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小売再生でリアル店舗はメディアになる。リアル体験をめぐる異業種格闘技へ

小売再生 - リアル店舗はメディアになる という本をご紹介します。


この本からは、ECをメインにしているオンライン店舗と、オフラインの実店舗を中心にビジネスをしているリアル店舗が、いかにより良いユーザー体験を提供するかの 「異業種格闘技」 を詳しく知ることができます。

リアル店舗ならではの体験

本書が提示するリアル店舗の未来は、お店が新しい価値を消費者に提供する場になることです。

価値のキーワードは「体験」です。

お店が、棚に並んでいる商品を買うだけの場所から、リアル店舗でしかできない体験という価値を消費者に提供する場所になります。売り物だけではなく「売り方」での差別化です。

実店舗での買いもの体験とは、例えば以下です。

店舗ならではの体験
・消費者視点での商品情報がわかる (例: レビューや口コミ、ソーシャルメディアでの評判、作り手のこだわりや思い) 
・思ってもみなかった商品との新しい出会い。知らなかった使い方がわかる
・店舗で実際に試してみることができる
・店員とのコミュニケーション。店員は強引に売ろうとする接し方ではなく、お客の悩みや困り事に寄り添った接客
・お店では 3D プリンターを使い、自分でつくる工房の役割も果たす。小売と消費者の共創

新しい技術によって今までにはない魅力的な体験をもたらします。

本書でおもしろいと思った言葉は「フィジタル」でした。フィジカルとデジタルを合わせた造語です。リアルでの物理的な体験 (フィジカル) と、新技術 (デジタル) をかけ合わせて実現する体験がフィジタルです。

良い体験のための5つの条件

本書で提示された、より良い体験のための5つの条件が興味深かったです。

良い体験のための条件
・消費者を惹きつけること
・独自性があること
・個々の消費者の趣味嗜好を反映できること
・驚きがあること
・繰り返し楽しめること

未来のリアル店舗の姿は、単にモノを売るだけの場所から、店内でいかに心地よく過ごせるか、出会いや発見があり、人間らしくあれるような、顧客体験を充実させることにシフトします。

小売が自らを泥沼に追い込んでいる

未来の小売店をつくるには、小売が自ら変わる必要があると本書では指摘します。

逆に言えば、このまま同じことをやっていては変わりません。以下は本書から、著者のリアル店舗についての問題意識です。

消費者が小売を殺そうとしているのではない。小売業者が小売を殺し、消費者はその犯罪の瞬間に立ち会ってしまった無実の目撃者にすぎない。

小売業者が短絡的に売り場面積当たりの売上高に気を取られている限り、買い物客は幻滅させられ続け、小売業者は泥沼にはまっていくのである。

今、オンラインには個性的、独創的な商品がいくらでもあり、消費者は多彩な品揃えや目利き力、新たな発見を当たり前のように期待するようになっている。

 (引用: 小売再生 - リアル店舗はメディアになる)

小売を再定義する

求められるのは、小売自身による自らの再定義です。

店舗の存在意義は、メーカーから商品を仕入れ、棚に並べ、消費者に売るだけの「流通」ではありません。リアル店舗でしかできない顧客体験を提供する場所に変えます

売上至上主義ではなく、どんな体験をもたらし、いかに来店者の顧客満足を高められるかです。売上は結果として付いてると考え、自分たちの都合での押し売りはしません。

追いかける指標は、売り場面積当たりの売上高ではなく、顧客満足度や、他人への推奨度 (NPS: Net Promoter Score) になるでしょう。評価や効果が表れる時間軸もより長くなります。

新しい小売のビジネスモデル

これまでの小売のビジネスモデルは、売上と仕入れ値との差分、仕入れ先からの販促奨励金から収益を上げていました。

消費者への提供価値が「買う」から「体験」になると、ビジネスモデルも変わります。体験自体が価値になるので、体験そのものを収益に変えるやり方です。

例えば、店舗への入場料を設定することです。異業種からのヒントは、ディズニーランドや USJ のようなテーマパークです。

もちろん、アトラクションやショーのような体験できる非日常の体験レベルは違います。しかし、リアル店舗でしかできない体験に消費者が価値を見い出し、お金を払ってでもそのコミュニティに入りたいという価値が提供できれば成立します。

毎回の入場料が発生するのか、サブスクリプションモデルで、Amazon プライムのような年会費という方法もあります。

体験のリアル追求をめぐる異業種格闘技

最後に思ったことです。

本書が示唆する未来の小売店は、実店舗がリアル店舗ならではの体験を消費者にもたらす、買うから体験という価値提供へのシフトです。

リアルな体験を追求するのは、実店舗だけではありません。オンライン店舗も新しい技術を使い、情報や体験を充実させようとしています。今後は、VR や AR の技術を使い、自宅にいながらあたかも店舗での買いものが体験できるようなサービスが普及するでしょう。

これが意味するのは、オンラインもオフラインのお店も、リアル体験の提供という同じ土俵での勝負になります

オンラインからは、EC サイトだけではなく、ネットメディア上で買いものができるようになり、メディアが店舗化します。リアル体験をめぐっての異業種格闘技です。

オンライン勢がリアル体験に舵を切っているにもかかわらず、小売店が自分たちの何も変えられなければ、消費者から見たリアル店舗の価値は下がり続けるでしょう。ネットのほうが便利で早く済ませられ、安く、よりリアルな体験ができるとなれば、消費者はそちらに流れます。

小売店舗が存在意義を見い出せるかどうかは、どんな価値を人々に提供できるかです。


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