見出し画像

SaaSは魔法の杖じゃない 〜業務設計の重要性〜

こんにちわ。

このnoteはRevComm 小松さん(@ShoheiKomatsu) 主催のSaaSLoversアドベントカレンダー #SaaSLovers の25日目の記事として書いています。

_SaaSLovers__バトンブログ企画_3月_運営小松_-_Google_スプレッドシート

SaaS界隈のそうそうたる顔ぶれの中で、バックオフィス側をメインにしている私が記事を書かせていただくのはちょっと緊張しますが、立ち位置が違うからこそ新しい視点をお届けできたらと思っております。

0.自己紹介

まず最初に少し、自己紹介をさせてください。弊社・株式会社リベロ・コンサルティングでは2つのビジネスをしております。1つは業務設計コンサルティングで、請求や支払いの煩雑さ、顧客管理の属人化、月次決算の早期化など、バックオフィスの様々な課題を徹底的なヒアリングで洗い出し、Salesforceとfreeeを中心として、様々なSaaSを使って業務フローと利用システムを再構築するという対応を行なっております。

画像2

もう1つは、2019年12月にスタートしたばかりですが、Brownies Worksというサービスで、前述の業務設計コンサルティングは完全オーダーメイドでバックオフィス全体を再構築するのに対して、こちらは弊社でパッケージ化した業務フローやSaaSの活用方法をそのまま導入していただき、さらに給与計算や月次決算などの日々の運用部分も弊社のディレクターがリモートワークで引き受けるというものです。SaaSを使って再構築したいができる人がいない、経理を雇いたいが雇えないというニーズに応えるために、バックオフィスの再構築から日々の運用までをワンストップで対応しております。

画像3

いずれのビジネスも中心にあるのは、「業務とSaaSの機能を理解し、適切な設定をし、正しく活用する」ということです。各SaaSの機能紹介や導入事例を見ていると、なんだか自社でも簡単にできるような気になってしまいますが、実はきちんと活用することはそんなに簡単なことではありません。このnoteではそんな話をしていきます。

1.SaaS導入の前にやるべきこと

SaaS(Software as a Service)はソフトウェアをインストールすることなく基本はブラウザ上で利用するものです。買い切りではなくサブスクリプションモデルで、ユーザーに使いづつけてもらうことで安定的に収益を上げていきます。その大前提として、ユーザーごとに個別のカスタマイズは行ないません。

オンプレのようにじっくりと要件定義をして、開発をしてという手間をかける必要がないので、申し込みをすれば即座に使い始めることができます。(Salesforceのような多機能で複雑なものは除く)

これは導入時の大きなメリットなのですが、手軽に導入できるために現在の業務の棚卸しや課題の整理、業務フローの再設計などをきちんとやらずに導入してしまうケースが増えています。SaaSの機能に対する過度な期待値も合わせて、「導入したけど使えなかった」となるケースの大半は、SaaSの機能不足ではなく導入の仕方、活用の仕方が間違っているのです。

アカウントを開設すればすぐに使い始めることができるといっても、SaaSは業務上で活用するツールの1つに過ぎません。導入前の課題はどこにあって、それを解決するためにSaaSをどのように活用して、それによって業務フローをどういう風に変えるのか、その結果どういう状態になることをイメージしているのか、というAs-Is/To-Beが重要であることには変わりはないのです。

簡単に導入できることと、きちんと設定をして正しく活用できることは全く別の要件なのです。オンプレでもSaaSでも、導入前にやることをやっていないと使いこなせないことに変わりはありません。

2.SaaSのカスタマーサクセスの限界

SaaSといえば、カスタマーサクセスみたいなイメージもだいぶ定着してきました。カスタマーサポートは受け身で対応するのに対し、カスタマーサクセスは導入企業の成功のために自ら働きかけていくポジションです。サブスクリプションモデルではチャーンレートが非常に重要な指標になりますが、継続して使い続けてもらえるかどうかは、カスタマーサクセスが機能しているかにかかっていると言っても過言ではありません。

SaaSでは「何でもできる」というプロダクトは最近はほとんどなくて、営業、マーケティング、会計などの1つの分野に特化しているものが主流です。API連携でSaaS同士をつなぐのも当たり前になりつつあるので、この頃は更にニッチな領域(支払管理だけ、労務管理だけ、など)で勝負するものも増えてきました。

さて、SaaSは機能ももちろん大事ですが、SaaSをしっかり業務の中に組み込んで使い続けてもらうことが一番大事です。そのためには顧客と業務の理解が超重要です。それを担うのがカスタマーサクセスだと僕は考えています。

リリース初期のころのカスタマーサクセス(兼CEOだったりCOOだったりする)は、その業界や業務に対する高い課題感や使命感をもっているので、顧客や業務に対する解像度も高いです。プロダクト自体が多少粗くても、見ている世界観や熱意にほだされて、使い始める人も多いはずです。

