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ジャズで考えるリーダーシップとフォロワーシップ

書店に行くと 著名な経営者やコンサルタントの方々が 自分自身の経験に基づいて書かれた『〇〇リーダーシップ論』と題された書籍が数多く並んでいます

リーダーシップの捉え方は 自分が属している組織やその業界を取り巻く外部環境によっても マチマチでしょう

ジャズという切り口で考えてみたいと思います


リーダーシップの定義


リーダーシップの定義は 研究者ごとに様々ですが、、、

私が理解しやすかった 入山章栄教授著『世界標準の経営理論』に書かれたニューヨーク州立大学ビンガム校の バーナード・バスによる定義です

リーダーシップ”とは、状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構築がしばしば行われる(2人以上のメンバーから成る)グループにおける、メンバー間の相互作用のことである。

この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他者に対して(その他者がリーダーに影響を与える以上に)影響を与える人のことを指す。

グループ内のある人が他メンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップという。



現代のリーダーシップ理論


入山教授は これからのリーダーシップは次の2点の掛け合わせが重要との多くの研究結果があると論じています 


① トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(以下TFLと略す)

『明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを推奨し、部下の学習や成長を重視する』

② シェアード・リーダーシップ(以下SLと略す)

メンバー一人ひとりが自律的にリーダーのように振舞う

メンバー全員が「自分のビジョン・ミッション・バリューは何か?」ということが腹落ちしていて 自律的に動く 

『SLとTFLを掛け合わせたリーダーシップ』

これが現在のリーダーシップのようです



ジャム・セッションで学ぶインタープレイの意義


上記投稿記事でも記載しましたが インタープレイ を定義しておきます

インタープレイとは あるプレーヤーのインプロヴィゼーション(即興演奏)によって 他プレーヤーが触発されて 同じようにインプロヴィゼーションを返すことで 個人間で競合・共鳴・調和を繰り返しながら お互いのパフォーマンスを高め合うことで 組織としての最高のパフォーマンスに結び付ける感性


ジャム・セッションは ミュージシャンが自発的に集まって形成されていったもので それを継続させるには 最低限の慣習的(暗黙知)なルールが存在します


① アフターアワー・セッションで行われていた

カウント・ベイシーが 毎日譜面通りに演奏させられる楽団員の「ガス抜き」の意味もあって お客さんが帰った後のクラブで 楽団員に即興演奏させたのが ジャム・セッションの始まりと言われています


【楽団員であるミュージシャンの立場】

本来のジャズのベースであるインプロヴィゼーションができる

【クラブ・オーナーのギャングの立場】

ジャズ好きにギャングにとっては ジャズマンのインプロヴィゼーションを観ることができる

【カウント・ベイシー(楽団のリーダー)の立場】

ベテランと若手 それに他楽団ミュージシャンとのジャム・セッションを観ることで 新しいメンバーの発掘にもつながる


② 大前提として プロとしてもスキルは持っているということ

一定レベル以上のスキル・テクニックを持っていないと 参加できません

チャーリー・パーカーがまだ駆け出しの10代の頃 ジャム・セッションでソロを演奏したときに そのひどい演奏を聴いたフィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラマー)からシンバルを投げつけられて ステージから降ろされました。これを機に猛練習をしたチャーリー・パーカーは ビバップを創造していったというエピソードがあります

「仲良しクラブ」といった親睦だけの意味はなくて 真剣な『競演』であったものです

上司が中心になった「飲みニケーション」といった”ゴマすり””踏み絵”飲み会でなないんです


③ 常に高みを目指す

このジャム・セッション 他流試合を行うことによって 大御所やベテランからスキル・テクニックを盗み 自分のものにしていく

そこで習得した インプロヴィゼーション や インタープレイ を自分の楽団にも還元することで 楽団自体のレベルアップにつながる

そして 自分自身のキャリア・アップ ヘッド・ハンティングにも繋がる可能性がある


『常に高みを目指す』というのが ジャム・セッション の大きな意義であるとも言えると思います



このジャム・セッションを売りにして お客さんに見せる商売化したものが『ミントンズ・プレイハウス』であり チャーリー・パーカーのニックネームから名付けられた『バードランド』といったジャズ・クラブだったのではないでしょうか?


