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利島と下田に行ってきた(その3)

僕は嘘つきだ。「利島と下田に行ってきた」というタイトルをつけておきながら、利島の話も下田の話もまだ書いていない。そして気づいたらもう3ヶ月も経ってしまっていた。

僕は正直者達という劇団を主宰しており、9月に予定している次回公演に向けて台本を書いているところなのだが、あまりに台本が書けないので、せめてこっちの旅行記を進めておこうかなどと考えている。

しかし、3ヶ月前のことを思い出すのは難しい。その間にはいろいろなことがあった。クリスマスの頃公演に出演したり、最近だとオーストラリアに行ったり。ただでさえ記憶力の低下が著しいのに、間にそんなことが挟まったら何があったかなんて忘れちゃうよ。

まあ、逆の捉え方もできるわけで、今覚えてることは本当に印象に残っていることだと言うこともできる。より厳選された旅の思い出を書いていくことにしよう。

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港に降り立った私の目の前には利島の中央にそびえる宮塚山がドカンと見える。今日の目的地の一つはそこだ。今は標高0m、宮塚山の標高が507mで、写真の通り島はきれいな円錐形だから、ここからの道のりはずーっと500mの上り坂ということになる。気合を入れ、まず便所に向かう。体重を軽くしいよいよ出発。港のすぐ近くの集落をまず目指すが、本当に上り坂しかない。右に行っても左に行っても上り坂だ。集落の中も基本10%超えの傾斜だ。ちなみに人はいない。集落を突っ切りさらに登っていくと、道路工事が行われていた。ここで私は、私の利島の印象に強く影響するおっさんと出会った。

工事をしている横を通っていると、なんだかこっちを見てくるピアスのおっさんがいた。確かに人通りも少ないところだし、旅行者は珍しいよな、と思って軽く挨拶すると、おっさんは「山登るの?」と聞いてくる。私は明らかに登山者という格好をしていたのでウソをつくわけにもいかず「そうなんです」と答えたところ、おっさんは「台風で登山道が崩れて登れないらしいよ」と衝撃的な情報をさらっと言ってきた。まじかよ。なんのために利島来たんだよ。正直動揺を隠せなかったが、「まあ、いくだけ行ってみてダメなら展望台とか見ます」と強がった返事をした。「地元の人だけが登れる道があるらしいよ」とおっさんは勧めてくれたが、そんな地図にもない道素人には登れないだろ。と心の中で悪態をついて、先に進むことにした。

しかしまいった。台風の影響を考えてなかった。登れないんじゃあなんのために利島に来たんだかわからない。山頂で食べようと思って持ってきた、リュックの中の諸々の食材はどうする?正直テンションがだだ下がりでおっさんを逆恨みしかけたが、悪い情報は早めにわかったほうがいい。島の裏側にある展望台を目的地と定め、とりあえず進むことにする。台風め。仕事でも旅行でも俺を苦しめやがって。眼下の海に見える、隣の島に向かうさるびあ丸は綺麗だった。いや、これも心象風景だったかもしれない。心の中では見えていて、それがせめてもの癒しだった。

利島はとても小さいので、あっという間に島の裏側についた。裏側には本当に何もなくただ道があるだけだった。そして、登山道の入り口に着いてみると、ほんの数m先から倒木が道を塞いでいるような状況で、その先とても登れるようには思えなかった。あのおっさんが言っていたことはほんとうだったんだ!とパズーみたいな気持ちになって思ったが全然嬉しくない。しようがなく、近くの展望台に望みをかけ行ってみることにする。

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結論から言うと、この展望台(南ヶ山園地)はとても良かった。「今日はここを山頂とする!」(by山と食欲と私)と決めてしまえば気持ちの切り替えはできるもので、ただの景色のいい園地だったけど、2時間くらいのんびりしてしまった。

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人はおらず、風は穏やか。目の前には太平洋とさらに南に続いている伊豆諸島の島々が見える。あの島も行った、あの島ではこんなことをした、と思いを馳せながら(詳しくは以前の旅行記等を参照)、チキンラーメンにソーセージをぶちこんで日本酒と一緒に腹に収めた。そしてちょっと文庫本を読み、昼寝をした。ああおだやか。

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しばらくのんびりし、酒もまわって気分が良くなってきたところで後半周の道のりを再び歩き出す。相変わらず何もないが、道のあちらこちらにブロワーが落ちていたのが印象的だった。

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そういえば道中、あの工事をしていたおっさんとふたたび会った。一度車が通り過ぎた後、物凄いバックギアの音を立てて戻ってくるから、殺されるかと思ったがおっさんが言うには「登山道どうでした?」と。「全然ダメです」といったら「来週から修復の工事請負ってるんですけどまだ見に行ったことないんですよね」と。こんな狭い島なのに見に行ってないんだ。てかそんな工事発注されてるくらいなら絶対登れないよね。いろいろ言いたいことはあったが、そこは口をつぐんで円満におっさんとは別れた。

園地から30分程度であっというまに集落にはもどってくることができた。集落の入り口に郷土資料館みたいな施設があったから入ってみることにした。私の他には暇そうな館長らしき人しかおらず、展示を見ていたら案の定話しかけられた。で、昔の様子を収めたDVDを見せてくれた。ほんの数十年前まで利島には大型船が着眼できる港がなく艀をつかって物資や人を揚げ下ろししていたそうだ。その様子をおさめた映像だったのだが、村人総出でずぶ濡れになりながら艀を海に押し出しているさまは本当に過酷であった。これが数百年前とかではなくほんの50年ほど前まで行われていたのだ。今でこそ気軽に行き来できるが、離島で生活することの大変さを改めて認識させられた。

以上で利島一周の旅は終了。島に2つある商店の1つでビールを買い、下田に向かった。ゆり丸という小さい船でこれまた甲板でビールを飲む時間が最高だった。

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今回の利島は7時間ほどの滞在で、登山できないというアクシデントはあったが意外と満喫できた。次は宿泊して登山と星空観察をしたいものだ。

次は下田編だ。ちゃんと書くぞ。

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