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野鳥写真集「小鳥のくる水場~ぞうき林の小さなオアシス~」第2回 #全文公開チャレンジ

武蔵野のぞうき林での小さな水場――人にとってはなんでもない水たまり。
第1回では、そんな水たまりも実はスズメやヒヨドリなどの野鳥たちにとって、大事な場所だということがわかりました。
第2回ではさらに観察を続け、水場に新たな鳥がやってきます。どんな鳥と出会えるのでしょう。お楽しみください。

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「小鳥のくる水場 ぞうき林の小さなオアシス」

1984年発行
著・平野伸明

過去の回はこちら⇒ 第1回

「ツーピージュクジュク、ピィーピィー」林のおくから、なにやらさわがしい声がしてきました。1羽、2羽、3羽……ぜんぶで10羽。この林で生まれそだったのでしょう。ヒナをつれた、シジュウカラの家族です。

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▲親子づれで、つぎつぎとやってきたシジュウカラの家族。

 クリームイエローの、やわらかな羽毛につつまれたヒナたちは、水場を見つけて、つぎつぎにとびこんできます。「ストップ、ストップ!安全を確認しないうちに、水場にとびこんではいけないよ!」けいかい心の強い親鳥は、そういいたそうですが、子どもたちは、もうむちゅうです。まるで、「水あびがこんなに気もちいいなんて、はじめて知ったよ!」といいあっているようなはしゃぎようです。

 そこに、大きく太い、黄色のくちばしをもった、イカルがやってきました。「ケッケッケッ」と鳴きながら、すこしあたりを見まわしています。やがて、安全を確認すると、水場におりてきました。

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▲シジュウカラの家族をおいはらったイカル
でーんと、水場のまん中で水あびをしていました。

「おい、ちびさんたち、そこをどきな。」くちばしをパチパチならすイカルに、子どもたちは、あわてて水場をとびのきます。かわって、イカルが水あびをはじめました。水しぶきをあげるたびに、黄色いくちばしが光ります。

「ピーピージュクジュク」シジュウカラの子どもたちは、親鳥につれられて、水場をはなれてゆきました。

 若葉のかがやきが水場にきらめく、ゆかいで楽しい午後のひとときでした。

サンコウチョウ登場

 初夏のぞうき林のスターといえば、サンコウチョウです。コバルトブルーのアイリング、天女のような長い尾、そして、いちど聞いたらわすれられない、「ツキ・ヒ・ホシ・ホイホイホイ」というさえずり。

 夏鳥であるサンコウチョウは、冬のあいだ、南の国にすんでいて、日本で見ることはできません。まい年、5月のはじめに、ぼくの水場がある林にやってきます。ときどき、遠くでさえずりが聞こえて来るのですが、水場には、まだいちども来てくれません。なんとか、ぼくの水場に来てほしい―ー、そう願う まい日でした。

 そして、あこがれの鳥、サンコウチョウが、ほんとうに水場に来てくれたのは、6月中旬のある日でした。

 はっと気がついたときには、水場ちかくの枝に、きれいなオスのサンコウチョウが、とまっていました。やがて、ふわっと枝からまいおりたかと思うと、水場にダイビングしたのです。

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▲ついにサンコウチョウが来た!
コバルトブルーのくちばしとアイリング(目のまわり)は、この鳥の特徴です。

 ふわっ……パシャッ……ふわっ……パシャッ……。

「やった!」ぼくは、おもわずさけびました。サンコウチョウは、合計5回もダイビングして、ちかくの枝で、はづくろいをはじめました。はじめて見た、サンコウチョウのみごとなダイビング水浴でした。

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▲すばらしいダイビング入浴
サンコウチョウは、ほとんど地面におりません。水面をたたくように水をあびながら、水ものんでいました。これは、ツバメやカワセミなど、一部の鳥でしか知られていない、水あび、水のみ方法です。

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▲長い尾をひるがえして、まいあがるサンコウチョウ

 ぼくは、うれしくてうれしくて、もうゆめごこちです。「だいすきなサンコウチョウ、いつまでもこの林に来てほしい」と、願わずにはいられませんでした。

タカが来た!

 ヒヨドリとムクドリは、あまりなかのよい鳥ではありません。とくに、えさのすくない秋や冬には、よく、えさ場をめぐるあらそいが見られます。でもいまは、おたがいにゆずりあうように、すこしはなれて、なかよく水をあびでいます。そこへ、スズメたちもやってきて、水場は、平和なひとときでした。

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▲ヒヨドリ(左)、スズメ(中)、ムクドリ(右)の混浴風景
平和なひとときだったのですが……。

 そのときです。1羽の鳥が、猛スピードで、水場の上をとびぬけてゆきました。水場にいた鳥たちは、「チィーチィーチィー」とけいかい音をあげて、あわてて水場をはなれます。いまの鳥はなんでしょう。

 大きさはハトくらい、でもとびかたがちがう。目のさっかくでなければ、タカにそっくり……まさか!

 なぞの鳥のために、すっかり考え込んでしまったぼくの目のまえの枝に、いまとびさったばかりの、その鳥がもどってきたのです。ぼくは、あやうく大声をあげそうなくらいおどろきました。なんとその鳥は、まぎれもなく、タカのなかま、ツミのオスだったのです。

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▲とつぜんあらわれたツミのオス
小鳥をえさにしているタカのなかまです。小鳥たちは、おそれおののき、パニック状態です。

 なぜツミがここに……いや、いまはそんなことはどうでもいい。ツミが水場に来てほしい!ぼくは、ひっしでツミによびかけました。「そこの水はおいしいよ。えんりょせずに、さあおはいり!」するとどうでしょう。ツミは、ぼくの気もちがつうじたように、サッと水場におりたのです。そして、水場のまわりでさわぎたてる小鳥たちをおどすように、つばさを立てあげたのでした。

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▲「水場はオレのものだ。文句あるか。」
ツミは、つばさをひろげて、まわりの小鳥をいかくする姿勢を見せました。

(次回へつづきます)

・・・

なんと、美しいサンコウチョウとタカの仲間のツミまで水場に来てくれました。ますます賑やかに楽しくなってきた水場。季節は子育ての夏へと変わっていきます。

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
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