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窓辺について

架構に対する設えの中で、特徴的なものの一つに"窓辺"がある。窓と家具が組み合わさった居場所のことだ。窓辺は、基本的には室内に作られるが、建物の境界面に身体を位置付ける。外を眺めながら食事をしたり、外を背に本を読んだり、外にいる人に何かを受け渡したり、と、外と中との間に位置する。そして建築の内外に関わるという意味では、家具などの明確な機能を持ち、移動可能な設えとは役割が異なる。

そして、境界面に位置するがために、面積・間取り・用途・収支計算にもほとんど影響を与えないので、設計者やあるいは施主にとっても自由に思考を巡らせることができる聖域と言えるかもしれない。

そして、窓辺は常に建物のエッジに作られる。平面図で言えば端に描かれることになる。繰り返すが、人々が集まったり、様々な向きの視線が行き交い、ある種の求心性を作り出す設えだ。架構が作る重心とは異なる位置に、振る舞いが作る「中心」を作るということになる。

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連窓+ベンチ(写真の家/ツバメアーキテクツ) ©︎tsubamearchitects

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蔀戸+ベンチ(蔀戸の家/ツバメアーキテクツ+澤田航) ©︎hasegawa kenta

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各種窓+ベンチ (窓辺ビル/ツバメアーキテクツ) ©︎hasegawa kenta

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木製建具+作業台 (8K/ツバメアーキテクツ) ©︎tsubamearchitects

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デッキ+躙口+作業台(躙口の家/ツバメアーキテクツ)©︎tsubamearchitects

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天窓+和室(天窓の町屋/ツバメアーキテクツ)©︎tsubamearchitects

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天窓+スタジオの階段(燕の光井戸/ツバメアーキテクツ)©︎tsubamearchitects

また、もう一つ、例外的に建物の中央部分にも窓辺を作ることがある。天窓だ。(断面図で言えばやはり内外の境界に位置づく)建物に中心あたりにある部屋では壁に窓を作れないが、天窓(もしくはハイサイドライト)を作ることがある。もちろん光を取り入れたり、煙を逃したり、という機能がありつつも、人間にとっては、外をみるための窓というよりは、自分の内側(精神)に向き合うような居場所を作り出すことができる。花を生けたり、人によっては天と交信したり、神聖な窓辺と言える。

「架構について」では、設計する際に架構と設えに分けて思考することについて書いた。これは、独立当初、改修のプロジェクトが多く、建物を支える架構部分は触れず、窓辺や家具をテーマに設計に取り組むことが多かったから、自ずと架構と設えに分けて考えることに至った。

そして改修の仕事をいくつも手掛けるうちに窓辺というのは架構に対しその重心とは異なる強烈な中心を作れることがわかってきた。

極論、例えば「路面店」を訪れる人々にとっては、商品受け渡しの窓や構えのデザインが全てといっても過言ではなく、建物全体の架構がどうなっていようと関係ない、といった具合に。つまり改修の仕事であっても、社会とのインターフェースを作ることはできる、ということだ。

あるいは家族で食事をするための窓辺は、日々のサイクルにおいてその使用に耐えねばならないし、建物を支える架構以上に意識される精神的にも最も重要な要素だと言える。

架構と設えというのは、どちらが偉いか単純比較できるものではなく、異なるタイムスケールやリズムに位置づいていると私は考えている。新築であれば、架構と設えというのは別人格的に設計しているような節があるし、改修であればかつて建物(架構)を設計した設計者と時空を超えて対話しながら設えを作っていき架構自体も存在感を示すように位置付け直そうとしているような節がある。

このような態度で、設計に取り組む理由は、まだ明確にはわからないが建築が設計者の寿命以上に持続的に使われることで想定を超えたり、完結させない状態を作ろうとしているのだと思う。

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ハイサイドライト+階段室(神戸のアトリエ付き住居/ツバメアーキテクツ)©︎Kai Nakamura

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