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【読書日記】在宅医療をテーマにした医療小説『サイレント・ブレス』

「死は負けじゃない」

その言葉にハッとした。

ずっと医師の仕事を勘違いしていたのかもしれない。

最後のその時を看取るのも医師の仕事である。

医師で作家の南杏子さんのデビュー作『サイレント・ブレス』を読んで気づいたことだ。

主人公の水戸倫子は大学病院で勤務医として働いていたが、在宅医療専門のクリニックに異動を命じられる。

負け組と思い込んでいた倫子が父親を見送る前に、恩師から言われたのが「死は負けじゃない」である。

死は医療小説の究極のテーマだ

医療小説の多くで死が登場する。

病院は病気を治療する場所である。

現在の医療をもっても治せない病気もあり、できるだけその時を迎えるのを遅らせるようにさまざまな治療が行われる。

それでも訪れるのが死なのだ。

その瞬間はほとんど予定通りであったり、本当に突然起こることもある。

病気を治すことを使命としている医師たちは、治せないことに敗北感を感じることが多い。

患者を助けられなかったことを責め、行った治療法は正しかったのかと苦悩する。

利用者の多くが死を目の前にした在宅医療の現場では、最期の時を安らかに迎えることが使命である。

命の時間を引き延ばすのではなく、最期を穏やかに過ごせるか、そこに医師の力が問われている。

死を目の前にした患者たちは

私は、どうしても患者側の目線で見てしまうため、自分や家族が余命宣告を受けたらどんなふうになるのか、まだ経験もしていないのに不安になる。

死というのは受け入れたら怖くないのかもしれないが、なんも下地がない所では恐怖しかない。

『サイレント・ブレス』の中でも、ガンと闘っている患者は、あえて治療は受けずに残された時間の中でやりたいことをしようとする。

筋ジストロフィーの若い青年は、自分を捨てた母親を最後まで待っていた。

死を目の前にしてもエネルギッシュに生きようとしているのだ。

受け入れられないのは本人よりも周りなのかも知れない

主人公の倫子の父親は、脳梗塞を患い長い間寝たきりの状態が続いている。

いよいよ最期という時、倫子は父親を病院から在宅医療に切り替えることを決断する。

自宅での介護や様子を見に来た訪問クリニックのスタッフや上司の言葉から父親の本当の思いに気付く。

もしかすると死や病を受け入れられないのは、本人よりも家族をはじめとする周りの人間なのではないか。

だからこそ「死は負けじゃない」という言葉が響くのだ。

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