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人が2人死んだ家にて

相互フォロワーの紅茶と蜂蜜さんが『あなたの人生の中で、心に残っている言葉についてのエピソード、短編小説を募集します』というテーマで #言葉の展覧会 を立ち上げたので、ここに小話を出展する。

タイトルは盛っているが、他の投稿者さんのnoteと比べると荒唐無稽な話だ。というのも、これは私がみた悪夢の話だからである。

そもそも私は毎晩誰かの怪談朗読やらを聞きながら寝ている男だ。
眠っている最中に聞いていた話を、夢の中で見たことは何回かある。そうすると、なにか現実で見聞きした作品の影響でみた夢なのかもしれない。

ただ、夢の中の『余計な一言』が、歪な形で脳裏に引っ掛かってている。
その不穏なを思いを晴らしたくて、以下に話を書き残した。



私は暗闇のなかで怪談を聞いていた。
たしかに寝るときはいつもそうだが、このときは畳張りの部屋で誰かと向かい合わせに座って聞いていた気がする。

4つの話を聞き終え、どれもまあまあな怖さだなと思っていると最後の話が聞こえてきた。
『なにがあったか知らないけど2人死んだ家』というタイトルで、2人でその家に入り込み、ナニカをみて恐怖で絶叫する。おしまい。・・・と尻切れトンボな内容であった。

オチに不満でいると、目の前でテレビがついた。
画面のなかでは、モスグリーンのダウンジャケットを着た黒髪の若い男が夜道を歩いていた。
外にいるのは分かるが、どこで撮っているのか分からないほど辺りは暗く、照明はハンディカメラにひっつけるような安物らしくて心もとない。いかにも大学生が撮った感じの映像であった。
「・・・っていう話を聞いたんよ~。怖すぎたから映像にしようと思いま~す」
なんとも間の抜けた声で、ダウンジャケットの眠そうな顔の男が喋る。

すると映像が切り替わり、先ほどまで聞いていた話が映像作品として順々に流れてくる。
残念ながらその内容は覚えていない。ただ、学生のつくる映像特有のチープさがあったが、できる限りの努力と工夫が詰まった映像で、プロにも対抗しうる出来であったのは覚えている。
感心しているとあっという間に4話目まで見終わってしまった。

また映像が切り替わると、最初に出てきた男が暗闇のなかに立っていた。
どうも撮影場所も先ほどと同じところらしい。

「最後に『なにがあったか知らないけど2人死んだ家』の話ですが、こちらは実際に行ってみようと思いま~す」
男がレポーターを気取ったそぶりをすると、カメラが横にスライドして、その家の外観が一瞬映りこんだ。

もしかして、映像の中にいるのは、レポーター気取りの男とカメラマンの2人だけではないだろうか。
私は嫌な予感がして映像を止めようとした。
そのときであった。

テレビ外から「・・・っていう話を聞いたんよ~」と聞こえてきた。
テレビの後ろ、棚の物陰から、映像に出ていたあの男がひょっこりと顔を覗かせる。
映像とは違い、なんの感情も読み取れない顔だった。
「怖すぎたから映像にしようと思いま~す」

突如、テレビの映像が女の人の顔のアップになった。
彼女と目が合うと、体がきゅーっと固くなって動かなくなった。いわゆる金縛りだ。
画面にはノイズがちらつき、女の目元がモザイクタイルのように何重にも重なり始めた。
モザイクが重なっては消え、女の顔があらわになり、またモザイクが重なり・・・。

必死に目を閉じようとしても閉じられない。
見たくもないのに幾千の視線が画面越しに突き刺さる。
ふと妙な言葉が頭に浮かんだ。

『これは夢だから、もう目を閉じている。だからもうここでは目を閉じられないんだな』と。


『目を開ける』ことで私は夢から覚めた。
起きたばかりなのに、息がぜえぜえでたいへん心地悪かった。
夢の内容を書き残そうとスマホを探すと、Twitterを開いたまま枕元に転がっていた。
状況や時刻からして、どうも自分は10分程うたた寝していたらしい。
どんよりとした日曜日の朝だった。

ここからは余談になるが、私は『何があったか知らないけど2人死んだ家』に行ったことがあるような気がする。
だが詳細は全く話せない。

『夢だから、もう目を閉じている。だからもう目を閉じられない』
今後、私がそんなモノをどれだけ見させられるか分からない。
そこでまたあの女と目が合ったとしたら、彼女から目をそらすために私は『目を開ける』だろう。
その目覚めた先で、女が私を覗き込んでいたらどうすればいいのだろうか。

少なくとも、その確率をあげるようなことは口が裂けても話せない。



以上です。
果たして『夢だから~』は言葉なのか一言なのか。微妙なところですね。
誤字、脱字等ありましたらコメントまでお願いします。


2021/9/13
一年たたずして続編(?)が来ました。(??)
以下の話になります。