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夏日記⑥ ルイボスティーと春にして君を離れ


5月24日

先週の平日は色々と疲れた。
会社で思いもよらぬトラブルが発生し、対応に追われていたのだ。

詳しいことは書けないが、人間のずるいところや醜いところをいくつか拝むことができた。拝みたいと思ったことはないが。

こじれにこじれた結果、この件は収まるのに1週間かかり、結構な長丁場になってしまった。再燃してもおかしくはない状況であるが、とりあえずはまあ収まったと言ってもいいところまで持っていくことができた。どうかそのままお静かになさっていてほしい。

この1週間で一番辛いフリスクは空っぽになり、気を遣った上司が2度もランチに連れ出してくれ、そのかいなく蕁麻疹まで出たが、健闘したとは思う。
いつかこの経験は創作に消化させよう。

ここ10日くらいで読書だけは進んでいた。宮部みゆきの「火車」、宮本輝の「真夜中の手紙」アガサ・クリスティーの「春にして君を離れ」、アンソニー・ホロヴィッツの「カササギ殺人事件」の上巻を読んで、下巻は今かばんの中だ。
どの作品もすごく面白くて、じりじりとページをめくった。カササギ殺人事件はあと少しで犯人がわかる、と思った矢先から思ってもみない展開になってしまい、続きが楽しみである。

「春にして君を離れ」は、なんというか、おそろしい小説だった。
この作品が名作であり、ファンが多いことも知っている。タイトルもよく耳にした。
しかし、こういった読みくちのものであることは知らなかった。
読めば読むほど、くちびるが乾いていく感じがした。
なんといっても、主人公のジョーン・スカダモアが、私の身近な人によく似た性格をしているのだ。
だから、余計になまなましかった。彼女の置かれている状況が……子どもたちが巣立ち、すでに老年期にさしかかろうとしている年齢になって、改めて振り返ったこの状況が……
やっぱり、その人と重なってしまった。年齢のころも、ジョーンと近しいのだ。残酷な答え合わせである。
今、私がそう思っているだけで、本人からするとまったく似ていないと思うかもしれない。結局は私の主観だし、そう悲観することでもないとは思うのだが。
そういった個人の事情を抜きにしてもこの小説、ラストで「ああ……」と思ってしまうのだった。

怖いのは、自分もジョーンのようにならないとは言い切れないんじゃないか、と思えるところだ。
本当の孤独、本当の幸福というものは、けしてわかりやすい形をしていない。
人はどうしても利己的になりやすい生き物だ。
自戒のためにも、この小説は定期的に読み直そうと思う。

たてつづけに本を読んだので、脳みそはおなかいっぱいなのだけれど、胃は空っぽだ。

今週は気持ちもせわしなかったし、ろくな夕食をとらなかった。なにか用意しなければいけないけれど、なにも思いつかない時はよくある。
スーパーに行っても食べたいものがわからなかったし、外食するのもおっくうで、結局どこにも足が向かなかった。
駅のレストラン街は蕎麦、中華、洋食、カレー、選び放題だったけれど、逆にそのにぎやかなパワーに圧されてしまい、食欲は減退していく。
空腹でいることを選んでしまった。
とりあえず冷蔵庫の中でしなびかけているなにかを食べ、お茶でも飲んで寝れば良いか……と思って、どこにも寄らずに帰宅した。

結局、ハンペンをちまちまとかじり、前日に水出ししておいたルイボスティーを飲んでいた。そうでない日はルイボスティーと栄養ドリンクとか、キャベツとか。
なにを思ったのか四日前の自分がハンペンを購入し冷蔵庫に放り込んでいたのだ。サンキュー、過去の自分。
食事としてなにか間違っているような気がしないでもないけれど、まぁ、お昼は上司のおかげもあり今週はそこそこいいものを食べていたのでいいだろう。

