今週のおもしろかったマーケティング記事まとめと解説 [2022年1月23日号]
今週の1週間で読んだニュースから、個人的におもしろいと思ったマーケティングの記事をご紹介します。
選んだ基準は、マーケティングのものの見方や考え方、マーケティング事例を学べる記事です。
全部で7個をピックアップしました。それぞれに、どこがおもしろかったのかの解説もつけています。
じっくり読みたいマーケティング事例 (4つ)
学びの多かった事例の記事です。4つピックアップしました。
年商3億円ガトーショコラのブランド戦略
3度の値上げ、好調だったネット通販からの撤退 ―― 「ケンズカフェ東京」 に学ぶ、ブランドを確立させる方法
1本3,000円、こだわりのガトーショコラだけを販売して、年商3億円の 「ケンズカフェ東京」 のオーナーシェフ・氏家健治氏による寄稿記事です。
全3回シリーズで、第2回となるこの記事では、作り上げた商品のブランドをどう確立していくかが書かれていておもしろかったです。
一言の理解は、ブランドの確立のポイントは 「他がやらないことを、時には突き抜けるレベルでやり、お客さんへの価値提供を続けること」 。
ケンズカフェ東京のガトーショコラから学べるのは、「ブランドは他と同じことをやっても確立しない」 ということです。意思を持って突き抜けるほどの取り組みから差異化をし、お客に独自価値を提供した先にブランドができるんですよね。
記事の他の読みどころは、ガトーショコラのマーケティングの 4P です。ここにもマーケティングに学べることがあります。
✓ ケンズカフェ東京のガトーショコラ [マーケティング 4P]
Product [商品] : 手のひらサイズのこだわり抜いたガトーショコラ
Promotion [コミュニケーション] : そこまでやるかという広告。広報も有効に活用
Price [価格] : 280g で3000円。過去に3度の値上げをし、初期に比べ4倍の価格設定
Place [販路] : 以前は売上全体の7割を占めていたネット販売をやめ、事前予約の店頭販売のみ
「からっぽペン」 のブランディング
"インク沼" ユーザーに人気 呉竹 「からっぽペン」 が30万本突破
からっぽペンの特徴は、インクが入っていない空のペンにインクを吸収させて、自分好みの色のペンが作れることです。
からっぽペンのヒット理由は、一言で表現すれば 「非効率からの愛着」 と見ました。
始めから完成品 (インクが入ってすぐに使える状態のペン) を買うほうが確かに合理的です。しかし、あえて自分でインクを吸収させる一手間があることで、効率は犠牲になりますが、自分だけのオリジナルのペンが手に入ります。自らの手で作った自分だけのペンに、他にはない思い入れが生まれるわけです。
この記事でからっぽペンから学べるのは、マーケティングでのブランド構築です。
自分でインクを吸収させるという非効率さがあるからこそ、他のペンとは独自化されて、「自分で作ったからっぽペンを使いたい」 「このペンが好き」 という感情移入がされたブランドになります。
ブランドとは、あくまで買い手の頭の中にできあがる価値イメージです。その商品やサービスならではの体験をし、商品・サービスに好ましい感情移入がされる。こうした1つ1つの積み重ねから価値イメージが形成され、結果としてブランドになります。
ブランドができる流れは、「体験 → 深い感情移入 → 特別な存在」 です。
洗濯機で洗える羽毛布団の 「競争ルール」 の書き換え
洗濯機で洗える羽毛布団が好調 西川とアクアが見つけた潜在需要
この記事は、コインランドリーでの洗濯と乾燥ができる羽毛布団の開発ストーリーでした。大手寝具メーカーの西川と、白物家電メーカーのハイアール傘下のアクアが共同開発をした羽毛布団です。
この記事から学べるのは、競争ルールの変え方です。
新しい価値の提供によって、消費者の 「良い商品」 の定義が書き換われば、そのカテゴリー内で地殻変動が起こります。消費者の買う基準が変わり、それまでの基準で買われていた商品・サービスとは異なるものが選ばれるようになるわけです。
羽毛布団に当てはめれば、これまでの 「良い布団」 とは、材料、軽い、肌触りが良い、温かい・涼しい、寝心地が良い、コンパクトに収納できる、などでした。ここに新しく 「コインランドリーで自分で洗える」 という切り口 (良い商品の定義) が生まれたのです。
記事から考えさせられたことは、「既存の競争ルールを暗黙の前提で捉えていないか」 でした。
洗える羽毛布団の開発は、「新しい価値提供からの競争ルールの書き換え」 と 「良い商品の定義のアップデート」 という観点から興味深かったです。
レンタカーアプリ開発に学ぶプロダクトマネジメント
「DX を進めた意識はなかった」 日産レンタカーが、すごいアプリを作れたワケ
プロダクト開発で参考になる記事でした。
2021年4月から提供している「日産レンタカー公式アプリ」の開発ストーリーが、担当者へのインタビューから紹介されています。
開発の裏話で興味深かったのは、「開発スピード」 と 「品質」 のいわばトレードオフをどう両立するかでした。
どんなにリリースが遅れても、決して落としてはいけない機能があります。絶対に必要な 「Must have」 なのか、それともあればいいレベル (後からの開発で良い) という 「Nice to have」 かの見極めなんですよね。
納期を優先するなら、Nice to have は覚悟を持って捨てます。開発要件として残しておき、後から再度 Must have か Nice to have なのかを判断します。
このあたりの開発の話について、実際の担当者へのインタビューから興味深く読めた記事でした。
* * *
調査 (2つ)
動画広告の市場規模
サイバーエージェント、2021年国内動画広告の市場調査を発表
サイバーエージェントが、独自調査から動画広告の市場推計と今後の予測を発表しました。広告商品別に2020年から2025年までです。
2021年の動画広告市場は、前年比 142.3% の4,205億円
2022年には5,497億円、2025年には1兆465億円に達する見込み
動画広告の市場性は、2010年代前半ごろから有望性が言われていた記憶があります。ご紹介したサイバーエージェントの予想に基づけば、今後も市場は伸び続け、2025年までの10年以上も拡大していくことになります。
QR コード決済の利用実態
2022年1月スマートフォン決済 (QR コード) 利用動向調査
MMD 研究所の調査です。
いくつか結果をご紹介すると、
QR コード決済を利用している人だけで見た時に、各サービスの利用率は PayPay が頭1つ抜けている状況です。
* * *
わくわくの 6G 時代の技術
NTT ドコモ、脳・身体の情報をネットワークに接続し人間の感覚を拡張する 6G 時代の 「人間拡張」 のための基盤を開発
これが少し先の未来なのかと、わくわくする記事でした。
NTT ドコモが開発している、人間の感覚をモバイルネットワーク経由で伝えることができる 「人間拡張基盤」 です。
NTT ドコモによれば、「いわゆるテレパシー、テレキネシスが、もう SF の世界ではなくなる。脳波も取り出せる」 。現在はまだ開発の初期段階ですが、「かなり面白いものができた」 と。
実用化されれば、職人の匠の技を直接体験して技術伝承ができたり、これはさらに妄想ですが、例えば、大谷選手がホームランを打った時の 「バットの芯でボールを捉えた感触」 が、ファンも全く同じ感覚を脳内で体験できるようになるはず。
6G 時代の到来が待ち遠しいですね。
* * *
今週は以上です。良い1週間をお過ごしください!