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デジタル消費とデジタル投資

こんにちは、BYARDの武内です。
今週の話題といえばやはり侍ジャパンのWBC優勝でしょうか。

決勝戦は3対2という緊迫した場面で、二刀流の本領発揮の大谷選手が最終回のマウンドに上がり、そして最後をエンジェルスのチームメイトであるトラウト選手を三振でゲームセットにする、という少年マンガのような胸熱な展開でしたね。侍ジャパンの皆さん、おめでとうございます。そして、夢を見させてくれて、本当にありがとうございました。

プライベートでは週末に息子が所属する学童野球チームのコーチをしているのですが、今週末から始まる春季大会のトーナメントに向けて、子どもたちも侍ジャパンからたくさんのものを学んだと思います。

さて、今回のnoteはデジタル消費とデジタル投資についてです。

1.低すぎる日本のデジタルエンゲル係数

先日スプラッシュトップとひとり情シス協会が発表した「日米デジタルエンゲル係数比較調査」の結果が、まさにDXができない日本企業の思考を如実に表している思ったので、紹介します。

デジタルエンゲル係数は、「エンゲル係数」のように企業の販売管理費に占める企業のIT運用コストをひとり情シス協会が独自に表現したもの。日本企業のIT支出額は昔から「少ない」と言われていますが、単純な金額の比較だけでなく、販管費に占めるIT・デジタル投資の比率を比較することで、日本企業がいかにITにコストを割いていないのかが分かる、というものです。

上記の記事より
上記の記事より

結果は予想通り「アメリカ企業と比べると大幅に少ない」というものなのですが、あまりにも少な過ぎてちょっと言葉を失いました。

私自身、独立当初(2016〜2018年ごろ)は「業務改善コンサルタント」を名乗って、SaaSの導入支援+業務プロセスの可視化や再構築を手がけていたのですが、「毎月料金を払うと高くなるから、買い切りのパッケージソフトの方がいい」とか、「その施策によっていくらコストが削減できるかを示してほしい」という短期思考のツッコミを経営陣からたくさんもらいました。

もちろん費用対効果が見込めない施策を実施することはダメだと思いますが、自動的にアップデートがされないソフトを使い続けることで業務効率が悪くなることは考慮されていませんし、業務を改善する目的を短絡的なコスト削減でしか考えられないというのもしっくりきませんでした。

私は中長期的な視点で考えられる企業とだけ仕事をしたかったので、「業務設計」という言葉を生み出し、業務設計士®︎を名乗って業務プロセス全体を設計することそのものでお金をいただく形にコンサルティングサービスをシフトさせていきました。

SaaSの導入やシステム構築の前に「業務設計」だけで料金をいただくというチャレンジです。投資と消費の違いが分からない企業は、業務設計だけで料金が発生するような依頼はしてきませんので、数は多くはないものの価値観が一致する企業と一緒に様々なプロジェクトを実施することができました。

余談ですが、独立して仕事を行う最大のメリットは意に沿わない仕事を断れるということです。もちろん生きていくために必要な分は稼がないといけないわけですが、サラリーマンとは違って仕事が降ってくることはないので、自分の価値観を明確にして、そこから外れる依頼は受けないようにすることで精神衛生上も良いですし、結果としてそのようにスタンスを明確にすることでやりたい仕事が集まってきます。

さて、日本企業のデジタル支出が圧倒的に少ない理由は、「消費と投資の違いが分かっているか」に集約されると思います。「消費」とは、財やサービスを使用して欲求を満たすことであり、「投資」とは、見込みのあるものに対して将来の見返りを期待して資本を投じることです。前者は今現在の時点を重視する短期的な思考であるのに対し、後者は将来を重視する中長期的な思考であるといえます。

デジタル支出で日本企業がアメリカ企業にここまで大きな差をつけられるのは、日本企業はデジタル消費だと考えているのに対して、アメリカ企業は(おそらく)デジタル投資だと考えている割合が多いからだと思われます。

なんでも日本企業が劣っているという論調もどうかと思いますが、デジタル支出に関しては、いまだに多くの企業が短期的な思考でしか考えられないため、何かをやろうとする際に見当違いの費用対効果を比較したり、機能表を作って○×をつけてみるという無駄なことにたくさんに時間を割いてしまうのでしょう。

