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好きな服を戦闘服にしたくない

私は日本人平均より胸がある。
何の話かと思うだろうけれど、単純に背が小さい・大きい、足が長い・短い、目が良い・悪いってのと同じで、ただサイズが平均より大きいという話だ。
いい身体をしている、なんてクソみてぇなアピールじゃないからほんと黙ってほしい。


これまで私は、身体の線が目立つ服をあえて着ていた。超あえて。

もう腹立たしくて仕方がなかったのだ。
隣にいる人間が、すれ違う人間が、一瞬でもチラチラと私の胸に視線を落としてくるのが。
気がついてるからな、ふざけんなよ、テメェも見せろよ見てやるからよ、と言った風にいつも脳内は戦闘モード。

いつもそんな風だから、もうあえて見せてやろうと思った。
その人が見慣れないから見てくるわけで、見慣れたら大して特別感もなくなるだろうし見なくもなるのではないかと。
ちなみに、めっちゃ大きい彼女を連れたある男性は鼻で笑ってきて、はたまた別の男性はそもそも私の胸に視線を落とさなかった。

胸の大きさで人間のレベルは決まらないけど、それにどう反応するかではレベルが決まると思いますよ、前者の男性さん。


男心の本当のところなんて、知ったこっちゃない。
晒されてたらいくらでも見るよ、という人もいたし、そんな人に気を病んで「もうおっぱい切り落としたい」と泣いた夜もたくさんあった。

けれども、自分の目線一つ管理できないクソ男のために自分の容姿を否定する必要はない!むしろ武器にしてやれ!と、私は大学生の頃に知恵をつけた。

自分の身体を武器にしてつけ込んでくるなよ!ずるいぞ!って言う人も男女問わずたくさんいたけど、あら〜おっぱいごときで揺らいじゃうなんてかわいそうな脳みそしてまちゅね〜、しかもそれを私に言って自分の負けを濃くしちゃってますけどいいんでちゅか〜〜〜???ママのおっぱい忘れられないんでちゅか〜〜???としか思えなかった。
性格悪いのは知ってる。

だからあんまり「あいつは自分の容姿をを武器にして云々」って言わない方がいいと思います、相手の性別に関わらず。


すれ違う人はもう仕方がない、どうせもう会わないから、と思えるようになったのは1年くらい前。
ちょうどその頃、会社の人があまり私の胸を見なくなっていて、私の心がずいぶんと落ち着いたからだろう。

要は、会社の人も見慣れたわけだ。
あーこいつはこのくらいチチがあるやな、いつも。なんかまあ時々でかい時あるけど、まあなんか下着が違うとかホルモンバランス的なアレだろうな、こいつの大きさはこれ、何も特別なことはない、これが俺の日常。
といった具合に。

は?セクハラだかんな、ふざけんなよ。


そんな風にしてわりと胸のことで心を荒立ててきた私だったが、会社を変えて3日、かなりストレスフリーな日常を送っている。

ゆるっとした服を着た日とピタッとした服を着た日があったが、なんと新しい会社の人は誰も胸に目を落とさない。
最高かよ〜!!!とテンションが上がるなか、初日からピタッとした服で武装しなかった自分もいたな、と気がついた。

武装しないで初めてのところに顔を出すなんて、初めてだったのだ。


おそらく、面接の時に話した男性陣が一切私の胸を見なかったからだと思う。
そんなことで?と思われるかもしれないが、そんなことで警戒は解けたりするものらしい。

「女だから」「男だから」「背が高いから」「低いから」「細いから」「太いから」「かわいいから」「美人だから」「イケメンだから」「ハンサムだから」「ブサイクだから」「無口だから」「おしゃべりだから」「胸が大きいから」「胸が小さいから」

そんな雑念から、急に解放された気持ちになった。
たった数人の男性が私の胸を見なかっただけで。


胸を見るという行為は、私の「女性」という性別を私に濃く自覚させる最悪な行為だ。

本当に最低である。
それゆえ私は胸を切り落としたかった。少なくて悩む人にあげたかった。

なぜなら、私の心はどこまでも中性的だったから。

大きなものを持っているだけいいじゃない、と思われるかもしれないけれど、私が自分をどこまでも「女性だ」と思えていれば、確かに良かったことなのかもしれない。
自分の性別を雌雄において「雌」だと思ってはいるが「女性である」とはあまり認識したくない私にとって、「おっぱい大きくしたい」なんて心の底から思えないわけである。

おっぱいが大きいと喜んでくれる誰かさんのためにこの前までは大きくする努力を少しだけしていたが、いない今は本気で邪魔なのである。ほんとに。
飾りであってもいらない。

欲しくて欲しくて泣いている全ての人の反対側で、私は無くしたくて無くしたくて不機嫌でいる。


けれども、今朝、自分の好きな服をただ何も考えずに「これにしよう」と選べた私は、もうこの会社に戦闘服を着ていく必要もないし、これまでよりも不機嫌でいなくていい。

すこしだけ解放されたのだ。


好きな服を戦闘服にすることほど、虚無なことはない。

ピタッとした服でおっぱいを晒している人全員がそのおっぱいを見られたいと思っているわけじゃないって、ちゃんと知ってほしい。
見られるのは嫌だけど、だからって自分の好きなピタッとした服が着られないのはもっと嫌、って思ってる人もいるし、見られるのが嫌だから好きな服が着られない、って思ってる人もいる。
知ってくれ、まじで。


「そうは言っても男だからな〜ついつい見ちゃうんだよな〜〜」
って思った人は一発ずつ殴らせてほしいけどそうもいかないので、明日から数日自分のものを晒して街を歩いてください。
周囲の人が「あなたはこのくらいのものを常時ぶら下げている人なのね、承知承知」となるくらいまで晒せば、ご理解いただけるかと思います。

よろしくおねがいいたします。



その視線のエグさを自覚して反省してくれ。
二度と「そんな服着てる方が悪い」って言うなよ。




たのしく生きます