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読書日記『七度笑えば、恋の味』

今、話題の文庫レーベルといえば小学館の「おいしい小説文庫」です。

文庫のレーベルが誕生する位なので、それだけ食に関する小説が多いんだなぁと思います。

古矢長塔子さんの『七度笑えば、恋の味』も、食がテーマになっています。そして、単行本だけど「第一回おいしい小説大賞」の大賞受賞作品です。

主人公の桐子は、美し過ぎる顔にコンプレックスがある女性で、職場でもマスクと眼鏡が手放せません。職場の人間関係も、夫婦関係も、上手くいかない女性が、職場である高齢者向けマンションの住人の匙田との出会いによって変わっていきます。

匙田と関わるようになり、居酒屋「やぶへび」の藪さんや孫の祥太郎くんと出会い、職場の後輩の墨田くんや従兄弟の麦との関係にも変化が出ます。そして、夫婦の問題にも決着をつけます。

これのどこが、食をテーマにしているのと思われるかもしれません。桐子は、祖母と暮らしていた子供の頃の「幸せな食卓」を求めているのですが、夫との食事では望むことができません。

桐子の夫は、桐子が料理をするのを嫌がります。洋風のおしゃれで映える料理を作り、桐子に食べさせます。それが、彼なりの愛情表現だったのですが、桐子の望んでいたものではありません。

幸せな食卓の一方で、不幸な食卓が垣間見えるのが、この物語の特徴といえます。桐子と夫の関係もですが、匙田は高齢者マンションで出される料理は食べません。食べない理由は後々わかりますが、体に良いといわれても味気ない、好みに合わない食事は、嫌かもと思ってしまいました。

桐子が自分なりに幸せな食卓を見つけていきます。物語のラストは、主人公や登場人物のはじまりでもあります。この物語に登場する人たちに「幸あれ」と思わずにいられません。


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