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フローチャートの限界

こんにちは、BYARDの武内です。

最近はiPadやiPhoneの開発責任者であるトニー・ファデルの『BUILD』を読んでいます。(分厚い本なので、なかなか読み終わりません・・・)

真のクリエイターとはこういう人なのかな、と想像しながら、スティーブ・ジョブズやジョナサン・アイブとはまた違う、生粋のエンジニアから見た世界の話は刺激的で面白いですね。

さて、今回のnoteはよく聞かれる「フローチャート」について書いていきます。


1.フローチャートの使いどころ

フローチャートにはいくつか種類があり、担当している業務領域によって実はイメージしているものが違う場合もあります。代表的なものは以下の3つになります。

①JIS規格(X0121)のフローチャート

情報処理を表すためのフロー図であり、主には情報処理分野で使われます。エンジニアではない方でも、情報処理の授業などで見たことはあるのではないでしょうか。「処理」や「判断(分岐)」などの記号の基本ルールが定められています。1970年代からあるものですが、現代でもアルゴリズムの基礎を学習する際に使われる代表的な記法です。

信号を渡る手順(『フローチャートの書き方』より)
フローチャートで用いられる主な記号(『フローチャートの書き方』より)

②ISO規格のフローチャート

いわゆるBPMN(Business Process Model & Notation )のために用いられるフロー図です。国際標準(ISO19510)になっています。実務者が自分たちの業務プロセスを記述する「レベル1(記述モデル)」と、コンサルタントなどが分析しITツールなどの導入を検討する際に詳細に記述する「レベル2(分析モデル)」があります。

請求業務のプロセス図(公益社団法人企業情報化協会 BPM推進プロジェクトより)

③NOMA式フローチャート

工場の工程分析表をもとに元日本経営協会(NOMA)理事の三枝氏がまとめた作図方式であるため、「NOMA式」と呼ばれています。事務フローを記述するのによく用いられており、マニュアルなどに活用されるケースも多いため、ビジネスパーソンの方は「フロー図」といった際にこの形式をイメージする人が多いようです。内部統制(J-SOX)の3点セットの1つである「フローチャート」もこの形式を前提に説明されることがほとんどです。

経費精算のフローチャート(内部統制入門Naviより)

フローチャートの問題

フローチャートは紙という平面上で「業務の流れを伝達する」ことを主目的として発展してきたものです。BPMの研修などでは今でもわざわざ紙とペンで描かせることも多いようです。

業務プロセスを記述するのに非常に便利な記法であり、読み手もパッと全体の流れが理解出来る優れものではあるのですが、問題は作成・更新するのに手間がかかるということです。

最初に作るときはコンサルタントなどの外部の専門家が支援してもらうことも多く、なんとか頑張って作るのですが、そこで力尽きてしまいます。どんなにキレイにフローチャートを作っても、現場が業務を回しながらフローチャートを都度更新していくのは並大抵の負担ではありません。

フローチャートを更新しなくても業務はできるし、慣れてくればフローチャートやマニュアルを見なくても業務をすることができます。そして、数ヶ月〜半年が経った頃にはフローチャートと実際の業務プロセスの内容は乖離し始め、1年後にはフローチャートは形骸化したものに成り下がります。

フローチャートは「今こうなっている」ということを伝達することには優れているのですが、フローチャートを更新し続けることをミッションに持っている部門でもない限り、最新化するための優先度は低くなりがちです。

これらのことから、フローチャートが完璧に最新化されている企業はほぼありません。更新されない(できない)、それが最大の問題なのです。

2.可視化しただけでは不十分

どんなに詳細に記載された地図であっても、それが数年前のものであったとしたら、安心して移動することができません。業務上、監査の前にドタバタしてしまうのも、マニュアルやフローチャートが最新化されていないことが大きく影響しています。

多くの業務プロセスは工場などの製造工程と違って、目で見ることはできません。担当者の頭の中にしかない業務プロセスよりも、フローチャートで記述されている方がマシではありますが、そのフローチャートが最新でないのであれば安心して活用できません。

「可視化しましょう」というアドバイスをもらうことは多いと思いますが、可視化して終わりではありません。作成したマニュアルやフローチャートを常にフレッシュにしていくことこそが本当にやりたいことであるはずです。

フローチャートを常に更新し続けるのは無理です。優先順位では当然ながら「業務を進める」ことの方が上であり、フローチャートをフレッシュに保つことが優先されることはありません。

実際の業務プロセスと、フローチャートが乖離しているといつか困ることはあるのかもしれませんが、業務が回ってる限りはそもそもその差分が指摘されることもほとんどありません。

