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【小説】 変える、変われる。 : 21

無印良品で買った新しい靴下とシャツ着用で、清々しい月曜日をスタートさせた。

まずは玉ちゃんに通販のチラシをあげた。

「おっとぉ! 日本直販のチラシじゃないの。しかも新聞の折込じゃないガチの。どうしたの?ありがとう!」

「母が何か凄く利く洗剤買ったみたいで、多分それに入っていたんじゃないかと。」

「洗濯爽快セット?買ったの、あれ? どうなの効果は? 前から気になっているけど悩んでいるんだよね。」

「・・・いまのところ、好印象な効果らしいですよ。」

玉ちゃんが商品名即答のルンルンな様子でペラペラっとめくって、大事そうに机の引き出しにチラシを仕舞った。

朝から全力の食い付きの良さにややたじろいでしまったけど、喜んでくれたので良かった。


仕事をぼちぼち始めると、メール着信があって、早速『いますぐ』から来社依頼が届いていた。

クタっと折れそうな心に喝を入れて、

「『いますぐ』行って来ます!」とカラでも元気良く2人に声を掛けて出掛ける準備をした。

「いいよ~、すごくいいよ~、形だけでも元気良く。」

ネットリした玉ちゃんの応援を背に事務所を後にした。


今回は受付での二人組の登場が無かったけど、安定の能面と打ち合わせ。

少しずつ慣れては来たけど、きっとこういった「ちょっと緩んだ」時に落とし穴があってズッポリはまって苦情が来るんだろう、慎重に、慎重に。

仕事自体は他の取引先と遜色無いんだから、落ち着いてひと通り話を聞いて進めて行けば良い。

「手元の資料を終始凝視」を体得したので、打ち合わせもそんなに苦痛には感じなくなってきた。

打ち合わせも終わって「それでは失礼します」と言いかけると、フイに能面が仕事以外の話を初めて振って来た。

「木村さん、昨日、無印良品行かれましたか?」

「え?」

気付かれてた!?と、驚いて顔を上げてしまって、能面とほぼ初めてしっかり目が合った。

整った顔で表情がほとんどなく、目がこちらをどことなく凝視してくる感じはきっと気のせいなんだけど、ヘンな汗がジワっと額と腋に滲んでくる。

フワっと大量のマネキンが脳裏に浮かんで来る、目の前とソックリ同じ。

「あ、、そうですね、少しだけです、少しだけいました。すぐ帰りました。ちょっと買い物しただけです。」

「やっぱりそうでしたか、似ている方だなぁと思ったんですけど、、」

話していると、ジャストなタイミングで、ロミレミが入って来た。

「こんにちは、木村さん♪何を話しているの~?仕事以外の話で盛り上がってんの?そういうの上手いよねぇ、石黒は。そういう感じだもんね、色んな男性陣に、ほぉんと上手!じゃ、こちらどうぞ、お召し上がり下さいね」

お茶を端に並べて、ニヤニヤしながらロミレミが去って行った。

「・・・」

またも近い自分がお茶を能面と自分の前に置き直した。

「・・余計なことを伺いました、申し訳御座いません。」

「いえ、、そんなことありません、気にしないで下さい。」

ズンっとした重い空気となってしまい、出されたお茶を一気飲みした。

チラっと見た能面は目が合わなかったけど、無表情はいつも通りだけど、さっき普通だったのに物凄く血走った眼をしていた。


事務所に戻って一部始終を玉ちゃんに話すと、

「他に楽しみ無いから。どうでも良いことにネチネチと。石黒さんは忙しいんだから、誰にも色目使うわけ無いだろうに、特に、きむちゃんにさぁ。」

「特に」がいらないだろうと思ったけど、自分より能面と多く会っている玉ちゃんは思うところがあるようだ。

能面も自分を見かけたから何となく聞いてきただけだと思う、パっと思い出したって感じだったから。

二人組の存在感の不気味さに「着かず離れて」の意味が段々とわかってきた。


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