの記事をピックアップしました。

選んだ基準は、マーケティングのものの見方や考え方、マーケティング事例を学べるニュースです。

記事は全部で12個あります。それぞれに、どこがおもしろかったかの解説もつけています。

じっくり読みたい事例記事 (4個) 

まずはじっくりと読み込みたいマーケティング事例の記事です。

チロルチョコのブランド戦略

 「そこに楽しさはあるのか?」  チロルチョコ ロングヒットの哲学

1個20円のチロルチョコ。

この記事はチロルチョコのロングセラーの秘密が読み取れる内容です。

記事のテーマは、「攻めの姿勢を崩さないチロルチョコのブランド戦略」 です。チロルチョコ社長の松尾裕二氏へのインタビューから書かれています。

特に印象的だったのは、チロルチョコが重視していることでした。ここにロングセラーの秘訣があると見ました。

抜粋して引用すると、

決してブレてはいけないチロルの本質を聞くと、松尾氏はこう答えた。 

 「おいしさはもちろんのこと、何よりも『楽しさ』と『面白さ』です。商品開発で重視するのも、『そこに楽しさはあるのか?』。チロルって最近、順当なものしか出さないよね、と思われてはいけません。楽しさを追求する姿勢が根底にあれば、顧客が大きく離れることはないと思っています」 

 (中略) 

商品ラインアップに関して松尾氏は、「自分たちが出したいものと、ファンの要望に応えるものが入り乱れているのが理想的」 と話す。

そう説明すると堅苦しくなるが、つまるところ 「さすがチロル、面白いことやるねー」 が最高の賛辞。その言葉を聞くために、今日もブランドに磨きをかける。

日経クロストレンド 2021.12.16

チロルチョコが色々な取り組みや新しい挑戦ができるのは、根幹に 「ブレない軸」 があるからなんですよね。

ここで言う 「ブレない軸」 とは、チロルの 「楽しさ」 「おもしろさ」 という共通の世界観です。これらがチロルチョコらしさという、他にはない独自のブランドになってます。

意思として 「これは変えない」 という軸が通っているからこそ、それ以外のことは変えられるのです。


社会貢献もする 「焼き芋の自販機ビジネス」 

 「甘〜い焼き芋」 の自販機ビジネスが、社会貢献に繋がる理由とは

自動販売機で焼き芋を販売している宮崎県の 「農福産業」 を取り上げた記事。

焼き芋は焼き上げから包装まで障害者の手によって行われており、社会貢献にもつながっています。

マーケティングの観点からは、マーケティング 4P がきれいな事例で、学びがあるのでピックアップしました。

✓ 農福産業 「焼き芋自販機」 のマーケティング 4P

  • こだわりの独自製法で、甘さが他の焼き芋よりも際立っている (マンゴーよりも甘い) [Product]

  • 焼き芋自販機で販売 (焼き芋を缶に入れての販売は特許を取得)  [Place]

  • スーパーで売られる焼き芋と比べ2倍近い価格 [Price]

  • 障害者雇用もする農福産業の取り組みはマスコミで伝えられ、多くの客がその理念に共感している [Promotion]


商品開発の PMF ストーリー

顧客に向き合い続けた結果、業界のセオリーとは異なる道を行くことに。サイカの PMF ストーリー

MarkeZine で、楽しみにしている 「PMF ストーリー」 の連載記事から。

PMF とは Product Market Fit の略です。プロダクトがマーケットに受け入れられる状態を指します。顧客ニーズに刺さり、ユーザーから必要とされる・愛される商品・サービスになることです。

PMF ストーリーのまとめは次の通りです。

出典: MarkeZine

個人的に興味深かったのは、

  •  「答えは顧客の中にある」 というブレない考え方

  • ターゲットを変え、セオリーとは逆のことをやった

  • PMF に終わりはない


 「音ハラ」 の問題を解決する静音ボールペン

ぺんてるの静音ボールペン ノック音が気になる人8割を捉える

ヒット商品の開発を紹介した記事です。

若年層のニーズを捉えた、ぺんてるの静音ペン 「Calme (カルム) 」 です。音ハラスメントの加害者になりたくない20, 30代に向けた、ペン先を出し入れする際に発生するノック音を抑制するのが特徴のボールペンです。

