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点から線へ。「小学館世界 J 文学館」 に学ぶ商品の "全体設計" の妙

商品やサービスを提供する際、使われるシーンを狭く捉えてしまっていないでしょうか?もしかすると、それでは本当に魅力のある価値をお客さんに提供できていないかもしれません。

今回は、紙とデジタルのハイブリッド書籍 小学館世界 J 文学館 の事例を取り上げます。

使用前から使用後まで、さらには複数の商品をつなげ、より大きなユーザー体験を考慮に入れる 「全体設計」 の重要性を見ていきましょう。


小学館世界 J 文学館

ご紹介したいのは文学全集の小学館世界 J 文学館です。

以下は関連記事からの引用です。

小学館が2022年11月に発売した文学全集 「小学館世界 J 文学館」 (5500円) が好評だ。たった1冊で世界の名作125作品を楽しめる紙と電子のハイブリッド書籍だ。分厚い書籍では自宅に置いてもらえないと考案。小中学生への贈り物などとして人気を博し、販売部数は1万部を突破した。

「赤毛のアン」 や 「宝島」 など125作品が収められた書籍はたった268ページ。その秘密は本の作りにある。見開き2ページで1作品の概要をイラスト付きで紹介しており、詳しい内容は電子で読むというスタイルの書籍なのだ。

日経 2023.5.14

紙と電子書籍のハイブリッドにした狙いは、どこにあったのでしょうか?

先ほどの関連記事から引用します。

編集を担当した塚原伸郎さんは 「分厚い文学全集は保管に場所をとるので敬遠されることが背景の一つ」 と話す。

そこで考えついたのがハイブリッド型というわけだ。紙の本は読みたい作品を選ぶガイドの役割を果たす。作品の背景や冒頭部分、名ゼリフなどをイラストをふんだんに使った図鑑のようなデザインでまとめ、紙だけでも読み応えがある作りにした。

詳しく読みたい作品に出合ったら電子書籍へ。インターネットで専用アカウントを作り、紙の本に記載されたシリアルコードなどを入力したうえで、各作品の QR コードを読み取ると、アクセスできる。追加料金はかからない。

日経 2023.5.14

学べること

では紙と電子のハイブリッド書籍 「小学館世界 J 文学館」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

使用前後まで広げた問題解決

今回の事例で興味深いのは、従来の文学全集が単に読むというシーンだけを想定していたところから、「小学館世界 J 文学館」 は一歩進んでいることです。本の使用前から使用後に至るまで、利用者の体験全体が考えられている点が注目に値します。

ページ数の多い紙の本を持つことによるスペースの問題など、お客さんが抱える困りごとの解決策として、小学館は 「小学館世界 J 文学館」 という紙と電子のハイブリッド書籍を開発しました。

125作品を収録しながらも各作品の概要を紙の本で魅力的に表現し、作品の詳細は電子書籍として提供することで、ページ数を抑えつつ本の中身を充実させました。もっと読みたい作品の選定と本の保管の問題解決の両方を実現しています。

このようなアプローチにより、これまで文学全集の購入を敬遠していたお客さんを新たに獲得し、販売部数は1万部を突破させたのです。

使ってほしい商品につなげる 「布石の商品」 

新たに開発する商品やサービスを 「布石の商品」 として位置づける考え方があります。

布石の商品とは、お客さんが最終的に欲しいと考えている商品やサービスにつなげる商品やサービスのことを指します。今回の事例では 「小学館世界 J 文学館」 というハイブリッド書籍がまさにその布石にあたります。

各作品の概要を見開き2ページで紹介する形式の本を手に取ることで、お客さんがいずれかの作品に興味を持ち、さらに詳しく読むきっかけをつくり出します。作品を深く読むための手段として、電子書籍へとつなげる仕組みがあるわけです。

ここで大事なのは、紙から電子へのユーザー体験がスムーズに移り、ハードルを低く設定することです。

商品の設計や開発は単品だけを見るのではなく、それがどのようにお客さんの行動や体験に影響を与えるかを見据えることが重要です。その商品は最終的にどの商品やサービスへとつながるのかです。それぞれの商品を点ではなく、つなげて1つの線を描く全体最適の視点が大切です。

まとめ

今回は、紙と電子のハイブリッド書籍小学館世界 J 文学館から、学べることを見てきました。


最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 商品の利用中だけではなく、使用前から使用後まで利用者の体験全体を考慮する

  • それぞれの商品を独立して 「点」 として捉えるのではなく、各商品を 「線」 でつなげた全体最適の視点を持つ

  • その商品が最終的にどの商品へとつながるかを考えてみるといい。商品 A を 「布石の商品」 と位置づけることで、最終的にお客さんに使ってもらいたい商品 B へと導く

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