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抽象化能力の重要性

こんにちは、BYARDの武内です。
今回のnoteは、前回に続き倉貫さんの新書『人が増えても速くならない』のエッセンスを引用した内容を書いていきます。

私はプログラマーとして働いたことはありませんが、エンジニア組織の仕事の仕方についてはずっと興味を持ってきましたし、それらに関する書籍もたくさん読んでいます。

エンジニア組織の理論がそのままバックオフィスで活用できるものばかりとは限りませんが、それでもそこから学ぶべきことは多数あると思っており、今回のnoteのテーマである「抽象化能力」もその中の1つです。

1.稼働すれば生産性が上がるわけではない

「プログラムを多く書けば書くほど、生産性が高い」これはダウト。ソフトウェアは単純に手を動かすだけでは開発できません。プログラムを書く仕事で求められるのは、抽象化能力です。

倉貫 義人『人が増えても速くならない ~変化を抱擁せよ~』より

1作業が1分なので、1時間60回、8時間稼働すれば480回作業ができる。こういう単純計算での仕事の見積もりは「工場でベルトコンベアを流れてくる半製品に部品をひたすら取り付ける」というようなケースでのみ有効です。

ある程度熟練の技術を必要とする工程もあったりしますが、同じ品質で同じ製品を作るという前提であれば、作業時間の見積もりは可能です。

一方で、ソフトウェア開発の現場、特にSaaSのようにずっと改善し続けていくソフトウェアについては、手を動かす時間で成果を見積もることは困難です。プログラマーはずっとパソコンに向かってカタカタとコードを書いている、といったイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、ただ闇雲にプログラミングをしたところで意図した通りの動作のしないのであれば、意味がありません。

そこで求められるのが抽象化能力です。「抽象化」とは、具体(細部)を除去して本質的に重要な要素のみを取り出すこと。コードを書く前に要件を定義し、そのために必要な機能や構造を設計することなどがこの能力に該当します。

抽象化の最大のメリットとは何でしょうか?  それは、複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり「一を聞いて十を知る」(実際には、十どころか百万でも可能)です。  
抽象化とは複数の事象の間に法則を見つける「パターン認識」の能力ともいえます。身の回りのものにパターンを見つけ、それに名前をつけ、法則として複数場面に活用する。これが抽象化による人間の知能のすごさといってよいでしょう。

細谷功『具体と抽象』より

現時点ではこの能力こそがAIと人間を分かつ大きなポイントだと私は思っています。AIが単純作業や過去の仕事の再現などで人間には太刀打ちできないスピードと正確性を発揮する一方で、人間は初めて取り組むことや本質的な課題を定義してその解決手段を考えるなど、より抽象化能力を発揮することで成果を上げていくことが求められるようになるでしょう。

2.バックオフィスにおける抽象化能力

いかに上手に抽象化できるか。それによって対応できるシチュエーションの幅が変わりますし、あとから理解したり、修正したりしやすくなります。より抽象化できたほうがいいと考えれば、良いプログラムほどプログラムの量は少なくなっていくことになります。

倉貫 義人『人が増えても速くならない ~変化を抱擁せよ~』より

人が増えても速くならない』はエンジニアの話ですが、この「抽象化能力」はバックオフィスでもこれからは必須になると私は考えています。

なぜならば、単純な入力・転記作業や整理、書類の作成などを素早く正確にこなすことにおいては、人間よりもAIの方が遙かにうまくできる可能性が高いからです。そのための取り組みをしている企業も増えています。

現時点ではそのための環境整備などのコストや負荷がネックになってすべての企業で即座にAIに仕事を奪われるということにはならないのですが、人間が個別に判断する必要のない仕事(いわゆる単純作業)はそう遠くない将来に「仕事」とは呼ばれなくなるでしょう。

特に日本はデジタル化が遅れており、紙の書類やハンコなどが不可欠なものが多かったため、バックオフィスはどうしても人間によるアナログ作業が多数残っていました。それがコロナ禍を経てかなり見直され、デジタル化が一気に進んでいます。

リモートワークでなかったとしても、紙の書類や稟議書がなくなり、仕事がデジタル上で進むようになったとき、単純作業は真っ先にテクノロジーによって処理されるようになるはずです。

では、人間は何をするのか。

デジタル化された仕事において、人間は「抽象化能力」を発揮して、業務プロセスを設計し、状況を見ながら改善していく役割を中心に担うようになるはずです。これまでは指示された仕事を単にこなしていれば良かった人も、そのような仕事はテクノロジーにとって代わられる可能性が高く、抽象的な思考を身につけていく必要に迫られるでしょう。

