「猫になりたい」夢がついにかなった日
中学生の頃、一緒に登校している友達の家にキジトラの猫がいた。
名前をミーという。
ミーはいつも陽の当たる玄関の前に寝転んで、私たちが登校するのを横目で見ていた。
規則も時間も関係ない、自由な生活。
「あ〜私も猫になりたい」
中学校に通っている間中、言っていた。
残念なことに、私はいまだ猫にはなれないまま。
常識という規則の中、始業10分前には必ず席につき、仕事という時間の中で生きている。
気が向いたとき以外には見向きもしない猫の気ままさに憧れながら、はじめて会った人にも笑顔であいさつをする。
今日は仕事でとある施設に先輩のお供でお邪魔した。
予定よりスムーズに仕事が終わったので、片付けをすませあいさつに事務所に向かう。
「今日もお世話になりました」
先輩がもう長い付き合いの事務員さんに声をかける。
ついで私も「ありがとうございました」と頭を下げた。
「お疲れさま! これから会場片付けるの?」
「いーえー、今日はもう強力な助っ人のおかげで片付けまで終わってるんですよ」
先輩に強力な助っ人認定され、ちょっと照れる。
「あら、もう終わったの! 本当いい人が来てくれてよかったね〜! これからもがんばって先輩を助けてあげてね」
事務員さんがまんべんの笑みで私を見る。
私は照れながら、頭を下げた。
ここの事務員さんとは、今の仕事を始めた初日からお世話になっている。もう5、6回は会っていて、その度に「いい子が来てくれてよかったね!」と声をかけてくれた。
キビキビした動きで、いつも施設の中をピカピカに磨き上げている大ベテランさんだ。
「そんなふうに言ってもらえるなんてありがたいことです。先輩が優しいからなんとかやっていけてるんですよ〜💦」
焦ってあたふたする私をみた事務員さん。
「いや〜! もうかわいか〜!! なんかこう、見てるだけで幸せなのが伝わってくる! ほらあれみたい、あの、この前の園遊会で愛子さまが『うちの猫はぷくぷくしてまるまるしてるんです』って話してる人に『幸せな猫ちゃんですね』って言ってたでしょ!
あの猫ちゃんみたい!! 見てるだけで癒される〜」
「うんうん」
事務員さんは先輩とふたりでうなづきあっている。
愛子さまに「幸せな猫ちゃんですね」と言われた猫である。悪い気はしない。
きっとまるまるとしてのんびりした猫だろう。
猫になりたいと思っていた夢が思わぬところでかなってしまった。
しかも見た人も幸せになれる猫なんて。
なかなかどうして最高だ。
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