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ヤシの木酒、飲み放題。ここは天国?

インド先住民ワルリ族の村へ通いはじめて9年。ここまで読んでくださった方は、‘足るを知る’彼らの生活、早朝からの禅僧めいた掃除などストイックな人たちの村という印象かもしれない。しかし、実はここはヤシの木酒飲み放題。昼間、眉間にシワが寄るようなことが起きたとしても、夜はやいのやいのでハッピーハッピーなのである。

昼間から「ターリー(ヤシの木酒)、どうぞ」と言われることもある。「え? 昼間から?」と言う態度をとると、「わっはっは〜」と豪快に笑いながら、たっぷりついでくる。しかしその笑顔の裏に恥ずかさが滲み出ているところを見ると、やっぱり飲みすぎ注意を心がけている文化と見た。

彼らの村にはこのお酒の原料となるヤシの木がたくさんある。ずらっと並んで植えられている。そしてその木には、床におくとコロンといってしまうであろう底の丸いテラコッタの壺がぶら下がっている。ヤシの樹液を受けるように設置されている。そして、自然と溜まった樹液が夕刻にはほどよくアルコールになっているのである。

今そこにあるもので暮らす。お金はいらない。飲み放題。ワルリ族の村でサスティナブルをもっとも体現しているのが、このヤシの木酒、ターリーといえるだろう。ってか、天国だろう、ここは! 

ターリーを嗜むには作法がいる。必ずコップにツルツルいっぱいキワキワにつぐこと。人間が飲む前に、大地に一滴。コップをわずかに傾けて地面に吸わせる。大地にも神様がいる。夜更けまで飲み続ける。ワルリの人たちは勧め上手である。

つまみが美味しい。塩豆やチキンをカリカリに焼いたものが絶品だ。ボンビルという干し魚もある。薪の火で焼くのではなく、灰に埋めて炙る。

ターリーを一度味わったのちに村を散歩をしてみたら、最初はなんで気づかなかったのか不明だが、ずらっと並ぶヤシの木という木に、一本残らず、壺が仕掛けてあるではないか。あんぐりしてしまった。なんて酒飲みの人たちなんだ。‘足るを知る’は幻想か、と思えてきたほどである。

でも実は、本当は、「勝手に作っちゃダメなんだよ」という。自分の家で消費するくらいならいいのか? 日本のどぶろくみたいなことなのか? 酒税法というのがここにもあるらしい。ポリスが時々目を光らせているということだ。じゃあ、あのヤシの木という木にかけてある壺はなんと言い訳するのだろうか。貨幣経済って理不尽・・・

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