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久野公啓の生き物よもやま話「ヒヨドリ親子」

久野公啓さんによる「久野公啓の生き物よもやま話」のコーナー第1回目です。

久野さんは長野県伊那市を主なフィールドとして活動している写真家。毎年タカの渡りの時期になると、竜飛岬や白樺峠などに車中泊で何日も寝泊まりし、渡り鳥の数を数えるという独自のスタイルを貫く渡り鳥の研究家でもあります。

久野公啓(くの・きみひろ)
写真家、渡り鳥研究家。1965年愛知県生まれ。信州大学農学部林学科卒業。長野県伊那市在住。幼少の頃から、田んぼなど身近な場所に暮らす生き物に惹かれ、その魅力を世に紹介する活動を続ける。また、春と秋は伊良湖岬を手始めに、白樺峠、龍飛崎など、各地で渡り鳥を数える定点調査を長年継続。食べること、働くこと、生きることなど、あるべき「人」の姿について思いをめぐらす日々を送る。
著書に『タカの渡り観察ガイドブック』(文一総合出版)、『乗鞍岳自然観察ガイド』(山と渓谷社)、『田んぼの生き物』『田んぼで出会う花・虫・鳥』(築地書館)など。共著に『日本のタカ学』『鳥の渡り生態学』(東京大学出版会)などがある。NHK「ダーウィンが来た!」にはハチクマの蜂掘りシーンの映像を提供。

久野さん自身のお話もとても興味深いので、いずれそのことについても伺いたいと思っているのですが、「生き物よもやま話」のコーナーは、久野さんが日々どんな眼差しを生き物たちに向けながら過ごしているのか、久野さんが心の内に秘める生き物たちへの想いを感じられるような記事を扱いたいと思っています。

第1回目は全文公開です。それでは、お楽しみください。

ヒヨドリ親子

わが家の庭先に 毎年 ヒヨドリが巣をかける
昨年と今年は 人馴れした夫妻がやってきたので
巣作りから 子育てまでを じっくり見物させてもらえた
“ぴ〜よ ぴ〜よ”と鳴き叫ぶので
けたたましい鳥と思われがちだが
実際には 多彩な声を使いわけている
あの騒々しい声は 緊急事態を知らせる時のものだ
先日 4羽のヒナが 無事 巣立っていったが
母親が子供たちに話しかける声は なんとも優しい
ヒヨドリって いい鳥だなあと あらためて感じた
<長野県伊那市>

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▲ヒヨドリの親子 雛は大きく口を開けて親鳥に食べ物をねだる

 ヒヨドリは大好きな鳥のひとつだ。2004年の夏のこと、強風により交通量の多い道路へと巣が転落、片親と兄弟たちが事故死する中、1羽だけ生き残ったヒヨドリのヒナを友人が保護した。このヒヨドリとは3ヶ月ほどを一緒に過ごしたが、この間にさまざまなことを学んだ。

 いちばんの収穫といえば、ヒヨドリの感情の豊かさに気づいたこと。喜び、怒り、驚き、落胆、怯え、といった感情が、顔つきや仕草、声に如実に現れる。ヒヨの気持ちを読み解き、適切な対応ができるようになると、ヒヨはいよいよ心を開き、感情をぶつけてくるのだった。

 今に思えば、幼い頃に十分な栄養を与えられず、貧相な若鳥に育ててしまったのが悔やまれる。そのためか、このヒヨドリとは長く付き合うことができなかった。しかし、このヒヨとの日々が、その後、庭に来るカラ類やメジロ、カラス、そしてヒヨドリなど、たくさんの鳥たちとの交流のきっかけとなったことは間違いない。警戒心を解いた鳥たちのなんと豊かなことか。驚きと発見の連続だ。あのヒヨドリには感謝、感謝の気持ちでいっぱいだ。(写真・文・久野公啓)

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