6月は「毎日チョウゲンボウ」6/17更新分
※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。
ともあれ、さまざまな想いをこめて決意したテント生活であったが、いざテントを張ってみると、アクシデントは続出した。
一番の失敗は佐久の冬の厳しさを甘く見過ぎていたことだ。信州佐久は四方を山に囲まれた盆地で、その中央を千曲川が流れている。気候は内陸性で雨や雪が少ない。
ここまでは長年暮らした甲府盆地と似ているのだが、大きな違いは、海抜が甲府盆地の270mに対し、佐久平は600mもあり、しかも浅間山、蓼科山、八ヶ岳から吹きつける寒気は強烈で、寒さは私の予想をはるかに超えていた。
持ちこんだ装備も、あるラインを超えた寒さはいとももろく、私を悩ませた。結局、私の認識の甘さが災いして、キャンプを長期滞在にも耐えうるように工夫するのに多くの時間を費やしてしまった。しかし、それもまた楽しからずや、ではあったのだが。
夜は満天の星が降る中で、フクロウの雄と雌が愛を囁く声を聞きながら眠りにつき、朝はヤマセミが魚を捕る音で目が覚めた。
私がキャンプの整備に追われている頃、目の前の崖ではひとつがいのチョウゲンボウが早くも巣穴に出入りし、求愛行動を見せていた。
この千曲川沿いの小さな崖では毎年、ふたつがいのチョウゲンボウが繁殖する。もうひとつがいはまだ姿を見せていなかったが、つがいとつがいの関わりもじっくり見られるかもしれない。フィールドの中にどっぷりつかったテント生活は、毎日が新鮮で興味はつきず、時間が矢のように過ぎていった。
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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)
映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。
主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
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