『クラブ・オーナー良し』『ミュージシャン良し』『お客良し』の”三方良し”から インタープレイ によって あらゆる方面で いい影響が広がっていったのでしょう


ビバップが生まれ ハードバップが生まれ

1950年代~1960年代のジャズ全盛期になっていったのでしょう

(ここは あくまでも私の想像ですが、、、)



ジャズ・メッセンジャーズの再生計画にみるフォロワーシップ


アート・ブレイキーは 多くの新人を発掘しています

リー・モーガン ボビー・ティモンズ ウェイン・ショーター フレディ・ハバード キース・ジャレット 等

多くのモダンジャズのプレーヤーが ジャズメッセンジャースから巣立っていっています


アート・ブレイキーこそ 【個人重視】リーダー

部下に対してコーチングや教育を行い 部下一人ひとりと個別に向き合い 学習による成長を重視するタイプ

と思えるのですが 

ホレス・シルヴァー脱退後の低迷後に あの名作アルバム『Moanin'』を創造していく過程での重要人物は ディジー・ガレスピーの推薦で加入することになった

ベニー・ゴルソン(ts) 

だったんです


当時 無名に近い作編曲家に転身も考えていた ベニー・ゴルソン は アート・ブレイキーに『大胆な再生計画』を提案します


① メンバー総入れ替え人事

<新メンバー>

リー・モーガン(tp)ジミー・メリット(b)ボビー・ティモンズ(p) 

<旧メンバー>

ビル・ハードマン(ts)スパンキー・デブレスト(b)(ピアノは?ジュニア・マンス?サム・ドッケリー?)


② 就業規則の策定

「遅れない」「休まない」「ステージで眠らない」

そして 統一感のあるステージ用衣装スーツ(ある種のユニフォーム化)


③ 経理管理体制の強化

日銭勘定から 月極一括清算へ そして帳簿管理の導入


④ コンテンツを一新(全て新曲)

♬ Along Came Betty♬ ♬Are You Real♬ ♬Blues March♬は ベニー・ゴルソン作曲

♬Moanin'♬は ボビー・ティモンズ 作曲

♬Come Rain Or Come Shine♬は ミュージカル『セント・ルイス・ウーマン』のために書かれポピュラーソング(1946年)作曲:ハロルド・アーレン


この再生計画で アルバム『モーニン(Moanin')』は大ヒット

ヨーロッパ・ツアーを終えて ベニー・ゴルゾン は脱退(ウェイン・ショーターが新メンバーに)



危機状況下におけるリーダーシップとフォロワーシップ


佐々淳行氏の危機管理語録に

「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」

というものがあります


『クライシス・マネジメント(危機管理)』とは?

危機が発生した時に対応するマネジメントではなく 「危機は必ず発生する」という認識のもとに 日常から 力強い組織・仕組み作りのこと


前例のない危機状態下において

リアルな統率力【リーダーシップ】 

誇り高き服従心【フォロワーシップ】

によって 一致団結して 問題解決にあたらなければなりません


正に『SLとTFLが掛け合わされたリーダーシップ』が必要とされる局面です


ジャム・セッションによって養われた

【インプロヴィゼーション】 【インタープレイ】

が上手く機能してこそ より早い レジリエンス(復興)が出来るはずです

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デューク・エリントンが教えてくれたベテランの役割


1962年 62歳のデューク・エリントンと 36歳のジョン・コルトレーンの共演アルバムの制作が インパルス・レコードで行われました

ジョン・コルトレーンは 厳しい完璧主義から 1曲につき数十回ものテイクを繰り返していたそうで 結局 採用されたのが 最初のテイク といったこともあったそうです


二人のセッション作品の1曲目を飾る

♬イン・ア・センチメンタル・ムード♬ を録り終えたとき

プロデューサーの ボブ・シールが

「どうだい、もう一回録ったほうがいいのかい?」

と聞いたところ デューク・エリントン

「即興演奏は一回しか演奏されないんだ。同じフィーリングでは二度と演奏できないだろ?だからこれでOK」

と発言したことによって このセッションはすべてワンテイクで終了したというエピソードがあるそうです


その後 コルトレーンも 何度もテイクを繰り返すことは無くななったそうです

こんな忠告ができるのも 大御所の大先輩である デューク・エリントンだからできたのでしょうが ちゃんと根回ししたプロデューサーのボブ・シールは 流石です


まとめ


『両利き経営』の必要性が訴えらている ビジネス現場において

リーダーシップはどうあるべきか?

コミュニケーションはこうあるべきだ

と様々な意見がありますが


暗黙知でしかない インタープレイ という概念を より具現化して ビジネス現場に活かせれることが出来れば イノベーション に繋がると考えています


そこには それぞれの役割に応じた プロフェッショナル が必要です


既存組織内だけでの自然発生的な インプロヴィゼーション インタープレイ は期待できないでしょう


オープン・イノベーションの考え方が必要と思います


※ マイルス・デイヴィスの リーダーシップと インタープレイ という感覚がつかみやすい曲

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