自社での消費者調査から見えてきた、まだ解決されていない不 (不都合や不満) を見出しました。不とは具体的には、自分が出すペンのノック音が周囲に迷惑を掛けてしまわないかという 「音ハラ」 の加害者になることを懸念して、ボールペンを使いたくても使えないことです。

ターゲット顧客にしっかりと向き合い、完全無音は求められていないこと、ノックしたという感覚に対するニーズが高いことの2点を実現する商品開発でした。

*  *  *

 「TikTok 売れ」 の解説記事 (2個) 

次のテーマは、「TikTok 売れ」 です。

ちなみに 「TikTok 売れ」 は、日経トレンディの 「2021年ヒット商品ベスト30」 で第1位でした (発表記事はこちら) 。


 「TikTok 売れ」  若者はなぜ短い動画で本を選ぶのか

TikTok で話題になった商品が爆発的な売上につながる 「TikTok 売れ」 を、NHK が記事にしています。個人的には、記事の中身そのものに加え、(マーケティングや IT 系のメディアではない) NHK が TikTok 売れを取り上げたことも興味深いです。

TikTok 売れの事例として、インフルエンサーの紹介をきっかけに、32年前に発表された小説 「残像に口紅を」 が再びヒットしたケースを紹介しています。

NHK らしい記事だと思うのが、なぜ若者は TikTok から本を読みたくなるのかを、インフルエンサーへの取材と若者への街頭インタビューから掘り下げていることです。

若者の声を紹介すると、

話し方がうまいので、あらすじもすべておもしろそうに感じるし、問いかけるひと言で引き込まれ、昔の本とか全然知らない作者の本とかも買おうと思わせてくれるのがよいところだと思います (女子高生) 

時間をとらずにぱっと視聴できて、内容も伝わってくるので本を買う気になりました (男子高生) 

芥川賞を受賞した作品などはすごい難しいイメージがあり、今まで読みませんでしたが、紹介される動画で見ると難易度が高いわけではなくて読みやすいことがわかるので、買って読んでみるきっかけになります (女子高生) 


TikTok フルファネル施策で『TikTok 売れ』を見事に巻き起こした 「Fit me」 のTikTok 活用法

では、TikTok をマーケティングにどう活用すればいいのかを、具体的な事例から学べるのがこちら。

メイベリン ニューヨークのリキッドファンデーション 「Fit me (フィットミー) 」 の TikTok 活用を紹介する記事です。

Fie me は、これまでの 「テレビで認知を取り店頭来店や店頭販促へつなげる。デジタルはその中間を担う」 から、「2021年は 100% デジタルで完結させる」 という大きな戦略変更がブランドの背景でした。

TikTok の活用方針は、

  • ブランドからの一方的なコミュニケーションではなく、ユーザーから発信、ユーザー同士での会話が生まれることを目指す

  • 1日で最大2社限定の TopView では、15秒から最大60秒までの音声付き動画広告を配信。他のメディアより先行して TikTok で流し興味関心を持ってもらう (コメントを生む仕掛け) 

  • TikTok クリエイターとのコラボ動画では広告色をなくす。ブランドが伝えたいことは 2 ~ 3 割に絞り、インフルエンサーの言葉で語ってもらう

ちなみに、TopView 実施後に小売からの反応があったこと。小売が TikTok キャンペーンに注目した事例としても興味深いです。


Z 世代の解説記事 (2個) 