ただ、問題はルイボスティーなんだよな。賞味期限が2022年の5月なのだ。今のところおなかは壊していないけれど、徳用サイズを買っていて、まだ全然残っている。これ、いつまで大丈夫なんだろうか。さすがに2032年まで残ってたらいさぎよく諦めようと思う。
水よりは栄養ありそうだし、いいかなーと思ったのだが。
お酒で割ればさまざまなものがアルコール消毒されてチャラになる可能性もあるのではと思ったけれど、ルイボス割でおいしいお酒ってあるのかなあ。

とりあえず、2年熟成されたルイボスティーそのままの味を楽しむことにする。
昔、小樽の土産店で買ったガラスのカップを取り出した。全体的に丸く、繊細なつくりで、薄いピンクのガラスが宝石のようにきらきらとしている。
やわそうな商品に見えたのに、なんのかんのと10年は愛用している。
このグラスのおかげで、ルイボスティーはますますおいしそうに見える。賞味期限を大幅に過ぎている代物だとはとても思えなくなった。

ソファでだらだらしながら、スマホを取り出す。
新作のプロットを考えるのだ。
平日はできるだけ作家の仕事をしない主義なのだが、最近はそうも言っていられない。漫画原作のチェックはできるだけ早く戻さないと漫画家さんの作業時間に影響が出るし、小説は小説で、土日にまとめてやろうとすると、結局なんやかんやと頭痛が起きたりだるくなったりしてできなくなることもある。
隙間時間にこつこつやるしかないのだ。

でも、平日の作業はしんどい。脳みそはオーバーヒートぎみである。退勤の打刻をして電車に揺られ、ようやくひと息つけたところを、また別の方向にエンジンをふかせなければならないのだから、気持ちはずんと重くなる。
改めて机に向かうといっこうにやる気になれないので、寝っ転がってスマホでプロットを作ることにしたのだ。細かいディティールはあとで詰めれば良いとする。
だいたいでいい、だいたいで。

とりあえずやらないよりはマシ。整えるべきときはあとで必ずくるのだから。
なんでもそのときに完璧にやろうとすると、最初の一歩を踏み出すのがたいへんになってしまう。それでは継続できないのだ。継続できないことに関しては達人級の私が一番わかっているのである。

肩に力が入らないように自分に言い聞かせ、ざっくりとした展開や台詞を連ねていくと、案外進んだ。
このやり方、ありかもしれない。ハンペンをかじってごろごろしているズボラにぴったりのフォームである。
もしかしたら冷静になった土日に改めて「なんだこの展開……」と思うかもしれないけれど、それはそれで仕方がないということにしよう。

こんな感じで、1週間ほど短時間プロットに着手した。
とりあえず、自分にプチご褒美を用意してあげたいなと思う。どこまでも自分に甘い人間なのでご褒美は必ず必要だ。

サーティーワンの、ダブルかトリプルでいいかな。私はアイスが大好物で、冬だろうが食欲がないときだろうが腹の調子が悪かろうが目の前にアイスがあったら必ず食べるのだ。
ジャモカコーヒーかチョコミントのどちらかはいつも食べることにしているのだが、期間限定のレインボーシャーベットも気になるなぁ……。ロッキーロードもおいしいし。チーズ味の変わり種もある。
気がつけばサーティーワンのアプリを立ち上げており、あわててメモアプリに戻った。
せめて、もう少しプロット書き進めてからにしないと。

だらだらプロットの敵は、思考が散漫になりがちなところである。
反省しつつ、きりのいいところまで書き進めたところで、来週に開始予定のコミカライズ「ジャンヌ・クーロン」の告知をした。

とうとう始まるのだ、ジャンヌ・クーロン。
私はすでに完成版を見ている。けれど、変わらず楽しみだ。らむだ先生の漫画、原作のいいところを拾って、効果的に演出してくださっていて、ネームの時点で私は盛大に感動してしまったのだ。
これがあるので、来週も頑張ることにする。
続報、しばし待たれよ。

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出オチキャラ10ー2話、更新しています。
出オチキャラだったはずなのに、今やすっかり聖女です | デジタルマーガレット (digitalmargaret.jp)