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みんな、いじわるだね

デートの朝は早起きしちゃうな。

そんなことを考えながら、完璧な身支度で時間が経つのを待っていると、iPhoneが間抜けな音を鳴らしてLINEが届いたことを知らせた。


「台風が来てるから、今日はやめておこう」


今日のために土曜日に選んだ服も
今日のために日曜日に新調した靴も
今日のために月曜日に見つけた香水も
火曜日から三食野菜ジュースとサラダの生活も
水曜日から22時に就寝してたっぷりとった睡眠も
木曜日に片付けた部屋も
金曜日にしたボディケアとパックも


ぜんぶ、ムダになった。

恋人でないというのは、こんなにも虚しいものなのか。

天気さえも、わたしの敵だったみたい。


一週間毎日キラキラしてた。

いつもなら仕事で疲れてしまって帰宅後はすぐに寝るのに、この一週間は最寄駅にある服屋さんに寄ったりアクセサリーを見たり、彼の好きなお酒を探したり、ちょっとおしゃれなおつまみの仕込みをしたり、なんでもできた。

ずっとわくわくしてて、会社で嫌いな上司によくわからないことを言われても、イライラしなかった。


ああ、全部ムダ。

楽しかった一週間は、一番最悪な一週間に早変わり。
真顔にもなるわ。


せめて、せめて明日の朝に台風が来てくれたらよかったのに。

そうしたらあの人はここに来られたし、台風前の雨ふりにお気に入りの傘をさしてデートできたし、傘が邪魔で手を繋がなかった分だけ家でくっつけたし、デートに出かけられなかったらもっとくっつけたし、彼は明日の朝には帰れなくなってるだろうから、その日の夜までずっと一緒にいられたかもしれないのに。

ふたりのための週末になったかもしれないのに。


神様にまでいじわるされてるみたいだ。

わたしたちがしていることが悪いことなのかがわからない。全然わからない。

わたしはただ好きで、好きで好きで一緒にいたいだけ。
でもそれができないから、それならせめてたまに一緒にいられるときくらい幸せでいたい。

ただそれだけ。


好きになったらいけない人、って何なんだろう。

彼はきっと、それがわかってるから今日わたしに会いに来ない。
会わないでいい理由ができて、たぶんホッとしてるのだと思う。

わたしはわからないから、捨てられた気持ちになる。
この瞬間、自分がこの世のに必要ない存在なんじゃないかと思えて、つらくなる。
他のどんなことよりもつらい。

誰もわたしのことなんて見えてないんじゃないか、ひょっとしてわたしは生きてないのかもしれない、と思えてくる。


彼だけが、わたしを『わたし』としてこの世に存在させてくれる。



「バカじゃないの?」
「しかたないじゃん、好きなんだから」
「いや、バカだわ」
「バカバカ言わないでよ」
「だってバカなんだもん。その男、あんたのこと何とも思ってないよ」
「...言われなくてもわかってるし」
「いーや、あんたはわかってないね」
「わかってるもん!自分は彼氏いるからって上から目線で話すのやめてくれる!?親友なんだったら、なぐさめるとか色々あるじゃん!!」
「別に余裕があるから言ってるわけじゃないわよ、恋したことない人間が恋にのめりんで、道を踏み外してるなぁ、と思っての単純な感想。なぐさめるのはもう飽きたしね」
「だったらもうちょっとやさしく言ってほしい」
「優しく言ってきたじゃない、これまで。男とデートできなかったからって、こんな暴風の中髪を振り乱してうちに飛んでくるあたりも、しっかりバカだわ」
「だってさみしくなったんだもん!会いたい人に急に会えなくなったのに、ひとりでいられるわけないじゃん!そんなときにひとりでいたら、わたし干からびちゃう」
「だからバカなのよ、あんたの家には今おいしい酒もおつまみもあるんでしょ?私をあんたんちに呼びなさいよ。もったいないじゃない」
「あれはあの人のために買ったお酒だもん...」
「ほんとバカね。そんなもの私が喰らい尽くしてやるわ」
「ダメ!!」


みんなみんな、いじわるすぎるよ。


「バカ。そこは私が『あんたのその気持ちまで、全部喰らい尽くしてあげるのに』ってモノローグ入れるところよ」


百合営業、反対!!!




たのしく生きます