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「共創術」試し読み③天邪鬼のお勧め

有名な経営者の書籍やインタビュー記事には、

「企業が対峙する経営的な課題をどう乗り越えてきたのかは、歴史上の人物や出来事から学びとった考え方だった。」

ということが書かれています。

戦国武将の人物像を表す有名なフレーズがあります。

織田信長「鳴かぬなら 殺してしまえホトトギス」
豊臣秀吉「鳴かぬなら 鳴かせてみようホトトギス」
徳川家康「鳴かぬなら 鳴くまで待とうホトトギス」

天邪鬼的視点から考えると、各武将の性格や手法を象徴するものとしてよく引用される言葉ではありますが、これらの言葉が本人によって詠まれたものであるという証拠は存在していません。
 
史実に基づく証拠や当時の文献には記録されておらず、これらの句を本人たちが実際に詠んだと証明する一次資料は存在しないとされています。

よく引用されるとはいえ、これらは各武将の人物像や行動を表現するために後世の人々が創作したと考えられます。

それぞれの武将の戦略や人間性を象徴する形で彼らを理解し、語るための工夫であり、これらの句が本人によるものであるという誤解は、創作と史実が混ざり合った結果であると言えるでしょう。
 
もっと嫌らしい言い方をすると

「これは他者が創造したステレオタイプでしかありません。それぞれの人物像を正しく表現したものとは思えません。」

となります。

 
筆者は「鳴かぬなら 俺が代わりに鳴くよ ホトトギス」でしょうか?

この天邪鬼的発想は「面倒くさい」「厄介だ」と排除されてしまう方も多いかもしれませんが、武将本人が詠んだというエビデンスが存在していないのは事実です。

論理的思考を重視している組織人が、本人が詠んだという根拠となるエビデンスがないにも関わらず、そのことを大前提として前に進むことが不思議と考えるのが天邪鬼なのです。

 
筆者は、戦国武将や歴史的人物や出来事からの学びを否定しているのではありません。

有名な経営者は、書籍などから歴史を学び、他者の考え方などの知識を習得して、自分が置かれた環境や状況に応じた知恵と工夫に変換したからこそ、事業を成功させるなどの偉業を達成できたのです。

 
歴史小説や映画は、著者や映画監督の解釈が含まれていることは、重々承知の上なのです。



相倉久人氏の著書『ジャズの歴史』の中で、あらゆる文化現象でも当てはまる、的を射ている指摘があります。
 
仮にだれかひとりの人間がジャズを発明したとしましょう。それを聴いて自分もやろうと思い立った人間のやり方は、つぎの4パターンに分かれます

 
1.そっくりそのまま真似る
2.そっくり真似るつもりが、こころざしと違って別のものになってしまう。
3.意図的に工夫をこらして変革をこころみる
4.惹かれるけれど真似るのを嫌い、背をむけて別方向(時には反対方向)をめざす。
 
・・・(中略)・・・それをひきつぐ第二世代は4パターンに枝分かれします。その次世代ジャズが第三世代に引き継がれるときには、それぞれふたたび4パターンの選択肢が、ということの繰り返しで、またたく間に亜種・変種の数は膨大なものにふくれあがってしまう。
(引用:相倉久人著書「ジャズの歴史」新潮社 P14~16)

 
そもそも【0→1】のアイデアが、簡単に思い浮かぶはずがありません。
ジャズの歴史は、最初は先人の真似から始まったとしても、意図的に工夫しながら変革を試み、主流とは全く違う方向性でいく天邪鬼がいて、進化していったことを証明してくれています。

天邪鬼とは?(引用:精選版 日本国語大辞典) 

民話などに悪役として登場する鬼。

何事でも人の意にさからった行動ばかりをすること。
また、そのようなさまやそのような人。ひねくれ者。つむじまがり。


他者と同じことをしていても、新しい創造はできません。

最初は他者の真似であったとしても、どこかに「自分らしさ」を足していかなければ、ただの猿真似にすぎません。
 
どこかに「自分らしさ」「俺流」といった個性、全く別の視点から見た考え方や使用方法があるからこそ、新しい創造が生まれます。

 
ジャズの即興演奏の世界では、天邪鬼は重宝されます。
 
「井の中の蛙 大海を知らず」これでは、新しい創造は難しいです。
井の中の蛙の多くは「されど空の青さを知る」と言い張ってきます。

現実論として「大海に出なければ、大海の広さも、風の強さも、空の広さも高さもわからない」という回答になるはずです。

 
ジャズは、ジャム・セッションという異種格闘他流試合に参加して、自らの腕をためし、自分の腕を磨いていきます。
 
「今よりも便利になり効率化されて生産性向上になるだろうけど、やったこともない、新しいことなので理解できていない。噂では大きなリスクも含んでいることもあるので、他社の動きを見ながら決めていこう。」

総論賛成、各論反対では、前には進みません。



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