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メタボ、糖尿をめぐるあるアメリカ人教授の論

相変わらずYoutubeの海辺で波ををかぶっている。最近は「糖尿病」、「栄養」などで米、英の研究者の発信に触れることが多くなった。聞き取れないところ、理解できないところは「文字起こし」機能を使って文字で確認することもあったりして、我ながらご苦労様なことだと思う(それでよく分かったということもあまりないし、文字起こしが完璧というわけでもないようだし、使い勝手も良いとは言えないのだけれど、時に必要に迫られるようにして文字を眺めている)。

ここのところ浸っているのはアメリカ、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(U.C.S.F.)のRobert Lustig(ロバート・ラスティグ)教授の世界。ウィキペディアに依れば、ラスティグ教授は「砂糖および果糖は、ヒトの健康を脅かす」と主張した2009年の講演『”Sugar: The Bitter Truth”』(下のリンクです)で注目されたとのことだが、その底には「なぜ過去30年で急激にアメリカ人に肥満が増えたのか。それと呼応するようにこの30年で糖尿病などの生活習慣病、メタボリックシンドロームも爆発的に増加して国の医療予算を逼迫させるまでになっている。この状況を招いた原因はなんなのか?何が失敗したのか?」という切実な、ある意味、愛国的とさえ言いたくなるような危機感が横たわっているようだ。教授はYoutubeでの発信も活発で、よく目にするのは、肝臓での果糖(Fructose)の代謝の分析から、果糖がどのように細胞内のミトコンドリア(Mitochondria)の働きを阻害して肥満、さらには生活習慣病につながる症状をもたらすようになるのかを熱く語る姿だ。肝臓での果糖の代謝はアルコールと同じ経路を辿るもので、大量のアルコール摂取が「毒」であるのと同じように、(今では普通になった)大量の果糖および砂糖の摂取は「毒」として認識されるべき、というのが危機感を下敷きにした教授の主張だ。

大量の果糖、砂糖の摂取を代謝の面から見ると、最終的に肝臓での脂肪の蓄積につながっていく。これが膵臓からのインスリンの働きを妨げる「インスリン抵抗性」という作用をもたらして、メタボリックシンドローム、糖尿病に直結していくと。教授によれば「インスリンというホルモンの基本的な働きはエネルギーの保存、具体的には体に脂肪を貯めること」とのことで、コインの裏表のような関係だが、血糖値を下げる作用の裏で、インスリンは非常事態に備えてせっせと脂肪を体に蓄えるものなのだと。肝臓の機能が低下すると、膵臓は膵臓でインスリンをこれでもか、これでもかと一生懸命に分泌。肝臓で扱いきれずに溢れたインスリンは、作用の重点をエネルギー蓄積の方においてせっせと脂肪を溜め込む。これがさらに肝臓の機能低下に拍車をかけるという負の無限ループが生まれ、やがてはレプチン(Leptin)という脳に食欲を抑制する信号を送るホルモンの働きまで妨げるようになるのだという(その結果、食べ続ける、肥る、生活習慣病…、という生活上の悪循環に陥るのだと。さらに言えば、これが過去30年でアメリカに広がった食習慣だと)。

糖尿病とは、別の言い方をすれば血糖値を下げるというインスリンのもう一つの機能が働かなくなる病気だが、私などは、それを「(2型糖尿病で)インスリンが効かなくなったのは加齢によって分泌が少なくなったせいだろう」といった程度の意識でしか考えてこなかった。しかし、一方で、そこには、果糖、砂糖の大量摂取を主な因子としてくり広げられる代謝の問題があって、その結果としてのインスリンの過剰分泌という裏腹な現象もあることを教えられた。

教授はさらに「糖尿病では血糖値(Blood glucose level)をまず問題にするが、血糖値は単に数値であってそれ自体が「悪者」というわけではない。本当の問題は、膵臓から分泌されるインスリンの方だ。糖尿病は血糖値に関わる病気ではなく、インスリンに関わる病気だ」と語る。ここから「インスリンの分泌を抑える」という教授の推奨する糖尿病へのアプローチが始まる。まず、インスリンの分泌を促さないような食物を摂れ、というわけだが、それでは何を食べたら良いのだろう。教授の論はある意味明快で「Real food(本物)を食べろ」と。「例えば、果糖(Fructose)は自然界ではそれ単体では存在せず、我々が果物などReal foodとして口にするときは必ず他の糖質や繊維質と一緒に摂るようになっている。ところが、スーパーなどで買うフルーツジュースに含まれているHigh-Fructose Corn Syrup(日本で言う「果糖ブドウ糖液糖」ですね)は果糖を単体で取り込めるように加工されたもので、それだけ甘く、美味しくなった一方で、メタボ的には一気に糖質だけを取り込むことによって問題を引き起こすようになっているのだ」と。 果糖を単体で取り込むジュースとして飲むより、果実としてReal foodを食べた時の方が腸内での吸収も緩やかになり、血糖値も上がらない。その裏返しで、インスリンの分泌も急激に上がることはない(だから肥満にもなりにくい)…というようなことを教授は精力的に語る。

自分のインスリン分泌について調べたことはないが、糖尿病患者として、ついつい血糖値にばかり意識が向いてしまいがちになる。血糖値の裏返しとして、インスリン分泌(さらにはレプチンの分泌?)まで意識を広がられると、なんだか、ちょっと開放感のようなものを味わうことができそうだ…というのは変か?

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