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OJTの基礎となる学習モデル②(熟達化モデル)

OJTの基礎となる学習モデルを考えるにあたっては、以下の3つの視点でOJTを簡単に考察してみた。

  1. 基本方針(長期計画)

  2. 指導方針(教育方法)

  3. 学習モデル

このような視点での考察が適切なのかどうかは要考察ではあるが、基本的に、会社における中長期計画→実行方針→事業計画という流れで計画を策定する方法を、ここでは援用してみた。
なお、ここでのOJTは、基本的には、新入社員を一人前の社員へと育成させるための育成計画を想定している。ただ、職場でのジョブローテーションなども同様な考えが適応できると考える。

まずは、今回の主題となる、中長期計画となる基本方針から考えてみる。


1.はじめに


新卒で採用し職場配属した新人に対するOJTの目的は、まずは、会社生活を始めていくためのビジネスマナーから、各職場において必要となる基礎技術の習得にある。その後、自立して業務を遂行できる実務者へと育成させていくことが、OJTには求められる。この観点から考えると、新卒者へのOJTは、Ericsonにて提唱された熟達化モデル(Ericson ,1996)に基づいた長期的な育成計画を設計する必要がある、と考える。
今回は、この熟達化モデルに関して、先行研究などをまとめてみた。

2.熟達化モデル

熟達・熟達化とは、ある技能を学習や練習を経験的に続けていくことで高い技能を獲得する、ことである。Ericsonは、音楽学校での音楽家の練習時間をモニタリングし、卓越した演奏者はおよそ1万時間を費やしていた、と述べている。また、この傾向は、スポーツやゲームなどでも同じである、と述べている。この1万時間は、1週間当たり20時間の練習量と仮定すると、約10年間となる。これより、熟達化には10年間近い経験を要する、という「10年ルール」が提唱されている。
ただ、この熟達化モデルは、「10年ルール」が少し前面に立っているが、重要な点は、高い技能を獲得するためには、ある人が”心して”継続的に練習課題に打ち込んでいる時間が明らかになったという事である、と考える。つまり、熟達化には、無計画な練習では意味はなく、高度に組織化した練習が必要であるという事。なお、この高度に組織化した練習とは、以下の要素を含んでいる。

  • 意図的な認識スキルの達成目標があり、これを客観的な手段をとおして評価できる。

  • 直近の短期的評価目標と適応可能なスキルを修正するためのフィードバックがある

これより、新人に対するOJTに対しても、無計画な学習は意味をなさず、計画的な学習を行う必要であり、日々のフィードバックなどが効果をなすと考える。よって、定期的な1on1も研修手段して活用することが重要となる。

3.ホワイトカラーに関する熟達化の先行研究

さきの熟達化モデルに関して、企業におけるホワイトカラーの熟達化に関する先行研究が楠見(2014)でなされている。この先行研究は、職場でのOJTのモデルの参考となるため、ここでは、この研究内容を紹介する。

楠見は、ホワイトカラーの熟達化には、以下の4つの段階があると主張している。

  1. 手続き的熟達化:初心者が一人前へと成長する

  2. 一人前における定型的熟達化:一人前が中堅者へと成長する

  3. 中堅者における適応的熟達化:中堅者が熟達者へと成長する

  4. 熟達者における創造的熟達化:熟達者がエキスパートへと成長する

この4つの過程について、楠見(2014)の主張に沿って、ここで説明する。

(1)手続き的熟達化

この段階は、職場に配属されたばかりの段階であり、仕事だけでなく配属された職場に慣れていく段階で、職場1年目に相当する。この段階では、指導者から仕事の手順や、職場・仕事のルールを一通り学習する。最終的には一人で基礎的な定型業務が遂行できるようになることが目標となる。

(2)一人前における定型的熟達化

おおよそ、入社後3-4年目に相当。この時期では、仕事に関する手続き的な実践知は蓄積しており、定型的な仕事であれば、指導者なしで正確に遂行できる。加えて、定型的な仕事に対して、新規の方法を適用させてパフォーマンスを向上させたり、業務の省力化をはかるなど、定型的な仕事に対して柔軟な対応ができるようになっていくことが求められる。一方で、定型的でない新規の仕事を遂行することはまだ困難な状況であり、この点においては指導者の指導が必要な段階である。

(3)中堅者における適応的熟達化

おおよそ入社後6-10年目に相当。この段階では、状況に応じて規則を柔軟に適用させることができる。また、文脈を超えた類似性認識(類推)ができるようになり、過去の経験から獲得したスキルを適切に使えるようになる。この段階まで来ると、ある程度自立して、定型・新規に関わらず種々の業務を遂行できるようになる。ただ、複雑な状況に対応する場合には、上位熟達者の助言などが必要である。

(4)熟達者における創造的熟達段階

この段階では、きわめてレベルの高いスキルや知識からなる実践知を数多く獲得する。よって、非常に高いレベルのパフォーマンスを持つ熟達者の段階であり、楠見は、すべての人がこの段階に到達するわけではない、と指摘している。また、楠見は、この段階の熟達者は、高いレベルのパフォーマンスを効率よく、正確に発揮でき、事態の予測や状況の直観的分析とそれに対する判断は正確で信頼でき、新規な難しい状況において創造的な問題解決に対処できる。

4.本日のまとめ


ここまで見てきたように、会社に新卒で入社した社員は、仕事を通じて(1)~(3)ステップを経験し、仕事に関する実践知を獲得し熟達化する。そして、最終的には、獲得した実践知を使って、自立的に種々の業務が遂行できるようになる。これが、職場における熟達化の過程である。

参考文献:
Ericsson, K.A. (Ed.) (1996). The road to excellence: The acquisition of expert performance in the arts and sciences, sports, and games. Mahwah, NJ:Lawrence Erlbaum Associate.

楠見孝(2014). 「ホワイトカラーの熟達化を支える実践知の獲得」, 組織科学Vol.48,No.2, p.6-15

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