しかし、SaaSあるあるだと思うのですが、利用者が増え、会社の規模も大きくなると、初期のカスタマーサクセスの人たちはマネジメントに回り、現場には優秀かもしれませんが、最初のころの熱意や課題感をもっていないメンバーが配属されるようになります。

この段階でどういう問題が生じるかというと、カスタマーサクセスの人たちの顧客や業務に対する解像度の低さです。自社プロダクトの機能や便利なところはもちろん理解していると思うのですが、それをどうやって使うのか、それがこれまであったどういう課題を解決するものなのか、顧客はどういう状況で仕事をしているのか、という部分の理解がない人がほとんどです。

そんな人材が顧客を成功に導くための能動的にアプローチができるでしょうか。SFAやMAツールであれば、自らも使いこなしている人がカスタマーサクセスのポジショニングにつくことはあるとは思いますが、弊社の主戦場であるバックオフィス領域は、その業務をがっつりやったことがある人がカスタマーサクセスにいることはほとんどありません。

会計ソフトのカスタマーサクセスをやっているのに、簿記も知らない、経理の仕事もしたことがない、他の会計ソフトをきちんと使ったことがない、という状態で、解像度を高める方が無理です。カスタマーサクセスはSalesforceが作り出したポジションだと思いますが、業務別に細分化したプロダクトが増える中で、専門性の高いSaaSは違う役割を作り出さないといけないのではないか、という気がしております。

3.業務設計の重要性

カスタマーサクセスに対するただの愚痴のようになってしまいましたね。不快に思われた方がいたらすいません。

僕は「SaaSをどう使うか」ということをずっと考えてきました。色んなSaaSをとにかく触ってきた結果、機能はもちろん大事ですが、SaaS提供側がどこまで顧客や業務の解像度を高めているかが最も大事だという結論に至りました。

さらには、どんなに優秀なAIや自動化機能があったとしても、解像度が低いユーザーが使えば絶対に成功しません。そういうモヤモヤをずっと抱えていた僕がたどり着いたのが業務設計という領域でした。

システム開発は設計という工程がありますが、業務プロセスやフローを作っていく際に設計という言葉を使う人はほとんどいません。だからこそあえて設計を強調することで「導入前にしっかりと考えて、設計しておくことの重要性」を伝えたいと思ってやっています。

オンプレの開発などでは、システム開発部門や企画部門がユーザー部門の意見を取りまとめて、要件定義書にまとめた上でレビューを経て、概要設計・内部設計、プログラミングという流れでシステム導入を進めていたはずです。しかし、SaaS導入に関しては、すでにある機能をどういう風に使うか、自社の状況に合わせるにはどういう風に初期設定をするか、というレベルの話でパパッと導入出来てしまうので、きちんと設計をするということがほとんど行われていません。

オンプレの導入ですら、半分のプロジェクトは失敗だったと言われているのに、SaaSになってさらに設計まですっ飛ばしてしまうと、成功するプロジェクトの方が少ないのではないかと思えるほどです。

各SaaSのWebサイトやCMではことさらに「簡単」「便利」が強調されます。しかし、それは「きちんと設計して、正しく使えば」という言葉が裏に隠れていることを忘れてはいけません。

オンプレがSaaSになっても、ERPがポストモダンERPになっても、所詮はただのツール。すべては使う人次第です。業務を深く理解し、なんのために導入するかを含めたAs-Is/To-Beを言語化し、さらには設計の時間をしっかり取ることがSaaSを活用するための唯一の道です。

僕が初めてユーザーとしてSalesforceを導入した際のベンダーの担当者は、最初の2ヶ月間、紙とペンだけでひたすら業務の整理と理解、それをSalesforceで実現するための設計、業務フローの再構築などを一緒にやってくれました。地味ですが、こういうことがやっぱり重要なのだと思います。

ユーザーはSaaSをまるで魔法の杖のように導入すればなんでもできると過信するべきではないし、SaaS提供側も機能を魔法のように紹介するのをそろそろやめるべきだと思います。

SaaSをフル活用して成功した事例には種も仕掛けもあって、マネジメント層の変化に対するリーダーシップと、導入担当者の業務に対する高い解像度、SaaSの機能理解などが高い次元で融合していたということです。

これだけ業務が複雑化した現代において、SaaSを導入するだけで一気に良くなるというのは夢物語でしかありません。ありもしない魔法の杖を追い求めて、次から次へとSaaSを乗り換えるのではなく、まずは自社の課題や業務にきちんと向きあい、導入に向けての設計にきちんと時間とリソースをかけることが必要不可欠です。

SaaSはこれからますますビジネスのツールとして浸透していくと思いますが、同時に業務設計の重要性もきちんと伝わって欲しいと願っていますし、弊社はそこを主戦場にこれからも活動をしていきます。

だいぶ長くなってしまいましたが、このnoteを読んで「業務設計」という言葉だけでも覚えてもらえれば本望です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ノートの内容が気に入った、ためになったと思ったらサポートいただけると大変嬉しいです。サポートいただいた分はインプット(主に書籍代やセミナー代)に使います。