続いて、Z 世代を解説した記事です。

Z 世代の特徴|マーケティング施策検討時に押さえておきたいポイント


Z 世代を、ミレニアル世代、Y 世代と比較してみた ~そのメディア意識とメンタリティ~


2つの記事とも Z 世代の特徴がわかりやすく解説されています。

Z 世代は、一般的に1990年代中盤から2010年頃に生まれた世代です。2021年現在で11歳から25歳前後の人です。

特徴の主なところをピックアップしておくと、Z 世代とは、

  • スマートフォンと共に育ったスマホ第1世代

  • ソーシャルネイティブ。今の主流の SNS (Twitter, Instagram, LINE, YouTube, TikTok など) の影響を受けている

  • 多様性や様々な価値観を認め受け入れる

  • 購入する際はリアルな情報を求める。デジタルで修正されたコンテンツや宣伝されることを嫌う傾向がある

  • 社会の問題や世の中の動きに関心、貢献意識が高いが高い

  • 世の中をクールに鳥瞰して捉え、" 大人のメンタリティ" を持つ

ピックアップした2つの記事は Marketing Native と電通ですが、前者の Marketing Native は SNS やスマホから、電通はテレビからの論点で、両者の着目点や切り口の違いも興味深いです。

電通の記事は、比較された Z 世代の1つ上のミレニアル世代と、 Y 世代 (45~54歳 (1967~1976年生まれ) ) の理解もできます。


広告の調査 / ガイドブック (2個) 

広告まわりの記事です。


世界的に成功する広告の特徴は 「実生活」 と 「ユーモア」 が上位。ニールセンがグローバルで実施した広告信頼度調査データからの分析結果を発表

分析結果のポイントは、

  • ユーモアを交じえた、実生活を描いた内容が受け入れられやすい

  • 最も信頼されている情報は知人からの推奨

  • 製品ではなく、信念を売る

3つ目について、以下のコメントが興味深いと思いました。

今回の結果は、私たちが生きている世界を、まさに反映した内容といえます。

人々の関心事は、ブランドの製品が消費者にとってどのようなベネフィットがあるかということだけではなく、ブランドがどのように世の中の役に立つのかということにあります。広告のストーリーは変化し、世界中の消費者は、ブランドの価値が実際にどのような意味を持つのか、何を象徴しているのか、そして実際にどのように世の中に適用されるのかに注目しています。

私たちは日々、膨大な量の情報やメッセージに囲まれているため、広告がその突破口を開くのは簡単ではありません。今回の調査では、広告の背後にある企業の価値観とその永続的な倫理観が、広告そのものと同じくらい重要であることがわかりました。消費者は、ブランドが世界の発展にどのように貢献しているかを重要視しています。

今日のブランドは、製品やサービスだけでなく、そのミッションやビジョン、価値観を示すことが不可欠といえます。

PR TIMES 2021.12.15


ニールセンが 「広告主のためのプレイブック」 を発表。2022年のプランニングに向けた戦略と戦術を解説

もう1つニールセンから。

プレイブックはリンク先から PDF でダウンロードできます。

以下の広告業界の論点について書かれているので、ざっとでも良いので目を通しておくといいかなと思います。

  • 広告への抵抗感

  • ターゲティング環境の変化

  • 消費者とのブランドオーナーシップの共有

  • 成長と予算配分

  • 測定


新製品の記事 (2個) 

最後のチャプターです。

個人的に注目した新製品や技術の記事です。


OPPO がメガネ向け端末 Air Glass を発表

自分の第一印象は、「眼鏡に取り付けるドラゴンボールのスカウター」 でした (機能というより見た目が) 。

百聞は一見にしかずなので、こちらのコンセプト動画を見るとイメージがつかめると思います (40秒の動画です) 。

OPPO Air Glass は2022年に、中国本国で限定数のみを販売する予定とのこと。実際に一度体験してみたいです。


電波を注入し、人間を充電器化 タイピングや車の運転中にスマートウォッチなどを充電

仕組みは、人体を電力伝送の媒体として異なる機器間で電力エネルギーを送受信します。

出典: ITmeda NEWS

もしこの技術が実用化されれば、スマホやパソコン、ウェアラブルデバイスをいちいち充電しなくてもよくなるかもしれませんね。

*  *  *

今週は以上です。また来週の日曜に、マーケティングニュースのまとめをお届けしますね。

良い1週間をお過ごしください!

ニュースレターのご紹介

最後に、レターのご紹介をさせてください。

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