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【1000文字小説】みいちゃんの思い出

 みいちゃん、どうしてるかなあ。
 みいちゃんは、小学校のわたしのクラスメート。学校から帰るときはいつも一緒で、うちの近所の交差点で右と左にわかれて帰った。
 学校からは、子供の足で15分くらいかかって遠かった。
 土曜日も学校があって、お昼までで、給食もなかったから、帰りはものすごくお腹がすいた。
 わたしは早く帰りたいのに、みいちゃんはわたしより背が低くて歩くのが遅かった。おなかがすいてる土曜日は、すごくいらいらした。
 一度、みいちゃんが途中でお腹が痛いといいだしたことがある。
 かわいそうかなと思って、みいちゃんの家まで送って、みいちゃんのお母さんに引き渡した。そのまま帰ろうとしたら、お母さんがお菓子をくれた。
 家に帰ったら遅いと怒られたけど、みいちゃんを送ってお菓子をもらったというと、納得されたっけ。

 学校からはみいちゃんの家よりもわたしの家の方がちょっと近い。
 けど、わたしはいつもみいちゃんの家に迎えに行ってた。
 みいちゃん、と呼んで30数えてでてこなかったら先に行ってた。たまに、学校でなんで先に行っちゃったのと言われたけど、30数えてもでてこなかったからだというと、仕方ないねとみいちゃんは笑った。
 
 小さいみいちゃんは運動が苦手で、太ってたわたしも運動が苦手だったから、なんとなくクラスの中でいっしょにいたのかな。

 5年生になるとクラス替えで、わたしはみいちゃんと違うクラスになった。
 なぜかわたしは毎日クラスの女子と休み時間も昼休みも放課後も走り回っていた。
 みいちゃんといっしょに帰ることもなく、クラスの女子たちと違う道を走って帰った。
 すると、1学期が終わるころには、なんと、やせていた。
 2学期には、体もなんだか軽くなり、とび箱の3段がらくらく飛べるようになった。
 九九の九の段もすらすらいえるようになった。
 明るく学校生活を送るわたしは、みいちゃんのことはすっかり忘れていた。


 あれから40年。
 わたしは大学生活を満喫して、就職して、結婚して、子供ができて、離婚して、実家に戻って働きながら子育てをしている。
 その間、みいちゃんに会うこともなかった。
 母がふと言った。
「小学校の時いっしょに帰ってたみいちゃん、どうしてるかしらね」
 みいちゃんは、小学校5年の夏休みに家族で夜逃げした。
 わたしがみいちゃんをおいてきぼりにしたのに、本当はわたしがおいてきぼりにされてた。


※「完」までの本文のみ(タイトル含まず)ぴったり1000文字の小説です。
※この物語はフィクションです。
実在の名称・団体・個人とは一切関係ありません。


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