Excel、ドローイングツール、フローチャート作成ツール、どれを使っても同じです。一度構築したフローチャートを修正する作業はとんでもなく面倒なのです。面倒なのに、それを更新し続けることが評価されないので、誰もやるわけがありません。

3.業務プロセスは業務管理とセット

タスク管理ツール、プロジェクト管理ツールは世の中にあふれていますが、プロセス管理ツールという分野(そんなものがあれば)でメジャーなツールを私は知りません。

プロセス管理=フローチャート、と思っている方は結構いらっしゃるのですが、前述の通りフローチャートは「描いて説明する」ためのツールなので、業務プロセスを管理する目的で使用することは不可能です。

1年ほど前に「”ストリーム”という概念」というnoteを書いたときには、ここまで言語化はできていなかったのですが、私たちが作りたいものは「業務プロセスをコントロールする」ためのツールであり、そのためには業務プロセスをお絵描きするだけでなく、タスク管理やプロジェクト管理の要素も含めてコントロールする必要があるということです。

ストリームの原型はアローダイアグラム(PERT)ですが、アローダイアグラムもフローチャートと同じく「紙の上での表現方法」なので、BYARDのストリームはデジタル上で構築するからこそ、タスク管理・プロジェクト管理と一気通貫してコントロールができるということを実現するために開発しました。

業務全体の流れが重要だからこそ、プロセス管理を中心に置きつつ、個々人のタスク管理や全体の進捗管理(プロジェクト管理)も可能にするのがストリームです。

また、これはBYARDを導入いただいたお客様がいつも言ってくださることなのですが、「業務プロセス上でタスクを進めていくので、業務プロセスが実態とズレていたら直さないと気持ち悪い」という風に感じます。

私たちが作りたかったのは作ることがゴールのフローチャートではなく、業務管理をしながら作った業務プロセス図を常に参照し続けるものです。フローチャートをお絵描きにしてしまうから形骸化するのであって、業務管理と密接に結びついていれば、タイムリーに更新されるのです。

業務プロセスの管理と、実際の業務の管理を紐付ける。これがBYARDのストリームの存在意義なのです。

(おまけ)10年間頭を悩ませてきた問題

冒頭で紹介したトニー・ファデル『BUILD』では、ネストを起業する前にサーモスタットに対して感じていたことについて、こんな風に記載されていました。

最高のアイデアは「ビタミン剤」ではなく、「鎮痛剤」でなければならない。
(中略)
鎮痛剤はひっきりなしにあなたを悩ませる「何か」を除去するためのものだ。除去することが可能な、頻発するイライラの種だ。一番良いのは(良いと言えるか微妙だが)あなた自身が生活のなかで経験するイライラだ。スタートアップ企業の多くは、誰かが日常的に経験する不快な経験にうんざりして、調べ、解決策を見つけるところから始まる。
(中略)
僕の場合、このプロセス全体に一〇年かかった。サーモスタットというアイデアは一〇年にわたって僕をとらえて離さなかった。

トニー・ファデル『BUILD』より

私にとって、「業務プロセスのコントロール」は同じようにずっとイライラの種でした。経理の現場、経理のマネジメント、税理士事務所、スタートアップのバックオフィス、業務設計のコンサルタント、すべてにおいて「業務プロセスを常に最新化することができたらいいのに・・・」と思いながら、フローチャート作ったり、業務定義書を作ったりしていました。

プロダクトを作ることを真剣に考え始めたのは約3年前ですが、「なにを解決するプロダクトを作ろうか」と思った際に真っ先に浮かんできたのが、この課題だったのです。ただ、最初から「ストリーム」という形がみえていたわけでもありませんでした。

解決したい課題について話すと
「フローチャートがあるじゃないか」
「ワークフローツールでできるのでは」
という反応をほとんどの人にされました。

最近、ようやく「フローチャートではダメ」な理由が言語化できたので、こうやってnoteを書いているわけなのですが、結局誰もやらないなら自分でプロダクトを作って解決するしかない、と思えた課題と今もこうして向き合いながら、BYARDを開発しています。(ワークフローツールではダメな理由は別のnoteに書きましたので、興味がありましたらそちらもお読みいただけると幸いです)

BYARDのご紹介

BYARDはツールを提供するだけでなく、初期の業務設計コンサルティングをしっかり伴走させていただきますので、自社の業務プロセスが確実に可視化され、業務改善をするための土台を早期に整えることができます。
BYARDはマニュアルやフロー図を作るのではなく、「業務を可視化し、業務設計ができる状態を維持する」という価値を提供するツールです。この辺りに課題を抱える皆様、ぜひお気軽にご連絡ください。

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