デジタルはどこまでいってもツール(道具)であり、手段に過ぎませんので、課題を掘り下げて本質的な問題を炙り出すことを怠って、目の前の費用対効果を追求するデジタル消費的な視点が中長期的に成果を出すわけがありません。目の前に現れるモグラを叩いているだけでは、いつまで経っても成長などできないのです。

2.社内に資産として残るもの

私が業務設計コンサルティングを行う際には、現在の状態の可視化や共有、そして課題の抽出、そこから業務の再設計という工程もきちんと行うのですが、それ以上に再設計後に実際に現場に導入した後、その後の改善サイクルをいかに自社内で回せるようにするかという点を重視していました。

プロダクトやサービスの競合優位性も重要ですが、中長期的に競争力を維持するのはその会社の思想であり、思想を支えるオペレーションであり、変化に常に対応できる改善マインドです。

コンサルタントが納品する提案書や設計書がどんなに立派でも、納品されたシステムがその瞬間は完璧に機能したとしても、それらをきちんと運用して改善していかなければあっという間に形骸化していきます。

大学時代に「試験にはどんな資料やノートを持ち込んでもいい(ただし、パソコンや携帯電話は除く)」という教授がいたのですが、真意を尋ねてみると「どこかに答えがあるような問題を、人間に聞く意味はない。君たちが何をどう考えるか、それをどう説明するかを見るのが試験だ。」という回答でした。

GPT-4が話題ですが、大量のデータに瞬時にアクセスする能力に関して、人間が張り合う意味はもうありません。業務を行う上で重要なのはどこかにある正解ではなく、日々発生する微妙な調整をすり合わせ、オペレーションを編み上げていく人間の能力なのです。

オペレーションを構築する上で、重要なのは「再現性・代替性・改善性」の3つです。局所的な部分については、システムで対応できるかもしれませんが、業務プロセス全体についてはこの3つを実現するには人間の柔軟性の高い能力が不可欠です。

どんなに優秀なコンサルタントを雇って、業務設計をしてもらったとしても、それを自社に根付かせ、改善し続けていく文化を創り上げていくことができなければ、勝ち続けることはできません。

経産省のDXレポート2が指摘している「DXの企業文化刷新の問題」という言葉の真意はこのあたりにあり、これこそトヨタ自動車のいう「KAIZEN(カイゼン)」なのです。なお、この言葉が「improvement(改善)」と訳されずにそのまま英語になったのは、トップダウンで実行するのではなく現場が知恵を出して状況を変えていくという意味が含まれるからだ、といわれています。改革はトップダウンですが、カイゼンは現場からのボトムアップが不可欠なのです。

「オペレーショナル・エクセレンス」(企業がその価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げること)という言葉がありますが、様々なシステムが細かい計算を行い、かつ、それらのシステムがSaaSとしてあらゆる企業に提供される時代だからこそ、企業の競争優位性はオペレーションの強さやカイゼン性によって築かれるのではないでしょうか。

会社の資産は人材である、という言葉ありますが、労働力として人材ではなく、強みであるオペレーションを支え、アップデートしていく人材こそが資産だと思います。

3.BYARDで業務プロセスは資産になる

BYARDというシステムの最大の特徴は、この「オペレーショナル・エクセレンス」に当たる部分をデジタル上で管理することを目指している点にあります。

マニュアルやチェックリストは、作業を管理するためのもののですが、素早く正確に処理することはもはや競争優位の源泉ではありません。決められた通りに処理をして、作れば売れたような時代はもう終わったのです。

様々な企業の業務設計をしていて分かったことは「どの企業も8割方の業務プロセスは同じである」ということです。逆に言えば、残りの2割がその企業らしさや強さを決定づけるものであり、それを社内できちんと引き継いでいかねばなりません。

自動化、という言葉には甘美な響きがありますが、車の運転すらも全自動でできないのに、私たちが日々行っている業務プロセス全体をシステムが自動化できるわけがありません。

システムが得意なのは局所的な「処理の自動化・高速化」に過ぎません。業務プロセスの全体像は人間がコントロールし、必要に応じてカイゼンしていかなければいけません。タスク管理/プロジェクト管理ツールには絶対にできない業務プロセスという資産をデジタル上に構築する試みが、私たちBYARDの存在意義なのです。

採用関連情報

BYARDは積極採用中です。求人一覧にない職種でも「こういう仕事ができる」というものがあればご連絡ください。

まずはカジュアル面談からで結構です。お気軽に30分お話ししましょう。

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