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脳は自転する

運動は苦手だが、月に4回ほどヨガに通っている。
ヨガは好きだ。

ゆっくり呼吸をして、じんわり筋肉を伸ばす。
ふつふつと汗が流れる。少しづつ身体を動かし、穏やかに脈打つ。
ヨガの後はどっとした疲労も起きず、ほどよい達成感が気持ち良い。

ただ、ヨガに組み込まれている『瞑想』は、なんだか難しい。
心や頭を空っぽにする、或いは一点に集中するなどといったことを試みるのだが、なかなか瞑想らしい瞑想はできない。

このレッスンの後、あの子の誕生日プレゼントを買いに行こうとか、再配達の連絡を忘れていたなとか、あの時ああ言ったのは間違いだったかな、だとか。
小さな考え事から離れることができない。

目を瞑ってじっとしているぶん、考え事が文字となり、脳内の暗闇に浮かんで見えるようだ。
文字は明朝体を少し崩したようなゆるやかな形で、私の目の前をひらひらと行ったり来たりする。
文字たちは、掴めそうで掴めない。


私は幼い頃から動きが鈍く、何をするにも時間が掛かった。
食べるのも、走るのも、図画工作も身支度も、すべて他の人より遅かった。
30を過ぎた今でもそれは変わらないが、気が付いたことがある。
遅いが、常にどこかしら動いてはいるのだ。
体内外の働きはもちろん、心も、脳も。


脳は自転をしているのではないかと思う。

頭蓋骨の中で、脳がゆっくり自転をして、地球のように朝と夜を繰り返し迎えているように感じる。
脳の地軸は若干傾き、熱い場所も冷えた場所も持ちながら、さまざまな人間が、ああでもないこうでもないと叫ぶ。
海面が波打ち、眠気を誘う。

意識の有無なんて関係なく、脳は回り続けている。
鈍く、時間をかけながら。


ゆっくり呼吸をして、じんわり筋肉を伸ばす。
ふつふつと汗が流れる。少しづつ身体を動かし、穏やかに脈打つ。

今日も脳は、私の身体に冴えない信号を出している。
堂々巡りの考え事に弄ばれながらも、目を開けば、明日が見える。




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