バックオフィスにおいても、抽象化能力の高い人はこれまでも重宝されてきました。新しいツールを導入して業務を再構築する、トラブルが発生した後に再発防止するために業務プロセスの見直しをする等、抽象化能力を発揮する場面は無数にあります。

デジタルシフトによって、これらの人々の価値が更にあがることは間違いありませんが、これまで作業だけをしていれば良かった人たちも抽象化能力を多かれ少なかれ求められるようになっていくのではないでしょうか。

3.抽象化しながら作るBYARD

BYARDというプロダクトが既存のタスク管理ツールやプロジェクト管理ツールと大きく違う点の1つが、「抽象化して業務プロセスを組み立てる」ストリームという独自の形式にあります。

マニュアルやチェックリストの作成では、どうしても詳細(具体)を積み上げていくことになりがちです。業務を処理するためには、詳細な手順や情報が必要であることは間違いないのですが、細部から構築していく手法は全体から見ると歪みが生じやすいのです。

組織が小さい場合は、一人が複数の役割を兼務することがほとんどなので、担当者の頭の中で自然と歪みが調整され、なんとかバランスをとることが可能です。しかし、組織の規模が大きくなるほどに、業務が細分化され、関わる人間が増え、調整するためのコミュニケーションコストや管理コストが増大していくため、この問題は深刻化していきます。

群盲象を評す(ぐんもうぞうをひょうす、群盲評象)は、数人の盲人が象の一部だけを触って感想を語り合う、というインド発祥の寓話。
人達は、それぞれゾウの鼻や牙など別々の一部分だけを触り、その感想について語り合う。しかし触った部位により感想が異なり、それぞれが自分が正しいと主張して対立が深まる。しかし何らかの理由でそれが同じ物の別の部分であると気づき、対立が解消する、というもの。

Wikipediaより

部門毎に細分化され、複雑化した業務を個々人が抽象化して整理するのは容易なことではありません。バックオフィスにはプロジェクトマネージャに相当する役割を担う人もいないため、各自が担当範囲の最適化(個別最適化)を追求しようとするほどに、全体としての効率が悪くなるのです。

そこでやるべきことは関係者で集まって、業務プロセス全体を抽象レベルで可視化し、全員で同じものを見てディスカッションができるようにすることです。私もコンサルタント時代は、初回のミーティングではホワイトボードを使って、粗々の全体業務プロセスを作成することを実施していました。

組織規模が大きくなるほど、自分の担当業務以外はどうなっているかを把握していないものです。詳細なマニュアルやフロー図があったとしても、他人の業務の部分を見ることなどしないからです。

まずは全体像がどうなっているかを関係者全員の共通項として構築するだけで、部署間の対立から全員と課題の対立へと焦点を移行することが出来るのです。

業務プロセスを抽象レベルで可視化するだけであれば、ホワイトボードやドローイングツールで十分ですが、そこからの業務の詳細化(具体化)、そして実際に業務を実行する際に参照し、処理結果を記録していけるツールが継続的に改善サイクルを回していくには必要不可欠だと私は感じていました。

そういう意図もあり、BYARDの構造は多層的なものになっていますが、最初の出発点が「業務プロセスを抽象化して理解する」ことに変わりはありません。AIには作業の再現はできるかもしれませんが、その意味や意図など、抽象レベルでの理解はまだ当面不可能なので、この最初の一歩は人間が整理し、構築していくしかないのです。

業務の効率化=自動化、ではありません。やる必要のないことを高速で処理しても、間違ったことを自動で処理しても、生産性への影響はゼロどころかマイナスです。

BYARDは組織で業務を回していくうえで重要になる抽象レベルでの思考を補完することができるツールです。TODOリストやマニュアルなどはその補助的な要素に過ぎません。

業務の全体像が見えない、誰が何をしているかが把握できない、担当者個々の対応に依存している、などの課題解決にぜひBYARDをご活用ください。

BYARDのご紹介

BYARDはツールを提供するだけでなく、初期の業務設計コンサルティングをしっかり伴走させていただきますので、自社の業務プロセスが確実に可視化され、業務改善をするための土台を早期に整えることができます。
BYARDはマニュアルやフロー図を作るのではなく、「業務を可視化し、業務設計ができる状態を維持する」という価値を提供するツールです。この辺りに課題を抱える皆様、ぜひお気軽にご連絡ください。

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