6月は「毎日チョウゲンボウ」6/15更新分
※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。
フィールドを佐久へ移す
通い詰めたフィールドが思わぬ不幸に見舞われて、私の撮影計画も頓挫したが、その間、私は街の中のチョウゲンボウを追いかけた。
チョウゲンボウは半乾燥地帯に適応し、砂漠的環境を好む性質がある。彼らはそのような環境に似て、しかも食住等の要因も備わっている甲府市内に住み、ビルの谷間で子供を育てているのだ。
それらを撮影した私は、いよいよ新たなフィールドを信州佐久に求めた。以前から山梨と同じような気候を持つ佐久の平地周辺で、いくつかの営巣地を見つけていた私は、いつの日か山梨から佐久へフィールドを移すことを考えていた。
そして何度か佐久へ通ううちに何人かのナチュラリストとめぐりあい、足がかりをつかむことができたのである。
1987年2月。私はありったけの撮影機材とテント、自炊道具、その他資材を車に積み込んで佐久入りした。これからチョウゲンボウが生まれて、若鳥たちが崖を離れる8月までの約半年間のテント生活が始まるのだ。
チョウゲンボウと同じ生活空間で寝食を共にする。それは数年来の私の夢でもあった。
自然の世界は断片でなく、ずっと継続している。静かに、そして時にはダイナミックに。それを捕らえるのに自宅や下宿から通うのにはどうしても限界を感じていた。
いっそのこと、自らをその中へ置いてしまったらどうだろう。今よりは少しでも彼らに近づけるかもしれない。それに今の世で水道もない、電気もない、テレビもラジオも新聞もないという、ちょっと現実離れした酔狂ともいえる生活がどのくらい可能かどうか試してみたかった。
そして何よりも私は、彼らと共に冬の厳しさに耐え、春を感じてみたかった。それを身をもって肌で感じてこそ、春を迎えて繰り広げられる彼らの求愛の喜びに一歩迫れるかもしれない、と。
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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)
映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。
主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
→これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。
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